第7片 十四歳




十四歳のころ

私のとがりきった感性は、絶頂を迎えていた


それはギラギラとして、切れ味鋭く、触れたら切れそう

実際、心はずたずたに切れて、どぼどぼと赤黒い血を垂らしていた


全てがつまらなかったし、

何も信じていなかったし、

誰も信じていなかったし、

自分自身も信じていなかったくせに

うわべだけは粛々と、良い面構えで、つつがなく過ごしながら

心の底では、愚かに、幼稚に、

このくだらない日常が、早く潰れてしまえばいいと思っていた


暴力的な衝動を発散すべく

やるせない心で、詩を書いた

猛るままに、ノートに殴り書いたことばだけを信じていた

書くことが私を生かし、かろうじて生きる私は書き続けた


薄汚いことばが、醜い感情が、心をなみなみと満たした

無駄に書くことで、無意味に書くことで、強烈に生きていると思った

全身が、燃えるような、峻厳しゅんげんな熱にあふれていた

悲しいわけでもないのに、泣きながら書いた

苦しかったのに、救われる理由を見つけられなかった

誰にも届かない、永遠に投函できない手紙だった


哀れかな、

あの頃が、私の感性の頂点だった


繊細だけど、強靭だった

傷ついても、勇敢だった

唯一、心のやいばが研ぎ澄まされていた

自分を形づくる全てを、ことばで切り刻んだ

何も恐れず、恥じることもなく、誇りはなく、才能なんて考えたこともなく、

それゆえに臆病とは無縁で、猛進を諦めない純心の塊だった

激情の嵐と、説明のつかない慟哭どうこくによって、私のことばは生きていた


今となって、己を悟る

若さだけでは説明のつかない、最盛期は過ぎたのだと

乗り越えたのではなく、通り過ぎてしまった

あとは少しずつ衰えゆくばかり……

焦燥に息を荒げ、かつえてゆくばかりなのだと


私は、詩に奉げる暴力的な衝動を失った

何を書いても、はなはだ勢いがなかった

ことばが走り出さなかった

衰微を感じ、ペンを持った右手をじっと見つめる


深爪気味の人差し指の先が、かすかに、怯えるようにふるえている



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