11時限目
河川の水を飲み込んで、旋風はたちまち肥大していく。その様相はさながら登り龍のごとき荘厳に満ちていた。
彼女たちの悲鳴も、僕のせせら笑いも、音の刃はみな見境なく斬り捨てる。べらぼうな力を振りかざす手の元を離れたいら立ちが、我ながら恐ろしい。
刹那、身にまとっていた衣装が灯りだして、淡雪のようにほろほろと夜闇に四散した。はっとして胸元に目をやると、覚えのあるスカーフがなびいている。
「へ、変身が解け……。もしかして、エネルギーを使い果たしたのか?」
毛むくじゃらは必死になって僕の肩にしがみついている。頭にはひび割れたノイズが延々と走っているだけで、アイスの答えはなおも聞き取れない。
統制を失った銀灰色の渦が本能のままに暴れ始める。砂利を巻き上げて、木々をなぎ倒しながら、殺意はひたすら泣き叫ぶ。あまりにも痛々しいその光景に、僕は生涯初の同族嫌悪を抱いた。
「――うるさい、うるさいうるさいうるさい!」
わかってる。自分がどれだけみじめな存在か、どこまで低俗な思考をしているか、僕は痛いくらい知ってるんだ。だから、もう、
「黙ってよ!」
いくら耳を塞いでも、罵詈雑言の嵐は絶えず荒んだ心に吹き付けて、僕の虚栄を削ぎ落としていく、貧弱な裸体を晒していく。
怒りを吐き出して軽くなった躯が、抗う術もなく宙に舞う。文字通り感情に飲まれたんだと、僕はジャミングの直中でようやく悟った。
乱気流の影響なのか、立ち込める暗雲が月影すらも遮って、いよいよ夜のとばりが下りる。もはや右も左も、上も下も判別できない。今の状況を四字熟語で例えるなら、おそらく「自業自得」だ。
僕は正義の味方なんかじゃない。所詮二人の級友を殺めようとした、単なる復讐者に過ぎない。これがその報いなのだとしたら、僕はいい加減覚悟を決めるべきなんだろう。自らが招いた災厄を鎮めるために、たった一匹の仲間を救うために。
「ごめんね……」
輝きを失ったアイスを掌に包んで、強張った喉仏から謝辞を絞り出す。僕が不甲斐ないばっかりに、余計怖い思いをさせてしまった。償えるのならば、このがらんどうの心を喜んで差し上げよう。
「騒がしいのう」
ふと言い放たれたその一言が、河道に突如たる静寂をもたらす。光明が訪れた潤沢を帯びた視界に、つうっと縦長の涅色が降り立った。
「そちはまだ死ぬべきでない。贖罪を果たすためにも、平和の礎となってもらわねばな」
じわじわと拡がっていく涅色が、徐々に僕の意識を染め上げていく。やがて腫れぼったい瞼を閉じると、頬に温かい雨粒がこぼれた。
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