#7 Doom And Gloom PART3
ガスとヘックスとライファの3人は、ダンジョン攻略の為の装備を整えるためにトライデント事務所の一階へと来ていた。
事務所の一階は殺風景で、雑貨や事務用品などを詰め込んだ段ボール箱や、アルミラックが数個あるぐらいだった。ライファは装備を揃えるために来たのに、目当ての物が無い事に驚いたが、当のガスとヘックスはいつも通りといった感じで、部屋の中を進んでいく。
「ここに装備があるんですか?」
「ああ、あるよ」
ガスは部屋の奥にたどり着くと、照明のスイッチ盤に手を伸ばした。
スイッチではなく、その盤そのものを外すと、数字が書かれたキーとボタンが現れる。ガスはパスワードを打ち込むと、その下の赤いボタンを押した。ロックが外れる重い金属音と共に、ガスの足元にあった床板が僅かに押し上がった。ガスはその床板を上げ、地下室への隠し扉を開けた。
「……凄い」
『無駄に凝ってるお陰で使い辛いんだ、これが』
感嘆の声をあげるライファの隣で、ヘックスは呆れ気味に呟いた。
薄暗い地下室へ入ると、ガスは壁にあった電気のスイッチを付けた。
蛍光灯の明かりに照らされ、部屋の中がはっきりと写った。広々としたその部屋は、コンクリートの壁で囲まれたトライデントの武器庫だった。
複数のガンラックには、自動小銃、突撃銃、短機関銃、軽機関銃と言った武器から、果ては対戦車ライフルやロケットランチャー、グレネードランチャーと言った重火器まで、さまざまな種類の武器が所狭しと並べられていた。また、壁に近くにあるアルミラックには防弾ヘルメットやタクティカルベスト、迷彩服や防弾チョッキと言った装備品が並べられ、暗視ゴーグルやガスマスクまでもが並んでいる。
奥には、装備品を整備するための机と椅子があり、弾薬を保管する金属製のロッカーもその近くに並んでいた。
「これ、使ってもいいんですか?」
ライファの言葉に、ヘックスは頷いた。
『ああ。各々が仕事で使う武器は大体ここから持って行く、ただし無くしたり壊した場合は自費で補充するし、使い終わったら整備して戻さなくちゃいけない、弾薬代はボスが持つ』
「まあみんなで共有する武器って事だ。今日渡したグロックみたいにボスからの支給品とは別だな」
言うが早いか、ガスは近場のガンラックから武器を取り出し始めた。
数分で使用する武器が大まかに集められた。
部屋の奥にあった机の上には、使用する装備が大量に置かれていた。選択肢が多すぎるため、何を使うか全員そろって決めかねている。
ガスの手元には、大型の軽機関銃であるM60と、自動散弾銃であるAA-12が置かれていた。M60かAA-12にしようか迷った挙句、ガスはAA-12を手に取った。
それを見ていたヘックスは、ふむ、と少し考えた。
『軽機関銃は使わないのかい?』
「止めとくよ。どうせ狭いだろうし、ランボーを気取れるような場所じゃない」
ガスにはいつも通りの選択肢だったが、あながち間違いでもなかった。
交戦距離が近距離と思われる性質上、閉所では使い勝手のよい散弾銃かつフルオート射撃が出来るAA-12はまさにうってつけの武器だった。恐らくどんな相手でも蜂の巣に出来る威力がある。
『じゃあ、私はこいつでも使おうか』
ヘックスはそう言うと、テーブルの上に置かれた武器の中から、突撃銃を取り出した。タンカラーで塗装されたボディと、レールマウントを装着したSCAR突撃銃だった。7.62mm弾を使用するモデルだ。
『……そろそろこいつを使おうと思っていた所でね』
「……気分屋だな」
ガスはそう呟きながら、ドラム型のマガジンにせっせと12ゲージの散弾を詰め込み続けた。
「ライファ、お前はどうする?」
「私はこれがあります」
えへん、とライファは渡されたばかりのグロック26を取り出すが、ダンジョンを進む装備としては力不足の武器もいい所だろう。
「それで大丈夫か?」
「大丈夫です、いざとなった魔法を使います」
なるほど、とガスは納得した。
一通り武器の準備を終えると、今度は装備の準備に取り掛かった。
レインから聞かされた話では、ダンジョンは複数の階層に別れているらしく、最下層までたどり着くには相当の手間と時間がかかるようだった。その間、襲い掛かってくるモンスターやトラップを考慮すると、武器のみ、数本の予備弾倉程度の軽装ではひとたまりにもないだろうという判断から、ガスは思い切って重装備で行く事にした。
有毒な空気の対策としてガスマスク、扉や薄い壁などを破壊する為のプラスチック爆薬と起爆用の時限信管数個、閃光手榴弾と通常の破片型手榴弾、メディキットが人数分と、長時間の探索に備えて携行食料2日分と水、ロープと万能道具であるダクトテープ、それから個人で持てる重量で許す限りの予備弾薬も持つ事にした。
さらに、各々がもしもの時の為に、予備の武器を持つ事を決めた。ガスは私物である愛用のOA-93、ヘックスも同じく私物であるコルト・ガバメントをホルスターへと入れ、ライファは無くした時の為にもう1つグロック26を持っていく事にした。
各々が持つバックパックに、それらの装備を押し込みながらガスが思い出したように2人へ忠告する。
「それからケミカルライトは必ず持っておけ、それから近接専用の武器を忘れるなよ」
ガスは刃の部分が艶消しの黒色で塗装された手斧を腰のホルダーへと差し込む。ヘックスはケミカルライトをバックパックの中に詰め込んでから、大型のハンティングナイフを腰のホルダーへと吊った。
ライファは、自宅から持ってきたであろう魔術グッズをマグポーチへと詰め込んだ。さらに、札束の様に纏められた護符のようなものも同じくマグポーチへと差し込んだ。
準備が終わってから、3人は作戦会議へと入った。
「……さて、入り口からはどう入る?」
『市警察が封じているから、正面突破が無理なら手薄な時間帯を狙って忍び込むのがよさそうかな?』
ヘックスとガスは、昼間のニュース番組で流された現場の中継映像を思い出した。
今朝、市警察の警官が1人殺されてから、オルデンヒル市警のSWATが投入され、遺体の回収作業に当たった。
坑道からたった30メートルという短い距離ながら、市警察のSWATと正体不明の敵との間で銃撃戦が繰り広げられ、無残な死体をようやく回収し命からがら撤退するという失態からか、市警察はこれ以上の捜索は無理と判断し、しかるべき組織――軍隊の派遣を待つ為に現場を封鎖するという作戦を取っていた。
もちろん、現場は野次馬や報道機関でごった返しているのは明白で、坑道から忍び込むのは得策とは言えなかった。
『駄目なら、近場から穴でも掘って坑道へ開けるか?』
「時間がかかり過ぎるし、恐らく他の組織の連中も同じことをやってるだろう」
ガスはヘックスの提案を拒否する、そんな中、ライファはひとつ咳払いをしてから2人を見た。
「方法があります」
ライファはチョークを取り出すと、倉庫の床、コンクリートの上に何かを書き始めた。それは、よく見かける魔方陣だった。円と円が重なった独特のデザインのそれに、ライファは呪文のようなものをびっしりと帝国語で書き込んだ。
「……何やってるんだ?」
『あれをするんだな』
ヘックスは思い当たる事があったのか、ライファの行動を一瞬で理解した。
「はい。移動魔法を応用して、坑道の中に入ります、座標を何とかすれば……」
ライファは、建設現場の映像と位置を計算しながら、チョークで一通り魔方陣を書き終えた。
「ここから、すぐにでも行けますよ」
『ほう』
ヘックスは感心している様子だったが、ガスは半信半疑だった。
「移動魔法か……話は聞いた事があるが、出来るのか?」
「出来ますよ。私が師匠から直々に教わりました、捕まえられてた時は、これを使えるほどの場所も道具もありませんでしたけど」
ライファはチョークを腰のポーチにしまい込むと、魔方陣の真ん中に立つ。
「行きますか?」
自信に満ちたライファの顔を見た2人は、そのまま魔方陣の中に入り込んだ。
「移動が完了するまでここから出ないで下さい、移動する瞬間には、すごい光が出るので目を瞑るようにお願いします」
「出たらどうなるんだ?」
ガスの言葉に、ライファは真剣な声で答えた。
「はみ出た部分だけがここに残ります、服や装備ならいいですけど、身体がはみ出たらそこは切り落とされるので……」
ひっ、とガスは柄にもなく小さな悲鳴を上げると、魔方陣の真ん中へと寄った。
「行きます」
ライファは目を瞑ると、ぼそぼそと小さな声で呪文を唱え始めた。
魔方陣から、青白い光が漏れていき、魔方陣の中に満ちていく。幻想的な光景に、ガスは目を奪われかけるが、次第に光を増していくうちに、目を瞑った。
ライファの詠唱が終わった瞬間、稲妻が落ちるような大きな音と共に、3人の姿は地下室の中から消えさった。
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