#12 : Your brain seems bruised with numb surprise
NEM :
何日か前に人々が殺し合った戦場。まだ炎が燃えている所もある。建物は破壊され、死体が転がっている。
あんな張り紙をしなくても、俺達の居場所はすぐにわかるはずだ。まどろこっしいことだが、これは俺達なりのメッセージだ。ブラッケンドの亡霊にも届く事を期待しよう。
アリシアは自分の力で俺を殺したいはずだ。もう、それだけがあいつの生きる全て。あいつは必ず来る。一人で。
ブラッキーが俺の手を握る。そして、口を開いた。
「ねえ、ブラッケンドはどうしてあなたに『リーパー・ロード』なんて名前を付けたの?」
「それは……お前には、話しておこうか……
そいつは、俺が心の支えにしていた歌に関係しているんだ。
俺が育った場所で『死神謡い』なんて名前で呼ばれている歌があった。
何故そんな名前なのかはわからない。内容との関連も良く分からないしな。
でも、俺は辛い時にはその歌を歌っていた。それで、少し癒されたんだ。
実際のところ、それはある有名な作曲家が作ったんだが、人々の間で歌い継がれているうちに内容が変わって来た。
そうやって伝えられて来たもんだから、オリジナルが何なのか分かっていない奴らがほとんどだったな。
オリジナルは『イーゴリ公』という劇の音楽で、その中の『ダッタン人の踊り』の一部みたいなんだ。
俺が歌っていたものを、今ここの言葉にするとこんな感じかな……
―――――
風の翼で 飛んで行け
我々の故郷まで 懐かしき歌よ
灼熱の空 気高き風 海のざわめき 雲と呼び合う山々
太陽は眩しく光輝き 花は咲き 鳥が囀る
感じる全ては あなたのためのもの
世界はあなたの一部となり あなたは世界の一部となる
歌と共に世界へ旅立ち あなたは世界へ風を運ぶ
あなたと世界そのままに 歌と風は姿を変える
気ままにお前を歌い お前と共に感じた自由
その思いのままに あなたを故郷へ返すだろう
―――――
俺がそのことをブラッケンドに話すと、あいつは俺に『リーパー・ロード』の名を与えた。『死神の王』なんて酷い名前だよな」
ブラッキーの手に入る力が強くなった。何かを言おうとしたのかもしれない。
だがその時、俺の目がアリシアを捉えた。
「下がっていろ、ブラッキー。そして、何があってもお前は生きるんだ。いいな」
「……うん」
ブラッキーは離れて行った。
「結局、マスターの勝ちなのかしら……私が死ねば、残っているのはあなただけ……全てを受け継いだあなたが残れば……誰も止めるものがいない。あなたが存在しているだけで、世界には恐怖が溢れる。混沌と騒乱の中であなたの力は強くなっていく……その先にあるものが私達の希望……」
「冗談じゃないね。そんなものがあってたまるか。やっと大切に出来るものが見つかったのに、そう思って生きてきたのに、その果てにアッシュは死んでしまった。こんなものが希望であるはずがない」
「じゃあ……私はどうすればいいの……? もう……わからない……わからないのよ!」
「俺も同じさ。こうなってしまったら、戦っても戦わなくても何も生み出せない。どうにかしたくて見つけた結論がこれなら、他に何もできない。愚か者の極みってことも分かってる。だったら来な。俺を殺せば、お前も何か見えるかもしれないぞ。俺は逃げない」
アリシアは『剣』を抜いた。俺も『剣』を構える。
「異議あり!」
ブラッキーが叫んだ。
「?」
アリシアがブラッキーを見る。俺も見た。
……目が開いている……
「私もいる! だから……だから! 私も……手も口も目も出させてもらう!」
何を言ってる……?
「何を言ってるの……? ……ふん、いいわ。じゃあ、お前から、殺す!」
アリシアがブラッキーに向けて走り出し、剣を構え振るう。俺は一歩出遅れた。追いかけるが、間に合わない……
「ぐぉぁあ!」
アリシアが後方に吹き飛んだ。
「な、なにを……した……」
衝撃を作った。力強く、真っすぐに撃ち出す。お前も、もう戦士だな。
「私は、あなたの機械の部分を引き受ける。だから人の力をネムにぶつけなさい」
「な、なにぃ……!?」
「残りの命が短いなら、その全てをぶつけてみなさい! 人を凌駕するつもりでいたなら、二人が相手でも余裕でしょう!?」
「っ! この!」
アリシアが左腕から炎を放出する。俺は熱さにたじろいて、腕で顔をかばった。
ブラッキーは炎を全て弾いている。衝撃と風を使いこなしている。やるな……
「ぬぅ……」
アリシアは炎の放射領域を狭めていく。ペン一本位の細さにしてブラッキーの障壁を打ち破ろうとしている。障壁の強さを炎に合わせてバランスを取り、防ぎ続けるブラッキー。狭められるにつれて、弾かれる炎が増えていき、細かい火花が舞う。その火花が集まり鋭い刃の形をとって、アリシアの左腕に突き刺さった。
「ガァッ!」
アリシアは腕を押さえ、炎が止まった。
「ふぅっ、ふぅっ……」
「残りの命がわずかでも、まだ生きているなら、その全てを燃やしてかかってきなさい。……今この場を逃したら、もう後は無いわよ!」
「……は、は、ははぁ、ははハハハアアアア――!! ……ッ!!」
アリシアは俺に向かってきた。『剣』を振るい俺が受ける。アリシアは時々片手で剣を持ち、もう片方の腕で俺に殴りかかる。俺はその拳を避けない。頭で腹で受け止め耐える。足と地面を『力』で結び、衝撃を受け流す。そしてそれも『剣』を振るう力に利用する。押しては引き、引いては押す。アリシアは拳に加え蹴りも放つ。脛で受け、背中で受け、衝撃を受け流し、弾き返す。だが、痛みが蓄積して来た。『剣』を持つ手も震えている。アリシアが放つ蹴りを腹に受け、そのまま後ろへ吹き飛んだ。
「ッガァ!」
地面を滑り、転がりながら痛みに悶える。
その時、ブラッキーが風を巻き起こした。アリシアの周りに小型の竜巻を発生させ、動きを封じる。砂埃が舞い上がりアリシアの姿が隠れる。やがて周辺から小石が集まりアリシアの居る場所へ降り注ぐ。小石の数は増していき、やや大きいものも混ざっている。竜巻の威力に乗せてアリシアにぶつけているようだ。相当な衝撃だろう。竜巻の発生から数秒経った時、アリシアの居た場所が一気に弾けた。轟音と共に衝撃が飛んでくる。砂埃と無数の石が強烈な威力で俺達に飛んできた。俺達は力で防いだが、幾つかは抑えることが出来ず、体に当たってしまった。
「あ……くぅ……」
「うぬぅ……」
俺達は立ちながら悶える。
「ふぅうぉおおオオオオ……」
アリシアは片膝をついて耐えていた。所々皮膚が破れ血が出ている。そこから見えてしまう。機械の体が。
アリシアは憤怒の形相で俺達を睨み、ブラッキーに向け、傍に落ちている石を幾つか『力』で撃ち出した。ブラッキーは障壁を作り防ぐ。そこにアリシアが『力』で『剣』を飛ばしてきた。障壁が切り裂かれ、刃が迫る。俺はそれを自分の『剣』で防ぐ。そこにアリシア自身が飛びついてきた。地面に組み伏せられ、腹に、胸に拳を振るわれる。息が出来ず、力が上手く出ない。アリシアは俺の顔に拳を振るう。何発殴られたか解らない。意識が遠のく。
「……ぁァア……」
「ぅぅッ……」
どうにか目を開けると、アリシアが首を押さえて苦しんでいる。アリシアの首をブラッキーが締め上げていた。さっき飛んできたアリシアの『剣』を使っている。このまま首を折るつもりか。風を巻き起こし、自分たちの周りの空間を乱している。『力』を使ってさらにかき乱している。
突然変異の坩堝。そこでの仕事。異常を感じたらすぐに退避しなければならない。機械故に危険を察知するのが難しいかもしれない。だから、空気の変化に敏感に反応する仕掛けを考えた。機械の体なのに呼吸が苦しくなるように。
俺が残した不完全さの種。その芽吹を見抜いた。
俺は自分の『剣』をしっかり握り、アリシアの腹に狙いを定める。そこに向けて突き刺す。アリシアは自分の体を操作して、俺の『剣』を抑え込んだ。
だが、俺はそれを読んでいた。俺の『力』で『剣』の周りに薄い障壁を作っていた。その障壁だけを残し『剣』を引き抜く。障壁を解除して『力』をアリシアの体へ流し込む。アリシアが上方へ弾け飛ぶ。ブラッキーも一緒に吹き飛ばされた。アリシアは体制を立て直そうとするが、ブラッキーがアリシアの『剣』で斬りかかる。アリシアは左手でそれを受け止める。ブラッキーが『力』で『剣』を押し込もうとするが、アリシアも『力』で応じる。炎も発生させて『剣』もろともブラッキーを焼き尽くそうとしている。
俺は渾身の力で『剣』を振り下ろし、アリシアの左腕を切り落とした。
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