#8 : I must make amends

Blackie :

 ネムとアッシュが力を合わせて、プラナ・シティはすごく住みやすい場所になった。アッシュはすごく頑張ってる。私がもっと助けられればいいんだけど。

 肌に感じる風や、匂い、耳に入ってくる音。それらがとても心地よく感じる。きっとこの街のみんなが少しずつ元気になっているから。みんなが強くなっているからだね。

 私はネムとアッシュの支えになりたい。それだけ思って修行をしている。


 アッシュの手伝いをして、褒めてもらえる。

「ブラッキー。よくやったわ」


 アッシュのために、自分の仕事をする。

「強くなったね。ブラッキー」


 人の手伝いをしたり、話を聞いたりする。

「頑張ったね。ブラッキー」


 一日を生き延びた。ありがとう、アッシュ。

「ありがとう。ブラッキー」

 


Ash :

 私はプラナ・シティで生きた。苦しんでいる人達と共に生きていける場所を作ることが出来た。きっとこれでうまく行く。それぞれが今を生きているから。私がいなくなったとしても。

 私は、英雄だって。この街の救世主だって。でも、この気持ちは何?

 解ってる。私だけの力じゃない。そして、私の力じゃない。

 全てネムの力。彼の力があったから。そしてブラッキー。彼女が居たから。

 私が街のために動けたのは、ブラッキーが街の人々を助けていたから。人々の気分を穏やかに、大地や大気を緩やかに、全てを和やかな調和へ導いた。

 ブラッキーは知っている。理解している。病の治療、治癒の道を。この世界の汚染や病の治し方、癒し方を。

 彼女は、ネムの夢。あの人の命と希望を受け継いだ。


白い蜘蛛が語る

「どうした? ついに自分の無力さを感じたか?」

ブラッキーは……私より強い


「よく気付いたな。そして、よくぞ言った」

 彼女は私を超え、ネムを超える。ブラッキーはネムの望みを体現する。ネムは彼女と行ってしまう……


「お前はどうしたいんだね?」

 私は……


「力を求めるなら、私の許へ来るがいい」

 あなたの所……?


「『首都』だ。そこに私は居る。そして、お前の求めるものはすべてそこにある。かつて死神もそこに居た」

 ネムのこと……?


「そうだ。あの男の後を追える。後を継げる。その先へも行ける。あの男を従えることも出来る。それを欲するならば、来い。我が名はブラッケンドだ」

 白い蜘蛛は消えた。



 ある日、私は『首都』に居た。何処に行けばいいのか解らないのに来てしまった。来てから戸惑い、立ちすくむ。

「よくもまあ顔を出せたものね。それも一人で」

 アリシアが私の前に現れた。

「マスターの所へ案内するわ。命令だからね。でも、一言、言ってもらいましょうか?」

「……お願いします」

 アリシアは私を睨む。軽蔑ではない。憎悪でもない。怒りの籠った瞳。

「……ふん。付いてきなさい」

 私はアリシアに付いて行った。


 ある建物の中で、男と向かい合った。老人と言ってもいいだろう。

「あなたが、ブラッケンド……ですか?」

 男が答える。

「そうだ」

 いくつかの問答の後、彼は聞いてきた。

「答えよ。お前は力を欲するか?」

「はい」

「良いだろう。お前を私の『友』とする。『ファントム・ロード』の名がお前に力を与える。心に留めるがいい」

「はい。マスター」

 私はブラッケンドに降った。アリシアとは仲間になった。私は彼女に従う。

 アリシアと今後の作戦を確認した後、彼女は聞いてきた。

「あなた。さっきの答えは本当なの?」

「何の話?」

「あなたが『力』欲する、というのは本当なのか、という話よ」

「本当よ」

「あなたの欲する『力』は、ブラッケンドを超える?」

「超える。私が死神を解き放つ。彼こそが英雄。彼こそが全て。

 "Nothing Else Matters" 他には何も無い」

「……はっ!」

 アリシアは私に侮蔑の表情を見せ、去って行った。


 それから私は、プラナ・シティとその周辺の地域の為に働き、駆け回った。それと共に『首都』でファントム・ロードとして働いた。ブラッケンドやアリシアや政府のために働いた。自分でも不思議なほどに冷静に、忠実に動いた。

 ブラッケンドの傍で、ネムの記録を見ることが出来た。

 ファントム・ロードとしての仕事は、そのためにやっているようなものだった。

 『首都』での仕事がどんな影響をもたらすのか、考えなかった。私が嫌悪している自分勝手の極み。決して許されることは無い。

 まさに "The Unforgiven" 許されざる者。

 でも、ネムの背負うものが軽くなるなら、それで良い。少しでも気分が良くなってくれるなら、彼の笑顔が見られるなら、それだけで嬉しい。


 アリシアと何度かぶつかった。打ちのめされても、今までのみじめな気分にはならなかった。わかったから。勝てると。だから、ブラッキーにも勝てる。きっと。


 そして、ネムの記録から学び、悟った。私は間違っていないと。


 『首都』からプラナ・シティへの帰り道。夜道を一人歩きながら歌を口ずさむ。ネムの記録と私の想いを合わせた『替え歌』。


―――――


ねえ、”ロード” 私に『黒さ』を買ってくれない?

あの子はそれを大事にしている。私も大事にしないといけない。

一生懸命働いても、あの子は気付いてくれない。

ねえ、”ロード” 私に『黒さ』を買ってよ?


ねえ、”ロード” 私に『黒い世界』を買ってくれない?

もう少しで、あの子は私を見つけてしまう。

あの子が行ってしまうのを、見たくないのよ。

ねえ、”ロード” 私に『黒い世界』を買ってよ?


ねえ、”ロード” 私に『夜』を買ってくれない?

あなたを頼りにしているの。だから、がっかりさせないで。

私のあなたへの想いを証明するわ。あなたに次の世界をあげる。

だから、”ロード” 私に『夜』を買ってよ?


みんなもそう思うでしょう?


ねえ、”ロード” 私に『黒さ』を買ってくれない?

あの子はそれを大事にしている。私も大事にしないといけない。

一生懸命働いても、あの子は気付いてくれない。

ねえ、”ロード” 私に『黒さ』を買ってよ?

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