1時限目
「ちょっとAカップさん、学校になんてヤツ連れてきてるんスか! さっさと追い出してくださいッス!」
「だから、さっきからそれはできないと言っているだろう。コイツとの契約上、僕はコイツを監視下に置かなければならないんだ。あとその呼び方はやめてくれ」
「ふ、二人とも、落ち着くのです……」
神々しいステンドグラスにそぐわない、けたたましい怒号がこだます。黒百合学園の制服だけど、もしかして彼女たちが私のクラスメイトなのだろうか。
「どうしたのじゃ、登校初日から騒ぎおって」
「別に喧嘩なんかしてないよ、学園長。彼女が勝手にぶうたれてるだけさ」
「違うんスよもっちゃん。ウチはただ――」
望月先生が口論の仲裁に入り手持ち無沙汰になってしまったため、礼拝堂の内装をしばし眺めていると、アメジストのようにきらびやかな瞳とぶつかった。
「ねぇ、そこのあなた」
アッシュのウェーブヘアをなびかせて、少女は恐る恐る自分を指差す。
「そ、あなた。随分と揉めているけど、何があったの?」
彼女はなかなか口を開かず、うつむいてもじもじとはにかんでいる。おそらく私と同じ、もしくはそれ以上の人見知りなのだろう。先の一件が脳裏をよぎって、形容しがたいシンパシーを覚える。私が彼女に抵抗なく話しかけられたのは、きっと波長が似通っているからに違いない。
「実はあの……手前の方は動物が苦手らしくて、奥の方の肩に乗っている兎が、その、怖いみたいなのです」
「兎?」
彼女が兎と呼ぶその生き物は、私の目には奇怪なUMAに映った。可愛らしい様相を呈してはいるけど、蛍光色の体毛を逆立てていて、尻尾は精確な立方体を成している。
「もうらちが明かないッス。こうなりゃ実力行使あるのみ、〝フル・カット〟!」
ガシャンガシャン! キンキンキン!
「え?」
鋼鉄の塊へ変貌を遂げた右腕に、否応なく視線を釘付けにされる。砲門らしき穴隙では、赫々とした粒子が渦巻いている。
「どうやら君のようなポンコツは、一度叩きのめしてあげないといけないらしいね。〝アイシング〟!」
シャララララン♪ ポワーッ!
「は?」
今度はもう片方の生徒の足元で光芒が伸びたかと思うと、それは徐々に丸みを帯びて、やがて眩いプリズムを迸らせた。露わになった姿は服装から髪色まで、まるっきり別人だ。おまけに頭にはでっかい耳のようなものまで生やしているし。
というか、なんだこのB級映画みたいなノリは! 私のリアリズムが甚だしく脅かされている。
「悪いッスけど、ウチの装甲には傷一つ付けられないッスよ。吹き飛ばされたくなかったら、今すぐここから立ち退くことッスね」
「立ち退くのはそっちさ。君のちんけな攻撃もろとも返り討ちにしてあげよう」
ヒートアップしていく熱量が、チリチリと頬に伝わってくる。あの中に入っていったら、私なんて一瞬で蒸発してしまいそうだ。緊迫した状景を固唾を呑んで見守っていると、不意に既視感を抱かせるフォルムが私の両脇をすり抜けた。
十字架? 違う。あれは確か、
「うわっ! なんスかこれ、前が見えないッス!」
「チッ、小癪な」
二枚の形代は編隊飛行のような旋回を繰り広げたのち、勢いそのままに彼女たちの顔に貼りついた。
「喧嘩は、やめるのです……」
か細い声音が耳をくすぐる。まさかあの形代は、この子が?
「之未の申す通りじゃ。二人とも少し落ち着かんか」
「いけません望月先生! そこにいたらあぶn」
ブウゥゥゥン……カッ!!!
「「「「あ」」」」
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