第5片 怒り




男だから

女だから

きょうだいがいるから

一人っ子だから

両親ともそろっているから

片親だから

まだ若いから

もう若くないから

友だちがいるから

一人でいるのが好きだから

大学を出ているから

学歴がないから

大きな会社に勤めているから

日雇いで明日もしれないから

恋人がいるから

愛が報われない人だから

結婚しているから

独身だから

子供がいるから

子供がいないから

持ち家があるから

ずっと借家だから

孫もいるから

身寄りがないから

墓があるから

無縁のまま死ぬから


だから、だから、だからなんだというのだ

あなたの幸福の価値観を、私は否定しない

知っているはずだ

私はあなたの幸福の価値観を、一度として否定したことはない


なのに、どうしてあなたはそれを、さも当然のごとく、世界の真理のごとく、

親切を装った目に、同情と憐憫を込めて、他人に押し着せようとするのか

哀れなものと見下すのか、意地や頑固と決めつけるのか


あなたにわざわざ宣言するまでもなく

私のこころは、私のものだ

私の幸せは、私が決める

だから、無闇に、無遠慮に、可笑しがるための醜い顔を突っ込んできなさんな


そのかわり、私は自らの幸不幸に言い訳はすまい

誰かのせいにもすまい

社会のせいにもすまい


いいの、いいの

あなたが導いてくれなくとも、探してくれなくとも、私は一向にかまわない

あなたの下世話なことばなど、心の片隅にも置いてあげない


もう子どもではないのだから

私の幸せは、私が決めた



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