第14片 星へ落つ




ある日、

目覚めるとぼくの身体に

赤いつばさがはえていた


冷たい鋼鉄の赤いつばさ  

炎の吐息を吐き出して

前をしかと見据え、まっすぐの姿勢で 

大空を切り裂くように飛ぶ



空が切り裂かれるのではない

ぼくのからだがひき裂かれるのだ

ぼくの悲鳴を糧として加速するのだ


大気はおびえ、太陽の光がつらぬき

風は轟々ごうごうと非難する

不自然、不自然、自然ならざるもの


科学の結晶、人類の夢

飾りつけられた言葉の裏側で

しかし空に出てから、初めて気づいた


ぼくは異形のトリであり、

最初から、ヒトではなかったのだと



[ 回る日 ]



ぼくは、ほくそえんだ

遥かな高みから

地上にあまたひしめく劣った種を俯瞰ふかんして

優越の海におぼれた



ぼくは哀しかった

どんなに探しても、

残酷な空には、誰の意識も存在しないのだった


迎えてくれる誰かを求めて

寒さにふるえる自身をきつく抱きしめる


こんなにも広くて大きな空なのに

鉄のオブラートに厳重にくるまれた

ぼくはいつもひとりぼっち



[ 還る日 ]



そして、ぼくは役目を終え

この尊大な宇宙のかたすみで

流れるように、優美な曲線をえがきながら

あなたに向かって落ちてゆく


白い高熱のヴェールが、ぼくの皮膚をはがし

こぼれたカケラは、小さな羽根となって

闇しかない空間に、さあっと色をちりばめる


オレンジ色に燃える髪は、幾筋もの光の矢となり

無情に散らばり、儚く消えた

せまりくる紺碧の膜はナイフとなり

ぼくの目をえぐり、つぶしていった


共に吸いよせられる、星のカケラが

もはや鉄の芯しかのこらぬ

ぼくの手足をちぎりとっていく


ぼくの、ぼくの

赤いつばさがもげていく


望んで得たつばさではないけれど

孤独ばかり与えたつばさだけれど


それでも夜が白むころに空を翔け

ピンク色の天空に、朝が生まれる瞬間にたちあえば

薄もやに響きわたる地球ほしのうぶごえに

ただ嗚咽することしかできなかった


感動  

胸がはりさけそうなほど、自由と創造に満ちた

ぼくの愛しい赤いつばさ


かつてイカロスは、自らにつばさをくくりつけ

天を征服しようとして、神の怒りに触れ、死んだ


ぼくはイカロスの最終形態

名誉ある彼の名を継ぎ、

再び落ちて、彼の名をはずかしめる


ぼくはうれしいんだ


黎明れいめいの朝、交差する光のあわせ鏡

膨張をつづける宇宙のコンロのうえで

熱にんだからだがはじけとぶ絶頂の瞬間に

笑う、笑う、ぼくは笑う


赤いつばさをうしなって

光る、光る、輝く


なお天に脈動するぼくの残骸



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