第6片 花よ、木よ、草よ




花よ、木よ、草よ

私はお前たちが好きだ

大好きだ


水をやれば、しゃんとして

肥しをやれば、ぐんぐん伸びて

枯れてすすのように真っ黒になったと思えば

小指の先ほどの新芽をちょこんと出して

春になれば、瑞々しい若葉を生やし

夏になれば、鮮やかな花を咲かせ

秋になれば、丸々と実をつけて

冬は眠りながら、密かにうごめいている


手をかければかけるほど

生き生きとして、見目を整えて

私の勝手きわまる愛情に

しかとしかと応えてくれる


私はうれしい

愛は叶い、心は慰撫いぶされる

お前たちは私に忠実で

強く、たくましく、美しく在り続ける


そして、しみじみと悲しい

人の世はそうではない

人の世は全くそうではないから


愛は空振りし

期待は裏切られ

努力は報われない


何一つ思い通りにいかない虚しさに

時々、人のことばを忘れ、人のことわりを捨て、

名もない草となって、土に刺さって、

風に揺られて、じりじりと太陽にあぶられたくなる


お前たちの世界にも、修羅があることを知りながら、

片目はつぶったままで、

方足は浮かせたままで、

右手を大きくふりかぶって、

複雑に折れた人の心を、なげうってしまいたくなる


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