#7 : the Man that made a fool out of me

Ash :

 私がプラナ・シティの大使になってから、街はさらに発展を続けた。周りの都市とも交流して、それぞれの良いところを見つけ出して強めている。私の力じゃない。全部ネムの力。彼の力が偉大なんだ。どうしてネムは、もっと自分を誇らないんだろう?

 あれだけ誠実な人は滅多にいない。街の人達もそう言ってる。本当だよ。

 私は彼に追いつきたい。でも、そんなこと出来るの? あの人は遠い。物凄く遠い。あれほどの強さは、どうやって身に着けたの?

 でも、なんとなくわかる。彼の身の上に起こったこと。そして、生き延びるための意志。きっと、それが……ね。だめだよ、これは言えない。


 でもね。あの娘。ブラッキー。彼女はどうなんだろう。私は五年くらいネムにつきっきりで世話してもらってきた。ずっと彼に教わって来た。私の方がリードしているはず。それなのにあの娘は、私に追いついてしまった。そして、私を追い抜く。それは、いい。それは、いいの。でも。私も、もっと強くなりたいんだ。


 ある日、街から少し離れたところで怪しい連中を見たって報告があった。私が出て行って詳しく調べてみた。仲間と協力して痕跡を辿ると、政府の奴らとメタル・ミリティアが潜んでいたことがわかった。


 どうしてだろう? ネムが張った『結界』を突破する力を手に入れたんだろうか?

 ネムはそんなものは無いと言うだろう。でも私はあるって信じる。だから仲間達をさらに組織して、調査のための部隊を作った。そして私と共に仕事をしていく。


 その過程で、アリシアと戦う事になった。街から離れた場所で。私はメタル・マスカレードを全て薙ぎ払った。あとはアリシアだけ。でも、また負けた。アリシアにもダメージを与えた。でも、私はまた地面に這いつくばった。


 アリシアは言った。

「あんたの力が混ざったおかげで、あの街への介入が出来るようになったのよ。まだ実験段階だけどね。あなたはどうしてこんなに私に優しくしてくれるのかしら? 私、何かあなたにあげたかしら? まあ、遠慮なく貰っておくわね。それとついでに腕の一本でも貰って行こうかしら?」

 アリシアが『剣』を掴む。

「……うん……? な、なんだ……? 腕が……う、ご、か……」

 その時、銃声が聞こえた。視界に移るのは仲間の姿。そして、手を引かれているブラッキー。

「ちっ!」

 アリシアは走り去って行った。


「アッシュ! 大丈夫!?」

 ブラッキー……来てくれたの? あなたは、もう、『力』で私の居場所がわかるのね……すごい、よ……


 私はベッドで寝ていた。見慣れた天井。ネムの家だ。すごく暖かい。

「ブラッキー……私……」

 ブラッキーは私の手を両手で包んだ。

「良かった。ネムと私で『力』を込めた。でも、アッシュの『力』が強いんだよ。傷の具合が良いもの。きっと、すぐ良くなるよ……」

 ネムも、いてくれたんだ。また、叱られちゃうかな……


「ねえ、ブラッキー。私、この街を良くしたい。だから、私の部隊を作りたいんだ」

「部隊? どんなの?」

「うん。自警団みたいなものかな? 街の人達がこの街を良くしたいと思ってる。その想いをちょっとだけ手助けできるようなもの。私が街の人達に出来ることは、私が動きながら、時々私と一緒に考えてくれる人を集めて、それぞれが更に何人かを組織する。もちろん、強制じゃなくて、それぞれが出来ることを一緒に考える。そんな部隊。部隊っていうのも変だけど、身を守るには、すこし力もいるしね」

 ブラッキーはそれからずっと私の話を聞いてくれた。

 部隊の名前をCFCにしたいと言ったら、笑いながら真剣に聞いていた。

 CFC "be Careful to Friendly Child" 優しい子にはご用心。

「何それ? 頭文字じゃないのもあるし、何の意味があるの?」

 私は笑いながら言った。あんまり意味は無い。思いついたものを付けただけ。


 でも本当は、あの白い蜘蛛と話している時に思いついたんだ。これは話せない。話しても信じてもらえないからね。


 ブラッキーの『力』の事を聞いた。

 彼女は自分の『力』を知り始めている。強さに戸惑っている。そして私には及ばないとも言った。本心で言っている。あなたも、好い娘ね。それじゃあ、だめだよ……


 ブラッキーはアリシアについても話した。

「あの人。アリシア。彼女の体、何かおかしい」

「おかしいって?」

「詳しくはわからない。遠かったから。でも、なんだかおかしかった。『力』はとても強かった。でも体が悲鳴を上げているようだった。あれだけ動くことができるのに、変だと思った。よく、わからないんだけど……」

 そうなんだ……私は、気が付かなかった。


 それから、しばらくして、ネムに謝って修行を続けた。

 私達は、まだまだだよね。ブラッキー。


NEM :

 ランス・ソリスの汚染。

 あれは、もともと世界にあったエネルギー。それを無理やり凝縮し、そこから溢れたものが起こした悲劇。溢れたものが巨大な爆発を起こしたんだ。


 そして、その巨大なエネルギーはまだ爆発を続けている。爆心地の周辺の環境。その全てに伝播して、彼らの内部で燃え続けている。


 でも、彼らはきっと生きようとしている。彼らは自分が元の状態に戻ろうとしているんだ。完全に元には戻れなくても、安定しようとしている。そのために、自分で処理しきれないエネルギーを周りに放っている。周りの環境は、それをさらにその周りに伝え、みんなで協力して生き延びようとしているんだ。


 ある時俺は考えた。人間もそれに協力することはできないだろうか?


 汚染地域を円と仮定しよう。その円の境界線の外側を、エネルギーを受け入れやすい状態にするんだ。全くの空白ってわけじゃなくて、その部分と色々交換して安定することをお願いできるような状態……曖昧すぎるよな。ここはまだ勉強中なんだ。でも、俺達の『力』ならそれが可能だよな。きっと。


 それで、もしもだ。ある程度の安定を得られたとしよう。その時には、円周の内側のほぼ同じ面積の場所が、同じくらいに安定できているはずだ。その部分の土や植物を、外側の安定領域のさらに外側に撒いていく。それを繰り返すんだ。俺達の『力』も混ぜてな。


 汚染は広がるだろう。広く、薄く、浅く、遠くまで。だが、爆心地の汚染は弱まるはずだ。生身の人が多少の工夫で生きていけるくらいに。希望的すぎる観測だってことはわかってるさ。


 だが、全世界が人類の業を受け入れ、そこから新たな道を探すことが出来るなら、それも一つの生き方なんじゃないだろうか? 無茶な方法だと思う。だが、世代を重ねながらやって行けば、新しい方法も見つけられるんじゃないかと思ったんだ。


 もしも、その仕事を、俺と一緒にやってくれる仲間がいたら?


 鉄の体と人の心、そして俺の『力』。それらを合わせた者が俺と一緒に働いてくれたなら。

 俺がいなくなった後も、仕事を続けてくれるなら。

 その姿を世界の人々に見せて、希望となってくれるなら。

 そんなことを考えてしまったんだ。

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