第2話 配達"専業"家業(短編)
私の名前は「アウグスト」
どこにでもいる冒険者の一人である。
その私は、いつもの様に冒険者ギルドへ赴き、依頼が掲示されている箇所をのぞき込み、その依頼内容を確認していく。
ただし、私が見る依頼内容は"配送・配達関連"だけに絞ってである。
そうそう、配達にもランク分けがなされている。
これらランク分けも冒険者としての実力により、重要な品物を託されるかどうかの信頼関係が密になっているところからきている。
それもそうであろう。実力も無い者が請け負って、高額な品物が紛失しました盗まれましたなどとなってしまっては、
私の場合は、A~Gのクラス分けでいえばC、つまり二流といったところだ。
Bクラス以上になってくると、それ相応の腕っぷしと実績が必要になってくるとの事で、ある程度の討伐依頼による実力が示されなければいけないという事にもなっている。
その為、Bクラス以上になれば高額な報酬が含まれる依頼というのが多岐にわたるのであるが、これらは討伐のための遠征の"ついで"に達成したりする事がザラなため、討伐を行う冒険者たちにとっては一緒に受ける依頼として消えていくものでもあった。
また、逆にDクラス以下となるとそこそこの報酬となるため、旅費を浮かせれるかどうかの微妙な金額が設定されていたりするのが常である。
ここら辺は
閑話休題
依頼掲示板に張り出されれているCランクの依頼を一通り確認してみているが、私にとって願っている方角へ向かいそうな……、そもそも配達に関する類の依頼が見当たる事がなかった。
その願っている方角へ向かわない内容のものであるなら、一週間近くかかる港湾への配送商隊の護衛に、となりの国…といってもこれも港町方面への配送、あとは街中の重量物ばかりである。
その中に、惜しい、実に惜しい物がある。
とある地方交易都市への配送依頼があったのだが、これは護衛も兼用している内容であったのだ。向かいたい先は、まさにその地方交易都市の近辺。
だが、これは私の仕事の範疇、配送・宅配限定ではなくなるので、選択ことは無いのである。
一通り確認するも、やはりこの腹具合と舌具合からくる目的地に向かう内容の物は存在していなかった。実に残念である・・・。
しかし、今日の様に、狙いすました物が無いという日は稀にある。
毎日毎日、そんな都合の良い配達依頼がある事自体おかしいものであるのだ。
そうおかしいのである。
決して季節的に今が旬といえる山菜の天ぷらが食べたかったから、そのほかの配送依頼を無視したとかそういう事はない。ないのである。うむ。
「仕方がない、今日は諦めて屋台巡りをしておくか・・・」
諦めのため息と共に踵を返して出ていこうとした時、
「あ、アウグストさんすいません。もしお暇でしたら少々よろしいでしょうか?」
と、ギルドの受付のお嬢さんからそう告げられた。
大抵の冒険者などは、たぶんこの言葉を発した彼女から、さらに声をかけられた時点で、良からぬ思いを抱きそうでもあろうが、相手はその道の
呼び止められという事は、つまり仕事の話であるのだけなのだ。
しかし、そういう状況、受付嬢から声をかけられるという状況に、負の感情を持った視線を感じとるのだが、感じとった先へと視線を向けると、みながみなすぐに顔をそむけるいつもの光景である。
先ほどの受付のお嬢さんも、視線は下向きになっていたりするのは、いつもの事だろう。
受付の横から会議室へと案内され、待っていてほしいと言われ椅子へ座りしばしまつと、先ほどのお嬢さんがとある書面と箱を手に戻ってきた。
相変わらず視線は下を向いてはいるが。
「す、すいません、この小包を山岳街のギルドへとおねがい「わかりました。」」
「へっ?」
言葉を被せる形で即答をする。
当たり前である。あの旬の食材が取れる時期に山岳街へいく依頼である。
受けないという選択肢はない。
あの山岳街の屋台にある、旬の山菜をつかった天ぷらというのが実に旨いのだ。サクサクとした衣の中にふっくらとした山菜の香り、軽く塩がつけて食したその後にエールをかっこむ。これまた至福のひとときを堪能できるのだ。
そう、至福のひとときが向こうからやってくるとは…おっと、あの味をエールを妄想しただけで涎が垂れていたみたいだ。
「ひっ、あ、あの・・・」
「ああ、すまない。それで何か条件などがあるのでしょうか?」
口からこぼれそうな涎を、持参しているハンカチでふきとり、続きの話を聞き出す。
行くことは確定である。ならばあとの条件があるかという話だ。
「は、はい・・・え、ええと、報酬はあちらのギルドにて受け取ってもらうのですが、明後日までにどうしても必要になるとの事で・・・」
「それで、報酬内容は?」
「はい、今回は急ぎという事で金1枚という形となります」
金1枚。
少し破格ではないだろうか?
金貨が出てくる配達依頼といえば、クラス的にはAクラス以上からと相場が大体きまっている。
物も貴重品やら重要品など、とてもじゃないがCクラスが受けるには破格すぎるのだ。
だが、あちらの港町での宿泊費用をみても、一週間ぐらいいても余裕でおつりがきそうな額でもあり、何かしらの事情がからんでいる可能性が高いという予想が出てくる。
だが、今はそんな事は関係ない。
あの揚物が……天ぷらという至福というものが私を呼んでいるのだ。
そんな物は至福時間に比べればどうでも良い事である。
「え、えぇと、今回は配送依頼で今間まで遅延以外では確実に届けているという実績から指名依頼と・・・なってい・・・ます。」
指名依頼。
この場合は、
つまり、私の過去の実績からそう判断されたという事であり、それ以上でもそれ以下でもないのだろう。
「わかりました。さっそく向かおうと思いますが、よろしいでしょうか?」
「え、、えぇ・・・はい。よろしく…お願いします」
そういって、営業的な笑顔を向けてくる。
が、少し顔が引きつっている風にも見えたが、それはみなかった事にするべきであろう。
そのまま依頼の荷物を預かり、独自の背負い箱へと収納して封をかける所までを確認してもらいギルドからさっそく出立していった。
山菜の天ぷらよ、待っていろ。
****
今回も街道ですすむのは避けるべきである。
下手に急ごうとしても時間がかかってしまう問題が多発する恐れがあるからだ。
そこで、今回は旧街道といわれる物…を整備する為に作られた、現在では獣道状態になってはいる急こう配が多発する道を選択する。
急こう配があるため、一般の旅人などは普段利用しようとはしない。ただ体力を消耗するだけであり夜道も危険であるためだ。
もし使用するならば何かしらの"訳アリ"が通るだけである。といっても、道という道らしい物でもないのでそのまま迷う人も多少いるみたいである。
事実、その道を使い行方不明となる事も稀に発生していたりするのである。
私も最初はこの道で迷った事があった。懐かしいものである。
今では、まるで知った庭を探検する様なものになっているため、とくに"迷う"という事はありえないのだが・・・
ではと、少し気合を入れなおし、速足で野道を走破し、峠も数か所乗り越え、いざゆかん山菜の天ぷらとエールの宝物庫へ
異変が起きたのは、目的となる山岳街がそろそろ見えだそうとする二日目の昼を回ったぐらいだろうか。
不眠不休で早歩きでいた時だったが、不眠不休というが、私にとってみれば特別な事でもない。
何故か知らないが、数日間寝なくても特に変調をきたす事がないのである。
問題としては、その後寝貯めするかの様に眠りふけるのだが……。
利点として、空腹も時には最高の調味料になるという点であろうか。
一時、五日ほど移動に費やした際に、その後に食した食事が旨かった事旨かった事。
あとエールの廻りも早かった事、いい気分になれて、旨い揚物が食べれて、ホクホクした事があった。
閑話休題
異変といっても、なんら変わり映えのしない物取りが現れただけであった。
ただ、見た目もどうも"かなりよい身なり"の恰好をしているが、物取りである事には変わりはないだろう。
その物取りは一人二人ではなく、複数人ときている。
その中の一人が、こちらに武器を構えて威嚇しながら
「運び屋、その背中の荷物と金を置いていけ、そうすれば命まではとらん」
と、定番とも呼ばれる台詞を述べてきた。
しかしだ、私がやっと手にした仕事ともいえる配送稼業で失態を行ってしまえば、今後の信用問題、果ては依頼すら受けれなくなり、各地のエールと揚げ物を堪能するという夢…もとい、生活が出来なくなるという死活問題に直結する事になる。
ならば解答はただ一つ
「断る」
「そうか、なら命も置いていけ!」
またしても定番な台詞が放たれて、剣を振りかぶってきた。
私としてはそれも拒否したいのだが、配送品を傷つける訳にもいかない、背中を見せればその荷物さえも被害を受けるのは自明。
ならば、常に正面をむいて荷物を護らなければならない。
と、思案し、その剣にあたる訳にもいかないので、私はその剣を"そらすために、素早く腕で払う"事にする。
「パキン」という金属の音とともにその剣は私へと届く事はなかった。
斬りつけようとしていた剣は三つに別れていたのである。
そう、刃の部分が「縦」にさけ、柄の処で折れていたのだった。
「はぇっ?!」
奇妙な声が漏れているみたいだが、そんな事を気にも留めずに続けて同じ様に後ろの人物たちも私に剣をふるってきた。
荷物は守らなくてはならない。すばやく振り向き"先ほどと同じように"対応すると、そのどれもが先ほどと同じ様に金属音とともに三つに分かれていった。
背後からも来る事も察知し、そちらに体を向けると矢が放たれた様だったが、それも素手で受け流してみると、縦に裂けて地面へと落ちていた。
「な、な、な・・・何なんだいったい…何なんだよ…」
周囲を囲んでいる野盗からは、そういう言葉を放ちながら、自らの得物を震える手で見ていたため、これ以上何もしてこないと判断し、
「では、私はこれで」
そう言い放ち、その場を速足で去った。
なぜなら、多少の時間が経過してしまったと感じたが、それを取り戻すべくとった行動にすぎないからだ。
そうそう、物取りの処分は私の依頼範囲ではない。
なので、今は彼らの事は放っておけば良いだろう。
しかし、この足止めによって時間がかかってしまったのはまずそうだ。
これでは依頼達成の時間が遅くなってくる可能性が出てきた。
そうなると、その報酬での屋台回りを行おうとしていたが、屋台の営業時間に間に合うかどうかが少々不安になってくる。
仕方ない少し急ぐかと、獣道からはずれて独自の道へと方向を変え"少し本気で走る"ことにする。
それにしても、街道ではない裏道を使っていても、ああいう野盗にあう事があるのが解っただけでも良しとしよう。
その後は野盗に襲われる事もなく、目的地の山岳街へとたどり着き、門番に怪しい奴として取り調べ室にしばらく監禁され、ようやく目的地のギルドへ赴き、受領サインをもらい報酬をうけとり屋台市へと走るのだった。
~~~~~
その後、狙っていた屋台が定休日で閉まっており、
大の大人が屋台の前で膝をついて涙を流していたのが目撃された。
~~~~~
<首になった元私兵の愚痴話>
なぁ、ちょっと聞いてくれるか?
ちょっとした命令で俺たちはとある旧道で待ち伏せしてたんだわ、
そこに通る運び屋から荷物を奪って始末しろといわれたんだが、
そいつは不気味な奴でな、みるからに野盗だろという顔してたんだわ。
あ、こいつは悪い奴だと直感で思ってよ、とっとと始末して報奨金貰おうと斬りかかったんだわ、
そしたらどうなったと思う?
え?それがよ、支給されたばかりの剣が折れっちまったんだわ、
えっ?どんだけ堅いものをって?違う違う、まず折れ方がオカシイんだわ
剣がよ、縦に裂ける様に折れたんだよ、縦にだよ?信じられるか?
あ、オメェ信じてねぇな?マジだって。
え?なら裂けたっていうだろ?って?
ああ、折れたでいいんだよ。柄のところからも折れていたし…
縦に綺麗にさけて柄の根本で折れたんだよ…しかも魔導銀で出来た代物をだぜ?
信じられるか?俺もお前も、いままでいろんな体験してきたと思うがよ、
それが仲間内の全てに起きたっていったら信じるか?信じないよなぁ・・・そうだよなぁ・・・
恐怖とかそういう物はなかったんだが、なんというか・・・不気味な奴を相手したって気分だったわ…
ああいうを、関わり合いにならない方がいいってやつなんだろうな、絶対にな
<とある猟師の証言>
不思議な事ってあるもんだな。
なにしろ、山の中に一筋の道が出来てるんだわ。
その道ってのをたどってみるとな、なんと山岳街まで続いてたんだぜ?
人の手で作られたって言う割には荒いし、獣道という割には、まっすぐすぎる道だ。
実際に、その後をたどってみたんだが、まるで、何か得体のしれない物が通り過ぎたとでもいうぐらいの木々や山地の荒れ具合だったんだわ。
けど、そういう得体のしれない巨大な獣なんてみた事なんてねぇ
仲間内に聞いても同じだ。
ほんと、何なんだろうな・・・あれ・・・
とある冒険者の配達家業 zaq2 @zaq2
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。とある冒険者の配達家業の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます