#1 : Look out kid, It's somethin' you did



 ある国の『首都』。その外れにある病院にて――


NEM :

 俺はある女を見舞っている。彼女の名前はアッシュ。この『首都』で、彼女は全身を病に蝕まれていた。人類の知識がもたらした災厄『ランス・ソリス』。その余波が彼女を襲っていた。その時、俺は彼女を助けた。助けてしまった。

「ねえ、ネム。私はどう? 大丈夫でしょう? もう、外に出られるよね? 私、一緒に行けるよね?」

 目を輝かせて俺に聞く。金髪と白い肌。それと共に見せる笑顔が美しい。目がくらみそうだ。その通り、彼女はもう大丈夫。一人で生きて行けるだけの力を持っている。かなり前からそうだった。俺が不安だっただけだ。

「ああ、もう大丈夫だ」

 アッシュはさらに弾ける笑顔を見せた。本当に嬉しいんだな。だが、俺は辛い。

 何故辛いか、正確には解らない。でも、一つ思い当たるものがある。それは、アッシュの可能性の一つ、もしくは幾つかを、俺が奪ってしまったからだ。

 俺はアッシュに、医者と話してくると言ってその場を離れる。部屋の外で待っていたドクターと話す。

「どうなんだろう……本当に、大丈夫かな……」

「ああ、大丈夫だ。本当に。目の当たりにしても信じられない。瀕死の状態だった彼女が、たったの五年で全快とは……これは、奇跡だ。だが、しっかりとした裏付けもある。いくつかだが……君は一体……いや、それは聞かない約束だった。すまない」

「いや、良いんです。俺が何かの助けになれたなら、それで」

 確かに奇跡だ。俺が誰かの命を救えた。これは奇跡なんだ。

 俺にはある『力』があった。その『力』の正体は俺にもわからない。

 だが、実際にある。それが事実。

 俺はその『力』の正体を知りたいと願った。だが、知れば知るほど恐ろしさも増えて行った。人の病を治す力もあるとわかった。アッシュが元気になってくれたのは嬉しい。だが、この『力』は確実に人々に広まる。酷い事に使われない筈が無い。どうにか隠さなければならない。だが、世界の為になるなら使ってみたいとも思う。迷い続けて今に至る。

 この病院にはアッシュを入院させてもらっている。治療とその費用の代わりに、俺の『力』の知識を提供し、その研究に協力する。この病院は発展した。そしてアッシュも元気になった。いい事だとは思う。だが不安は完全にぬぐえない。


Ash :

 笑うのを押さえても、ほっぺたが上がってしまう。これで私は外に出られる。ネムの役に立てるんだ。

 ドクターから退院の許可も貰った。ネムと話した後、友達の所へ行くことにした。近くの病室に居る娘の所。お別れの挨拶をしないと。

 その娘の病室をノックし、声をかける。

「DD? 私、アッシュ。入って良い?」

 扉の向こうから声がした。

「うん。いいよ」

 私は扉を開けて中に入る。ベッドに近寄って彼女の手を取った。

「こんにちは。調子はどう?」

「うん。いい感じだよ。アッシュはなんだかすごく元気だね。いつも以上に」

「……実は、そうなんだ。良く分かるね」

「声が弾んでるもん。きっとすごく良い笑顔をしてると思うよ。私は、わからないけど」

「あはは……うん。そう、嬉しいんだ」

 DDは目が見えない。生まれつきの全盲。

 この病院の同じフロアに入院している。ただそれだけなんだけど、私達は友達になった。お互いにいろいろ話していた。

「私、ドクターから退院の許可を貰えたの。だから、DDとはお別れ。でも、絶対会いに来る。また色々話すから」

「そうなんだ。良かった。おめでとう」

 私達は少しの間話し込んだ。


「あ、ごめん。ちょっとトイレ……」

「うん。一人で行ける?」

「大丈夫。ちょっと待っててね」

 DDは杖を使って、部屋から出て行った。


「元気そうだな」

 声が聞こえた。その方向を見ると、蜘蛛が居た。一匹の白い蜘蛛。

「うん。ネムが言ってくれたんだ。もう大丈夫だって」

「ほう。大丈夫なのか。それをあの男が言ったのか……ふむ。それは良かった。おめでとう」

「あはは……ありがとう」

 この白い蜘蛛は私にだけ見える。声も私にだけ聞こえる。何でかは解らない。でもいつからか、時々私の前に出てきて話を聞いてくれた。自分は火星から来た、何てことも言っていたけど。

「それでは、私の役目も一段落だな。次はどうなるか……」

「どこかにいっちゃうの?」

「それは、お前次第だろうな。最も、お前だけではないだろうが」

 何を言っているんだろう?

 瞬きをしたら、その蜘蛛は消えていた。


 病室のドアが開いた。DDが入ってきたけど……

「どうしたのDD。なんだか震えてない?」

「う、うん。よくわからないけど、なんだか嫌な感じがした。ううん。今もしてる。何なんだろう?」

 私はDDに体を寄せて落ち着かせる。すこし話してベッドに寝かせる。それから自分の病室に戻っていった。


 私の病室に入るとネムが居た。

「どうしたの、ネム? 顔色が悪いような……」

「ああ、すまない。何だろうな、これ。わからないが、なんだか嫌な感じがする。前にも感じたような……どうしたんだ、俺は……」

 私はネムの体をさすって元気付けた。大丈夫だよ。

 でも、さっき同じようなことをした気がする。どうしたんだろう?


Alicia :

 あの病院か……あれが標的。やり方は気に入らないけど任務は任務。

 マスターの命令とあっては断れるはずもない。

 多数の車両とヘリを向かわせ、私の指揮下に置く。

 『メタル・ミリティア』だけじゃない。私が作り、鍛え上げた『メタル・マスカレード』も居る。あそこに何があろうが、何が居ようが制圧できる。

 やると決まったのなら、早く終わらせよう。

 地上十階、地下一階。制圧のプランは……


Diamond Dust :

 不安なままベッドの中で横になっている。でも、眠れない。夕方だからかもしれない。でも、もうすぐ暗くなる。このまま眠りたいな……

 目を閉じて呼吸だけを感じていると……


「……? なに……? なにか……聞こえる……?」


 何かが聞こえる。次第に大きくなっていく。

 乾いた音……銃声だ……!

 悲鳴も聞こえる。何か怖い声で叫んでいる。

 どうしよう……

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