#4 : I wanna talk about little bit about of loving

NEM :

 目が覚めた。

 車とその周りにあった炎は消えている。夜の闇を月と星の光がわずかに照らしている。俺は傍らに二人の姿を見た。胸に安らかな感覚が溢れる。二人とも生きている。そして、俺も生きている。

 DDとアッシュは大木を背もたれにして眠っていた。アッシュの怪我が酷い。せっかく元気になったのに、また大変なことになってしまった。俺のせいだ。すまないな。

 アッシュを見て気付いた。何かが違う。

 DDと並んでいるのを見て思う。この二人、まるで姉妹の様だ。

 そして確信した。これは運命だ。希望の力と残酷な力が混じり合い、俺の動きに答えた。この二人は『力』に目覚めた。俺はもう逃げられない。

 俺に出来ることをやり尽くし、彼女たちに幸あれと、願うことにしよう。

 俺に出来るのはそれだけだ。


 このまま二人を寝かせてやりたいと思い、俺は周りを警戒して時を過ごした。俺の体力が回復してきたのを感じ、知り合いに連絡を入れた。

 連絡を入れた相手は『プラナ・シティ』の人間。俺達を迎えに来てくれるように頼んだ。ここから少し離れた場所で落ち合うことにした。俺は二人を起こす。


「アッシュ。起きてくれ」

「う、うーん……」

 アッシュは目を開けた。

「ネム……大丈夫……? 酷い怪我……私は……」

「俺は大丈夫だ。まだ辛いだろうが、起きてくれ。信頼できる者に迎えに来てもらう。ここだと危ないと思ったから、少し離れたところに来てもらうことにしたんだ。そこまで歩く。もし辛かったら俺がおぶって行っても――」

「だ、大丈夫よ! 私、平気だから!」

 アッシュは立ち上がった。すまない。無理させてるな。

 俺はDDを起こす。同じように説明して、アッシュに手を引いてもらうことにした。


Ash :

 歩きながらネムが話す。

「すまないな。色々聞きたいことはあると思うが、俺にも解らないことも多い。家に着いたら気分も落ち着くと思うから、それまで勘弁してくれ」

「うん大丈夫。私の方こそごめん……」

「お前が謝ることなんて無い。何も悪くないんだから」

 私は黙り込んでしまう。あの時、あの白い蜘蛛に話したこと。私の何かが燃えていた。そして、あいつを憎むことが、楽しいと思った。変だけど、そうだった気がする。ひどく、気持ち悪い……

「アッシュ、大丈夫? 辛そう」

 DDが私を気遣ってくれた。ごめん。何か変だよね。

「そうだな、何か楽しい事を考えよう。無理やり過ぎるが、いつもこうして来たよな」

「うん。そうして来た」

 私達があの病院でやってきたこと。今思えばこんな事ばっかりやっていた気がする。それが幸せだった。

 私達はDDに話した。

 今まで二人でやってきたことの幾つかを。ネムが教えてくれた、この世の秘密。生命の神秘。人は生きるための力を全て備えている。自然や周囲の人々の助けは必要だけど、本当に大事なものは全ての人が持っている。この世に溢れる不思議の数々。人の生み出す物語。

 それから、私達の名前のこと。ネムは聞かせてくれた。

 私のお気に入り(My Favorite Things)。

 与えられた名前は捨てない。捨てられるものでもない。でも、自分で名前を付けることも出来る。何が正しいかはわからないが、自分の好きなものを選んで自分に与えれば、何か良いものも見つけられるかもしれない。そんな感じ。

 私がネムに助けられた時のこと。あの時の私は自分が大嫌いだった。全て燃やし尽くしてしまいたいと思っていたこと。でも、ネムはそこから名前を付けてくれた。

 フェニックスという鳥がいて、それは灰の中から新たに生まれる。それまでの自分があったからこそ今がある。ちょっと嫌かもしれないが、きっとその時にあったことにも意味がある。

 地に撒かれた灰が命の力を燃やしている。

 だから、アッシュ・アースバウンド。


 幾つか話した後、ネムがDDに聞いた。

「DDって言うのは本名か?」

「うん。ジェイミー・ダイアモンド・ダスト・シードリング」

「長いな……それに、しばらくは本名を名乗らない方が良いだろう。あまり効果は無いかもしれないが、どこかで別人になれることもある。


そうだな……

灰は灰に、塵は塵に、黒へと消える、か……

なあ、ブラッキーっていうのはどうだ?

俺はそれが良いんだが……」

「ブラッキー……黒い人……うん、いいけど、何で? 私はそんなに黒くないって言われているけど……」

 DDは銀髪だ。肌は私ほど白くは無い。色の白い東洋の人の肌。たしかに黒い要素はあまり無いと思う。

「その、俺の直感なんだ。お前にはそれが似合う気がした。嫌なら他のを……」

「ううん。私、その名前が好い。私はブラッキーにする」

「そうか」

 私達三人は微笑んだ。なんだか幸せ。ずっとこんな時間が続けばいいのに。


 ネムが指定したポイントに着くと、車が停まっていた。私達は乗り込んで『プラナ・シティ』まで送ってもらう。そして、ネムの家に着いた。


NEM :

 俺の家は『プラナ・シティ』から少し離れた山の中にある。そこで二人を休ませてから、色々と話した。


「いくつか説明する。それと頼みもあるんだ聞いてくれるか?」

 二人は頷いてくれた。



 俺はお前達を、俺の運命に巻き込んでしまった。すまないと思っている。


 そうだな……俺の過去の事を少し話すべきだな。


 今から十五年ほど前の事だ。俺は全身を病に蝕まれていた。世界の片隅で倒れていたんだ。一人ぼっちでな。

 そんな時、俺の前にある男が現れた。そいつに拾われて、助けられたんだ。

 もう少しで死んでいた。その男は命の恩人なんだ。


 そいつは、俺に『力』を見出したと言っていた。その時の俺には何のことか解らなかった。そしてそいつも詳しくは話さなかった。俺はあまり深く考えずにその男について行き、一日を生き延びることに必死になっていた。


 だが、ある時気付いたんだ。俺に『力』があるってことに。これはうまく説明できない。だが、お前達ならわかってくれると思う。今ここまでたどり着けた力。戦いながら、逃げながら俺が使っていた力。お前達も使った力。その『力』があることを知ったんだ。


 俺はその男について行きながら『力』の使い方を学んだ。学んだと言うより、自分で見つけていった、という方が正しいかもしれない。あの男はほとんど何も教えなかった。時々、妙な言葉や呪文のようなものを聞かせてくれたが、何のことかわからない。俺の知っている言語だったんだが、何が言いたいのかがわからなかった。その時は、な。


 その男は『ブラッケンド』と名乗った。本名かどうかはわからない。俺も聞くつもりは無かった。俺がそいつと一緒に行動し、『力』を学んでいくうちに俺の病は治っていった。何故治ったかは、正直言ってわからない。


 『わからない』ばっかりだ。すまない。情けないが、本当の事だからな。


 でも、それを基にしてアッシュを治したんだ。だから『治した』なんて言い方はおこがましい。アッシュが自分の力で自分を助けたんだ。それが真実さ。


 ブラッケンドは俺に新しい名前を与えた。『リーパー・ロード』という名だ。 

 俺はブラッケンドの仕事を手伝っていた。ブラッケンドは病に苦しむ人達をの世話をすることもあった。だから俺はいろいろと動き回ったんだ。そして考えた。


 もしも病に蝕まれた部分を機械で補う事が出来たとしたらどうだろう?

 辛さは消えて、日々の生活が楽になるんじゃないか?

 それをみんなで一緒に進歩させることが出来れば、みんな幸せになるんじゃないか?


 そんなことを考えながら、俺は色々と研究し、開発した。

 その結果、この国や周辺の土地に、そんな者達が溢れた。

 世界全体がその兆候を見せていき、技術はさらに進化した。

 そして生まれたのが『メタル・ミリティア』だ。


 そうさ。俺があいつらを産んだんだ。

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