4時限目

 感情の昂ぶりが濁流と共に引いていく。便秘の時にでっかいう○こを出したような、とても爽やかな気分だ。


「あー、スッキリした。ありがとう」

「は、はいなのです……」


 白玉を彷彿とさせる滑らかな頬を引きつらせて、少女は返されたハンカチーフを半眼で拝んでいる。


「えらく立ち直りが早いね。そこまでショックじゃなかったのかい?」

「そんなワケないでしょ。でも、ある程度踏ん切りはついたわ」


 いつもの私なら、この状況でねちねちと愚痴をこぼしていただろう。予定調和が狂ったとすれば、それはおそらく彼女たちの仕業だ。


「ふふふ、頼もしいのう。やはりそちを選んで正解じゃったな。ほれ能間、わしからのささやかなプレゼントじゃ、受け取るがよい」


 言い終わるや否や、ピンッ、と小さな返照が宙に舞う。その軌道を目で追っていると、突如眉間に軽い衝撃が走った。苦痛に表情を歪めながら、机上に落ちたそれを拾う。


「いづッ! なんですか、これ?」

「黒百合学園の徽章に決まっておろう。そちがいらぬなら、わらわが捨ててしまっても構わんが?」


 黄金の十字架に重ねられた百合の紋様。それは紛れもない黒百合学園の校章だった。


「いえ、大切にさせていただきます!」

「よろしい。そうそう、一つ言い忘れておった。✕組から異端者が全員除籍した場合、自動的に通常学級へ配属される手筈となっておる。施された教育はそちとて同じじゃからな」

「太っ腹ッスね」


 つまるところ、ここにいる三人を一般人に更正させればいいのか。これは俄然やる気が湧いてきた。


「さてと、わだかまりも溶けたようじゃし、改めて自己紹介といこうかの」

「はいはーい! ウチは冥堂めいどう刃七ばななッス!」

「うるさいなぁ。四人しかいないんだから、大声で言う必要ないだろう」

「もう、わかってないッスねAカップさん。こういうのは気概の問題なんスよ」


 あのお転婆は刃七さんか。なるほど、南国を思わせる底抜けの陽気さだ。


「わざと言ってるよね君。僕には内倉うちくら太武たいむというれっきとした名前があるんだ。もう二度とAカップと呼ぶんじゃ……」

「よろしくッス、Aカップさん!」

「人の話を聞かないか」


 あの貧乳が太武さんっと。彼女には悪いけど、確かに制服を着ていなければただの美少年にしか見えない。意地っ張りでなければ危うく惚れていただろう。


「は、はじめまして、明日斗あすと之未このみなのです。よろしくお願いするのです!」

「あぁ、よろしく之未さん」

「ウチと態度が全然違うッス」


 あの臆病そうな子が之未さんね。潤沢なキューティクルにきめ細やかな肌が合わさって、その容姿はまるでお人形さんのよう。私の経験則では、こういうタイプはほぼ100%女子グループのリーダーに目の敵にされる。


「ん、私が最後か。ええと、私の名前は……」

「メガネさん!」

「鼻たれ小僧」

「約二名的外れな回答をありがとう。能間のうまるるよ。あなたたちに殺されないよう、せいぜいがんばるわ」

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