#2 : Look out kid, Don't matter what you did
NEM :
俺は少しだけアッシュと共に居ることにした。ドクターも近くに居てくるようだ。三人で話しながら気分を落ち着かせようとしたが、ドクターの様子が変だ。
椅子に座って俯き、何も言わない。
俺達はどうしていいかわからず、ただ二人で彼を見つめていた。
しばらくすると、何かが聞こえた。
上と下から銃声や悲鳴、爆発音も聞こえる。
「何だ!? 何が起きた!?」
アッシュは俺の傍に来る。腕にしがみついてきた。俺は彼女を強く抱きしめる。
「奴らが、来た」
ドクターが言った。俺は聞いた。
「ドクター、何が起こってるんだ?」
ドクターは俯いたまま答えた。
「政府の連中さ。あの悪名高い『メタル・ミリティア』。法の名のもとに、そして国家のためと言っての武力行使を繰り返す軍隊。奴らが来たんだ。そして今襲っているのは、さらに強化された部隊『メタル・マスカレード』だろう」
何でだ……ここには、何も……
「ここは、この病院は、力を付け過ぎた。信用を得過ぎた。だから奴らはその芽を摘み、その成果を奪いに来たんだ」
「そのために銃を持ってくるのか? 無茶苦茶だぞ。国の信用が無くなってしまう」
「君も知っているだろう。もうこの国は、信用がどうこうと言っていられない。自分たちがどうにか生き延びることだけしか考えていないんだ。だから『奴ら』を抱え込んだ。後は政府の説明を公式の文書で発表すれば、それが真実さ。国民も自分達のことで精一杯だ。私達のことに首を突っ込む余裕は無い」
確かに、その通りだ。俺もわかっていたはずなんだ。でも、目の当たりにすると、きついな。
「君達を逃がしたい。この病院の構造は詳しく知っている。だから、付いて来てくれないか」
俺達を、か。他の人は……気にしている場合じゃないな。
「……お願いしよう。アッシュ、いいな?」
「……う、うん……」
俺達はドクターに付いて病室を出た。周りを警戒しつつ進む。
俺は感じていた。見られている。俺と同じ『力』か……
ブラッケンド。どうしてお前は、俺に纏わりつくんだ……
Alicia :
うまく見えない……五階の半分ほどが。
何故だ? まさか……妨害されている?
私の『力』に干渉する者……まさか……
「五階を重点的に捜索しろ。それと、『掃除』もだ」
部下に命じた。これで乱れるはず。そこから探る。
Ash :
あいつらが殺している。たくさん。叫び声が聞こえる。何てひどい奴ら。
「まずいな……追い詰められてしまった。このままじゃ見つかる……」
三階まで来れた。でも、ドクターが困惑している。どうしよう……
「やはり、俺と同じ『力』……見られているか……それなら」
ネムが何かをしている。何だろう……手に何かを持って、それを擦ったり撫でたりしている。
それから、目を閉じた。
「……ドクター、アッシュ。二人ともベッドの下に潜っていてくれ。もうすぐ奴らが来る。俺が何とかする」
私達はベッドの下に潜った。でも、何とかするってどうやって……
ネムは部屋の真ん中に立っている。彼の右手の空間が、何か変な気がする。何かがゆらゆらと揺れているような……
ドン!と音がして、部屋の扉が蹴破られた。ネムを確認した兵士が銃を構え、撃つ。
だが、銃弾が発射される前に、二人の兵士は地面に倒れていた。弾は天井に食い込んだ。
「来てくれ! 今なら大丈夫だ。でも、すぐ別の兵士が来る。静かに、急いでな。頼む」
私は倒れた兵士を乗り越える。どうやったの……ネム……あなたは、いったい……
私達は階段の近くにある病室に入った。様子を窺ってから一気に下に降りるんだろう。ネムは私達にベッドの下に潜るように促した。ネムが扉をわずかに開き、外を窺う。その時、ネムの足を何かが掴んだ。
Alicia :
仲間がやられた……そんな馬鹿な!?
メタル・マスカレードを殺せる者なんて……
私は監視の範囲を狭める。殺された兵士付近へ。
銃で撃たれていない……この傷は……刀……これは、まさか!
腕が震える……こんな、ことが……これが運命……?
ふん、馬鹿げてる。
Diamond Dust :
私は何かにしがみついた。何故か動いた。とても暖かく、優しい何か。それが私を助けてくれると思ってしまった。
「!? な、なんだ……?」
人……男の人……この声……どこかで……
「DD! 無事だったの!?」
アッシュ……アッシュの声。
「あ、ア、アッシュ……わ、わた、わたし……」
抱きしめられた。思わず泣き出してしまう。
「……お願い。泣かないで。大きな声を出さないで……お願い」
うん、わかってる。でも、止まらない。息が上手くできない。大きく吸って吐いてしまう。その時に声が出ちゃう……
「……知り合いか?」
「うん。友達よ」
「そうか……」
男の人がアッシュと一緒に私を覆う。やっぱりすごく安心する。なんでだろう。そのまま、しばらくそうしていた。呼吸が落ち着いてきた。
「ご、ごめんなさい。あ、あの」
「確認させてくれ。目が見えないのか?」
「うん。生まれつきなの」
「わかった。一緒に逃げよう。アッシュ、彼女を頼めるか?」
「大丈夫。DD、手を出して」
私はアッシュの手を握った。いつも、こうしてくれた。暖かい。
「でも、どうやってここまで来たの? 私と同じフロアに居た筈でしょ? 奴らに見つからずにここまで来るなんて……」
「私にも解らない。でも、あの怖い人達の足音とかを聞いていたら、何故か、その、見えたの。頭の中に。次に何をするか、とか……どこに行こうとしているのか、みたいなことが。逃げなくちゃ、って思ったらそのための道が見えたの……変だよね。こんな事今まで無かったのに。どうしたんだろう、私……」
男の人が私を見ている。ような気がした。
「もしかして、お前……」
少しだけ彼は私を見つめていたようだ。
「DDって呼んでいいか?」
「うん」
「俺はネムだ。お前の助けが欲しい。この、ドクターが俺達が逃げる道案内をしてくれているんだ。DDにドクターを助けてほしい。その怖い人たちが居そうな気がしたらドクターに知らせてくれ。俺達でルートを見定める。やってくれないか?」
「や、やる。だ、だから……」
「うん。一緒に行く。だから、ね?」
私は頷いた。アッシュと一緒に行けるんだ。
Alicia :
何かが動いた。私の知らない何か。奴らは何をしようとしている?
「さっきの戦闘のあった場所……そこから、その部屋と階段……その付近に兵士を送れ。それと、出口の見張りを増やせ」
私は命令を発すると、自分の『力』に集中する。
さっきやられた兵士。その命があった場所へ『力』を巡らす。奴らの後を追う。まず、近くの病室に入って、そこで……っ!!
「ガッ!!」
妨害された……!? 私の思考を読まれたっていうの!? いや……違う。
私の追跡を予測して、トラップを仕掛けた。やはり、私と同じ『力』を使う者。
この病院の存在と照らし合わせれば、考えられるのは一人しかいない。
NEM :
ドクターの道案内とDDの助けで戦闘を避けて進めた。避けられない場合も背後から『剣』で一撃。静かに終わらせることが出来た。この娘、やはり……この病院に居た事に気付かなかった。こんなことがあるとは。だが、今考えている場合じゃない。一階の出口付近から様子を窺う。この先へ行くことができれば……
「さすがに、警備が厳重だな。突破するには戦わないと」
ドクターが口を開いた。
「……君に謝らなければならない」
「何の事だ?」
「……私は、君の情報を売ったんだ。彼らに……」
「……金のためか? それとも……」
「自分の信念に従った……と言う所か。初めは本当にそうだった。だが、徐々に彼らに侵食されて行った。私は君とアッシュの情報を彼らに流し、彼らのための研究をしていた」
「じゃあ、あの『メタル・マスカレード』という奴らは……」
「君の治療法を基にして私が研究した成果だ。その一部だろうがな」
何てことだ……俺は……まだ、あいつから逃れられないのか……
「私は償わなければならない。すまなかった」
そう言うとドクターは出口に向かって走り出した。
「おい……! 何を……!」
出口を見張る兵士たちがドクターに気付き、銃を向け警告を発する。だがドクターは止まらない。弾丸が撃ち出される。そして、彼の体が爆発した。
出口付近が吹き飛び、兵士たちが倒れている。おそらく死んだ。
ドクター。こんなの間違ってる。死んで償える罪なんて無いはずなんだ。
一瞬固まったが、俺の足は動いていた。二人を連れて出口へ走る。
次はどうすれば良い?
奴らの車両を奪うのが良いか……この爆発でこの付近に集まるなら、何処かが手薄になるはずだ。
Alicia :
仲間が報告に来た。
「出口に配備していた者達が死亡。逃げられました」
やはり、間違いない。あいつが『リーパー・ロード』。私の敵。
「お前達は病院の制圧を続けろ。奴らは私が追う」
私は、一人で出て行く。あの男が次に何をするかを考える。私達の車両を奪って逃げる。では、一台奪いやすいようにしておこう。
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