#6 Doom And Gloom PART2
午後の昼下がり、ヘックスとガスが乗った車は7番ストリートの裏道を走っていた。帝国時代から続く住宅地であるこの地は、敗戦後に瓦礫の山と化していたが、すぐに再編されて元通り住宅街となった場所であり、エルフやドワーフや獣人などの姿も多いが、町行く種族は人間が多い。露店も多く、道端は活気で溢れており、他のストリートに比べれば治安は遥かにマシ、という場所だった。
ぼんやりと窓の外に広がるストリートの景色を眺めていたガスは普段通りの私服だったが、運転席に座るヘックスはいつも通りの強化外骨格と防弾ヘルメットを付け、町の外を眺め続けていた。
「なあ、ここで合っているのか?」
ガスは、ポケットから住所が走り書きされたメモ書きを見て呟いた。
ハンドルを握るヘックスは『これで合っている』と答えると、ハンドルを切り、あるアパートの前に車を停めた。
『着いたぞ』
「ここか……」
ガスは助手席から降りると、アパートの前の歩道に立った。
『私は目立つからここで待ってるよ』
「ああ、わかってるよ」
どうせなら意地でも脱がない強化外骨格でも脱げばいいんじゃないか、とガスは思ったが、もう何度言った事か解らないので黙った。
ガスは助手席のドアを閉め、車の後ろへ回ってトランクを開けて中から大きな黒いボストンバックを取り出すと、アパートの中へと入っていった。
二階へ上がり、目当ての部屋番号を見つけたガスは、呼び鈴を押した。
どたどたと扉の向こうから足音が聞こえ、鍵がはずされてドアが開いた。
「ガスさん……!」
「よう、久しぶり」
ガスはニッ、と笑った。
彼を出迎えたのは、ライファだった。
つい先月に、ガスとヘックスが叩き潰した麻薬組織から救出し、麻薬の製造者として働かされていた少女だった。助け出されてから、身寄りがない事と恩義を感じてか、裏社会の人材派遣会社であるトライデントへの身を寄せた彼女は、晴れてボスのレインのお墨付きを貰い、ガスらと一緒に働く事になっていた。
救い出した直後は虐待の痣だらけで薄汚れていた彼女だったが、痣も治り身なりも整え、今や同世代の少女と変わりない、活発で快活な姿の彼女を見てガスはほっとした。このアパートや中に入っている家財道具から衣類にいたるまでレインが用意したらしく、買ったばかりの洒落た服を見せびらかした彼女は、ガスの訪問を笑顔で迎え入れた。
ライファの自室へ案内されたガスは、部屋の中に入るとその異質ぶりに驚かされた。本棚に並んでいる専門書――帝国語と英語の両方でそろった魔術や錬金術の専門書、それらの研究道具が入った棚、さらに机の上にはさまざまな実験器具が置かれており、今まさに何かの実験をしている最中だった。
「凄いな……こりゃ」
「魔術関係の仕事をするとなると、つい張り切っちゃって……」
少し照れながら答えるライファだったが、ガスは改めて近況を聞いた。
「どうだ調子は」
「もう大丈夫です。傷も直しましたし、新しい家や新しい環境も慣れました」
ニッコリと年相応の笑みを見せて笑うライファを見て、ガスは一安心すると本題へ入った。
「今日はボスから装備の支給でやって来た、ほら」
ガスは片手に下げたボストンバッグを手近な机の上へ置いた。
ジッパーを下げて、中身を取り出して、それを机の上に置いて見せた。ライファは、思わずその物体を見て息を呑んだ。
「……これ、ですか」
「ああ。自分の身を守る時に必要だ」
それは、口径9mmの、角ばったスライドとポリマーフレームの自動拳銃だった。グロック17の小型モデルであるグロック26で、ガスはバッグの中から紙箱に入った9mm弾や予備弾倉、メンテナンスキットを取り出して机の上に広げた。
「銃の使い方はレインから教わったと聞いてるが、使い方は大丈夫か?」
「はい。まだあんまり得意じゃないですけど……」
「これからもっと勉強しとけ、これを使う機会が多い仕事場だからな」
ガスはそう言ってから、さらにバッグから防弾ベストや、女性用の黒いBDU、ホルスターなどを取り出してライファへ渡して言った。
「とりあえずこれを一通り持っておけ、仕事で必要になったら、これを使うといい」
少し不安な顔になり始めたライファだったが、ガスはそれを察してか、笑顔で答えた。
「安心しろ。どうせこれが必要になる仕事の時は俺とヘックスがいる。何かあれば俺たちを頼れ」
「……はい!お願いします」
ガスは返事を聞いてから、一通り仕事に必要な品物の説明を行った。
荷物を渡してから、ガスは壁時計に目をやる。そろそろ時間が来たようだった。
「よし、じゃあそろそろ時間だ、事務所まで一緒に行くぞ」
「はっ、初仕事ですか!?」
ライファの期待の入り混じる視線に、ガスは答える。
「多分、またボスの悪巧みのお供だ」
トライデントの事務所へやって来たガスとヘックスとライファは、入るなり満面の笑みを浮かべたレインの歓迎を受けた。
「3人ともよく来たわ!」
その顔を見たガスは、げっ、と嫌な予感の的中に気を落とした。
大抵、レインが凄い笑みを浮かべている時は危険な儲け話が転がってきた時に限っていた。とりあえず、3人はパイプ椅子を広げてレインの席の前へ座った。
『やけに嬉しそうですね』
ヘックスは恐る恐る会話を始めた。
「そりゃそうよ、これを見て欲しいの」
レインはテレビのリモコンを手に取ると、そのまま、隣の壁にかけたテレビの電源を付けた。内蔵のレコーダーが録画していたニュース番組を再生し、ニュースキャスターが放送原稿を読み上げる映像が流れる。
『市警察の情報によりますと、この地下構造体は帝国時代に作られた物と見られ、魔術・物理の両方による障害が設けられており、進入が極めて困難で、捜索は難航しております。また、エドワード州知事は今日の会見でこの地下構造体に対する調査を行うと発表し……』
「何だこれ」
ガスの言葉に、レインはふふんと笑う。
「ついに見つかったのよ、隠された伝説の入り口が」
『何ですか?こいつの先に失われたアークでもあるんですか』
ヘックスは懐疑的だが、ガスは不意にある事を思い出した。
「そういえば昔聞いた事があるな……帝国時代に首都の地下に巨大なダンジョンを作ったとかいう……」
「まさにそれよ」
レインは懐かしげに話を続ける。
「私が70の時だったから100年近く前の話になるけれど、帝国の皇室の財産と機密を守るために、地下に巨大なダンジョンを作って、その中心に数え切れないほどの財宝を埋めた、という噂話があったの。秘密とされていたけれど、入り口は挑発するように常に開いていて、多くの盗賊ギルドの連中や無軌道な騎士たちの探検隊が入っていって二度と帰らなかった。やがて皇室が入り口を閉じて、それからは場所も完全に解らなくなって今に至るのよ」
ほう、とガスは興味深々に話を聞く。
『要するに、危険だけど征服すればすごい金が手に入るダンジョンですか』
「そういうこと」
ヘックスの言葉に、レインは頷いた。
勘が鋭くなっていたガスは、不意にそこから先のレインの言葉が何であるかを察知した。
「まさか俺たちでダンジョンにアタックしろとか……」
「その通りよ。盗賊ギルドの連中はすでにもう動いているらしいわ、他にもいろいろな犯罪組織がこぞってダンジョンへのアタックを掛けているわ」
レインは興奮さめやらぬと言った表情を浮かべている。ヘックスは、すでに目の前のボスが悪巧みをしている事に気がつき、危険手当と財宝を見つけた時の差し引き分を考えていくら手間賃が出るか頭の中で計算をしている有様だった。
「で、でも……そのダンジョンって難攻不落でしょう?大丈夫なんすか」
「最高の装備と最高の面子で攻略を決めるわ、何せ私たちには、アメリカがくれた銃という偉大な装備があるし」
『もっとも、今朝入った市警察の警官が滅多刺しにされて1人死んだそうですけどね。それも得体の知れないヤツに』
ヘックスが水を差すが、いまさらレインの考えを捻じ曲げるには至らないようだった。
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