2時限目

「のう明堂。何故わらわが憤慨しておるか、わかっておるな」

「ウィッス。ウチがもっちゃんを粉微塵にしちゃったからッス」


 事の顛末を説明しよう。視界不良によって照準を定めずに射出された極太怪光線は、あろうことか近くにいた望月先生に直撃、結果としてモザイク必至の惨状を招いてしまったのだが、望月先生の脅威的な自然治癒能力によって、散り散りになった肉片はあっという間に元通りとなったのであった。完。


「わらわも長いこと教師をしておるが、生徒に殺されたのはこれが初めてじゃ。撃ったのがわらわでなかったら、今頃そちは牢屋送りじゃったろうに」

「まぁ、僕ならあの程度余裕で防げたけどね」

「いや、そういう問題じゃないでしょ」


 素知らぬ顔で答える少女についツッコんでしまう。どうやら慎ましやかな風貌とは裏腹に、なかなか強情な性格をしているようだ。あくびを吐くUMAが、憎たらしさをさらに助長させる。


「まるで反省の色が見られんのう。ならここは一つ、学校生活におけるルールを設けようではないか」

「ルール……ですか?」


 行儀よく椅子に正座している少女の手には、破かれた形代が握られている。せっせとセロハンテープで接合しているけど、あれは普通使い捨てのはずでは?


「『黒百合学園の敷地内における武器、魔法、呪術の使用を固く禁ずる』、よいな」

「了解ッス。ちなみに、違反したらどうなるんスか?」

「問答無用で退学じゃうつけ! よもやそちら、ここに来た理由を忘れたのではあるまいな」


 私を除く三人が一斉に肩をすぼめる。気が付くと私は、掌を望月先生に晒していた。


「どうしたんじゃ能間、トイレは礼拝堂を出て左手に曲がったところじゃぞ」

「そうではなくて、望月先生にお聞きしたいことが」


 懸命に平静を装って、真新しいスクールバッグのファスナーを開く。小じわの走っている冊子を掲げながら、私は意を決して腰を上げた。


「黒百合学園のパンフレットによると、一年生は二階に三クラス、三階に四クラスの計七クラスで編成されています。それどころか、礼拝堂を教室として利用するという記述すらありません。なら私たちは、このイロモノ集団は何なんですか!?」


 いよいよ私のSAN値が限界近い。人造人間、魔法少女、陰陽師、挙句の果てに不老不死ときた。今なら宇宙人でも、神様だって信じられる。


 望月先生は首にかけられたロザリオを指で弄びながら、今しがた上半身を消し飛ばされた人間とはとても思えないキメ顔で私にこう告げた。


「ここは一年✕(チョメ)組。異端者を更正する特別学級じゃ」

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