#2 Exile on Main St. PART.2

 翌日。朝目覚めたガスは、携帯電話に入った「来い」の一言だけ書かれたレインからのメールを見て、早々に憂鬱な気持ちになった。

 また仕事か、これだから労働は辛いとガスは呆れ果てたが、やむなく出勤する事にした。万が一に備え、“仕事着”をリュックサックへ詰め込んで、私服のまま出かける事にした。


 いつものように会社までバイクで走り、会社前に駐車する。

 ヘックスも呼ばれたのか、いつもの見慣れたセダン――スモークガラスが一面に張られた――も停まっている。

 階段を上がり、いつものようにドアを開ける。

「おはよう、遅かったわね」

 レインのよく通る声が部屋に響き渡る。いつもの顔全てを覆う防弾ヘルメットと強化外骨格のヘックスも、レインのデスクの前で椅子に座っている。

 おはようございます、と返しながら、ガスは近場にあったパイプ椅子を引っつかむと社長のデスクの前へ置き、座った。

「さて、ガスも来たところだし説明でも始めるわ」

 レインは気を取り直すと、説明を開始した。

「ついに本格的にコトを進めることになったわ。連中はドラゴンの巣を突いた……」

『はい?』

 唐突な切り出しにヘックスが思わず声を上げる。

「例のブルーピース絡みの一件よ。各ギルドや組織の連中が、この新参者の蛮行についにキレて本格的な行動を起こす事になったと。今度ばかりは各ストリートの組織も協力する方向へ動く事になって、ストリートから売人を一掃して、背後にある組織を纏めて叩き潰す、と」

「それは大変ですね」

 ガスはいかにも興味なさげに答える。

「……随分と他人事みたいな反応ね。これからの仕事の説明なのに」

「……」

『稼ぎになるなら別にいいですよ』

 押し黙るガスとは反対に、ヘックスはやる気のようだった。

「とにかく、色々なギルドや組織が、このブルーピースを卸している連中を探り当てようとしているけど、まだ結論は出てない。どれほどの規模なのか、どれぐらいの組織なのか、リーダーが誰なのか、そういう話はまだ入って来てないけど、売人どものアジトに関しては情報が入ったわ。16番ストリートにあるライブハウスに屯している連中が、また新たに入ってきた売人らしいわ。具体数も掴めてないし、場所的に警察の介入もありえるから、こっちに仕事が入ったって感じね」

『殺しですか、それとも捕まえるので?』

「依頼人曰く、出来ればどっちも所望よ。1人生きて連れてくれば、それ以外は全員殺しても構わないし、逆に生かしたらそれはそれで警告メッセージになるわ。後はルタノファミリーお抱えの拷問師が相手の口を割らせる……死ぬまでね」

 なるほど、ついに抗争か、とガスはただならぬ雰囲気に気を重くした。

 ルタノファミリーは麻薬禁制のお堅い組織ではあるが、その他に関しては他の組織と同じぐらい辛辣な評価を得ていた。元々、帝国軍の末端にいた傭兵部隊――オークやら人間やら色々な種族――の荒くれ者たちで構成されているだけに、一度ファミリーが激怒して抗争が始まると、どちらか片方の組織がつぶれるまで止まらないのだ。

 それでいて生きながらえていたのは、トライデント……レインが金を積まれて実行した“停戦調停の下準備”が功を奏したのが殆どなのだが。

「……面倒な」

 ガスはとっとと家に帰って寝転がっていたいという気持ちが勝っているのか、やる気が無かった。

「フフフ。面倒は面倒でも、今回の仕事にはこの間の倍近い額の報酬が待ってるわよ?する?しない?」

 しかし金に対する気持ちで折れた。するに決まってる、とガスは頷いた。

『いつ始めるので?』

 ヘックスの問いに、レインは答えた。

「今からでもいいわよ、武器ならウチからたんまり持って行くといいわ。それからこれが地図」

 レインが紙切れに書いた簡単な地図と住所をヘックスに持たせる。

『決まりだね。私の車に乗って行くぞ』

「はいはい」

 ガスはおざなりの返事をしたが、ガスの尻尾はぴょこぴょこと彼の内面をさらけ出すように、嬉しそうに上下に動いていた。



 16番ストリートの路地の片隅に、そのライブハウスはあった。

 敷地面積からして、さほど広くないライブハウスにはステージとバーカウンターがあり、規模こそ小さいが二階の客席から見下ろす形でステージを見る事ができる構造となっていた。普段なら従業員や客がいるはずなのだが、今日に限っては貸し切りなのか、十数人の、チンピラのような感じの若い男たちが各々テーブルを囲って酒を飲んだり煙草を吸ったり、テレビを見たり雑談をしながらたむろしている。

 ステージの上に拡げられた机には、数人の若者が一つのテーブルを囲って雑談をしていた。

 雰囲気はどこか暗く、各々の会話は何てことのない話……女の話だとか学校やストリートでの話などに終始していた。

 そのテーブルで、ニット帽を被った今風の格好の若者――ケリーが、煙草を吸いながら重々しく口を開いた。

「……なあ、仕事の話しようぜ」

 その一言で、周囲の仲間たちがざわつき始めた。

「……なぁケリー、本当にやるのか?」

「アンディさんはああは言うが、さすがにこれ以上のシマの拡大はやべぇよ」

「ジョイスとグレッチェンも殺られちまった、このままじゃマズいぜ」

 仲間達が揃ってケリーに忠告の言葉を投げかけるが、ケリーは短くなった煙草を灰皿へ押し付けて揉み消すと、呆れた顔で仲間達を見回した。

「別にどうもこうもないっしょ。アンディさんの言う通りに行動すりゃいいんだよ。ジョイスとグレッチェンは単純にヘマをやらかしただけだ、いつものようにブルーピースを捌きゃいいさ」

 ケリーの言葉に、仲間達は沈黙した。

「で、でも……」

「じゃあ、何でアンディさんが俺たちにアレを渡したか、判るか?」

 ケリーは苛立ちを隠さずに、顎でライブハウスの二階席――そこに置いてある物を指し示した。

「そ、それは……」

「トラブルを片付ける為に決まってんだろ。今時飛び出しナイフやら、ちんけな密造銃なんて笑えるぜ。アレを使えばいいんだよ、どうせケダモノどもにも商売すんだから、アレぐらいなきゃいけねぇんだよ」

 仲間達は、その言葉を聞いてごくりと生唾を飲み込んだ。

 彼らのズボンのベルトやジャケットの内側には、武器が納まっていた。

 始め、ケリーに誘われてこの道に入った彼らにとっての初めての武器は粗雑な拳銃……サタデーナイトスペシャルとも呼ばれる密造拳銃ぐらいが関の山だったが、今はまともな拳銃が彼らの手に収まっている。グロック17やベレッタM92Fと言った自動拳銃から、果てはS&WのM29リボルバーや、デザートイーグルのような大砲じみた拳銃まであるのだ。つい先週には、銃弾を連射できる短機関銃――MP9やイングラムまでもが、彼らの上司にあたる人間から支給されていた。

 頼りになるまともな武器の登場に彼らは安堵していたが、その反面、こんなもので戦わなければいけない所まで来たという実感が、彼らの心に深い重圧として圧し掛かっていた。

「もしサツが来たらどうするんだ?」

「俺たちの商売相手はケダモノどもや頭のわりい先住民どもだぜ?別に警察もあいつら相手なら構いやしないさ、それにストリートの深い所まで行けば、サツの連中だって迂闊に手出しはしない、そうだろ?」

「………」

 仲間たちはとうとう黙ってしまった。

 ケリーは面白くなさそうな表情を浮かべてから、隣に立てかけたギターケースを眺める。

「それよりも今度のヤマを成功させたら、アンディさんも奮発してくれるぜ。今回はな、25も出してくれるぜ」

「……それってまさか」

 仲間の一人はごくりと生唾を飲み込む。

「万だよ万、25万ドルに決まってんだろ!俺たちで山分けだ!!」

「マジかよ……」

「スゲェな……」

 金の話になった途端に、場の空気がガラリと変わった。重々しい空気が打って変わり、興奮気味な明るい雰囲気へと変わる。

 ケリーも、この25万ドルという超大台を目の前に自ずと心の中でテンションをあげつつあった。今はしがないヤクの売人だが、ケリーには大学生とバンドマンという表の顔がある。今はこのアジト代わりのライブハウスで、崇高な音楽を理解しないシケた客――実際はケリー率いる下手糞なバンドの演奏を嫌々聴く羽目になっている連中――相手に自慢のギターを弾き鳴らす日々だが、このヤクで手に入れる巨万の金を使って、自身のバンドを大成させようと躍起になっていたのだ。

 もちろん、ケリー自身が脳内で繰り広げる「こうなる予定」という大言壮語なキャリアの中には、今の仕事は不都合としか言いようがなかったが、毎晩の稼ぎや市場拡大の大台に乗っているケリーにとって、もはやそれは些細な問題と化していた。

 その行為の代償を支払う瞬間が、すぐそこへ迫っているとも知らずに。



『ここだな』

 16番ストリートの片隅、目当ての場所の近くにヘックスが車を停めた。

 周囲には空き地や廃墟がポツポツと点在し、ゴミ等が放置されたお世辞にも綺麗とは言えない裏路地で、どこか陰鬱とした雰囲気をかもし出していた。車の隣、フェンスの向こうに広がる空き地には焼き払われた車の残骸が転がっている。

 万が一に備えて、仕事服――黒の単色BDU(迷彩服)と軍用ブーツを持って来ていたガスはすでに出かける前に着替え終えており、ヘックスも身体に付けたアーマーにポーチやホルスターなどを付け始めている。

「なあ、あれがライブハウスか?」

『そうらしい』

 フロントガラスの向こう、チカチカと点滅を繰り返すネオンに書かれた店名は、間違いなく情報のものと一致していた。2階立ての小さなビルで、壁には張り紙やスプレーの落書きが一杯張られており、まともな人が見れば営業中とは考えられないようなボロボロの雰囲気をかもし出していた。

『仕事にかかろう』

「そうだな」

 ガスとヘックスは、車を降りるとトランクに入れた武器を取り出し始めた。

 レインから「ウチにあるのを持っていってね」と言われ、適当に選んで持ってきた武器であったが、数も規模もわからない連中を相手にする可能性もあったため、2人は比較的強めの銃火器を用意した。

『私はこれだな』

 ヘックスは突撃銃を取り出した。昔アメリカ軍が採用していたM4A1だった、ヘックスは念のために何個か弾倉を掴むと、胸のアーマーにつけたポーチに押し込んでいった。

「じゃあ俺はこれを使うか」

 ガスは、大きな、突撃銃のシルエットのような武器を取り出した。

『ガスらしいな』

 ヘックスはその武器の大きさに思わず笑った。

 ガスが取り出したのは、AA-12と呼ばれるフルオート可能な軍用の自動散弾銃だった。ガスは片手でそれをひょいと持ち上げると、円形の形をした大容量の弾倉を手に取ってAA-12に装填した。念のために、ガスもヘックスと同じように予備の弾倉……12ゲージのショットシェルが詰まった数発入りの箱型弾倉を手に取ってベルトに差し込んだ。

「もし俺たち以上にヤバい武装だったらどうする?」

『その時はその時だよ。ケツまくって逃げるさ』

 準備を終えた2人はトランクを締めると、武器も隠さずにライブハウスの前まで歩いた。

 ライブハウスのドアに張られた注意書きを見る。そこには英語と帝国語で「帝国人と非人間種お断り」と書かれていた。

「クソ生意気だな」

 不快感を隠さないガスを尻目に、ヘックスは笑った。

『ハハッ、別にいいじゃないか。どうせこの手の張り紙を貼りたがる奴のいる場所なんて、マトモじゃない奴の住処と丁寧に記してるようなものじゃないか』

「それもそうだな」

 ガスは片手に下げたAA-12のグリップをぎゅっと握り締めてから、コッキングハンドルを引く。

「じゃあ、いっちょ狩りと洒落込むか?」

『そうしよう』

 ヘックスがM4A1のコッキングハンドルを引き、弾丸を薬室へと装填しながら答えた。


 どかん、と大きな音を立ててライブハウスのドアが蹴破られた。

「!!」 

 ライブハウスの中で屯していたチンピラたちが、一斉に出入り口から現れた乱入者を見て身構える。

 対するガスとヘックスは、中にいる人数を冷静に確認した。腰だめで銃を構えながらも、ガスは小さな声でヘックスに呟く。

「……やばい、結構いるぞ」

『丸腰かもしれない。とりあえず説得してみなよ、もしかしたら丸く収まるかも』

 ヘックスの言葉に、ガスは一つ咳払いをすると声高らかに喋り始めた。

「オイ売人ども!お前らのリーダーか、一番偉い奴を差し出せ、それなら危害は加えない!」

 ガスの言葉がライブハウスの中に反響する。

 反応は、劇的だった。

「テメェふざけてんじゃねぇぞ!」

 興奮したチンピラの1人が、懐から拳銃を引き抜いた。

 .38口径の小さなリボルバーを引き抜くと、その引き金を容赦なく引き絞った。乾いた銃声が鳴り響き、放たれた弾丸がヘックスへと命中する。

 しかし、その銃弾は甲高い金属音を鳴らしてヘックスの防弾ヘルメットをかすり、兆弾して防音材の張られた壁に小さな穴を穿っただけだった。

「なっ……」

 周囲のチンピラたちが、いっせいにざわめき立つ。

『一ついい事を教えてやろう。こういう時に、隣にいるオオカミくんの頭を撃てば1匹減らせる。間違っても弾の通じなさそうな奴を撃とうは考えない事だ!』

 ヘックスの言葉が終わると同時に、ガスが素早くAA-12を構えた。引き金を引き絞った瞬間、12ゲージの散弾がリボルバーを構えたチンピラの頭蓋骨をバラバラに粉砕した。

「殺っちまえ!!」

 ケリーの叫び声と共に、周囲のチンピラたちが一斉に武器を構えた。

 轟音のような銃声の嵐がライブハウスに木霊する。ガスとヘックスは銃弾の洗礼が始まるよりも先に、近くにあったバーカウンターにその身体を投げ込んだ。

 銃弾が棚に置かれたグラスやボトルを破壊し、ガラスの破片や酒を撒き散らす。

「クッソ、意外と武装してるじゃねぇか!!」

『心配するな、地平線からオークの大群が攻めて来るよりかはマシだよ』

 ヘックスがM4A1のセレクターを単発に切り替えながら答える。

『二階だ!』

 ヘックスの言葉に、ガスはとっさに銃口を上へ向けて引き金を引き絞った。

 AA-12がうなり声を上げるように散弾を撒き散らし、頭上から短機関銃の掃射を浴びせようとしたチンピラが、顔面を散弾で叩き潰されて絶命し、前のめりになって二階席から一階へと落ちた。

「援護しろ!」

 ガスの言葉に、ヘックスは黙って従う。カウンターから上半身を乗り出したヘックスは、M4A1のセレクターをフルオートへ切り替えると、その銃口をステージに向けた。

 けたたましい射撃音と共に、弾倉に残った全ての5.56mm弾が撒き散らされる。ステージで拳銃を撃ちまくっていたチンピラたちが、いっせいに身をかがめ、ステージ上の照明が兆弾で破壊され、ガラスの破片と火花を撒き散らす。その瞬間にも、ガスは素早く身体を動かし、カウンターから二階の観客席を支える支柱に身を隠した。

 ガチン、と音を鳴らしてM4A1の弾が尽きる。ヘックスは素早く身をカウンターへ隠すと、ベストのポーチから新しい弾倉を取り出してリロードする。

『軽機関銃でも持ってくれば良かった……』

 ぼそりと独り言を呟く合間にも、チンピラたちの銃撃は苛烈を極めていた。

 短機関銃からリボルバー、自動拳銃に至るまで雑多な火器の弾幕がガスとヘックスを襲うが、その銃撃は無意味にカウンターや支柱へ弾痕を穿つだけだった。実戦経験の浅い連中め、とガスは内心笑いながらも、素早く柱の影から身を乗り出すと、AA-12の銃口を水平に動かしながら、フルオートで射撃した。

 轟音のような銃声とマズルフラッシュを放ちながら、散弾の嵐がチンピラたちをなぎ払った。腹、肩、足、そして頭などの部位を散弾で吹き飛ばされたチンピラたちがステージの上へ血と断末魔を撒き散らしながら崩れ落ちる。掃射を生き延びた幸運な何人かが、ガスに銃口を向けようとした瞬間、カウンターから身を乗り出したヘックスがM4A1のバースト射撃をすかさず浴びせかけた。

 全身を穴だらけにされ、残りのチンピラたちも絶命しステージの上に崩れ落ちた。ついに残った最後の一人が、手にした弾切れの短機関銃へ弾倉を填めようと奮闘する。

 彼にとっては永遠にも感じるような長い一瞬だったが、ガチャガチャと音を鳴らして弾倉の交換を終えた瞬間、鼻から上を散弾で吹き飛ばされ絶命した。

『ガス!二階へ!』

 M4A1の弾倉を素早く交換し、銃口をあたりに向けながらヘックスが叫ぶ。ガスは返事もせずに、素早く二階の観客席へと向かう。

 上からの銃撃を警戒しながら、二階の観客席へと上る。幸運にも生き延びたチンピラが、観客席の端にある木箱から、突撃銃――AKタイプの何か――を取り出そうとしていた。

 これで最後だ、と言わんばかりに、ガスは弾倉に残った全ての散弾を浴びせ、最後の一人を襤褸切れに仕立て上げた。


「……マズいな」

 再び1階に降りて来たガスは、本来の目的を思い出して死屍累々となったライブハウスの中を見回して、気まずそうに頭を掻いた。

『誰か生き残ってるかな?』

 ヘックスは空になった弾倉を引き抜い、念のために新しい弾倉を入れながら答える。辺りが静けさに満ちる中、ガスはステージの上、テーブルの下に隠れる人影を発見する。

「いたぞ」

『よし』

 ヘックスは安堵する。ガスは死体を踏まないよう気をつけながら、テーブルの下に隠れた哀れな生存者を引きずり出そうとする。

「オラッ、立てよ」

 ガスが腕を引っ張り、テーブルの下に隠れていたケリーを引きずり出す。

「止めろ、痛てぇ、離せよ!!離せっつってんだろオラァ!」

 悪態を付くケリーを、ガスは強引に床へ放り出した。

「このクソ野朗!覚えてやがれ!!テメェみてぇなケダモノ野郎の集まりなんざウチのグループが叩き潰してやるからな!!」

 直も悪態を止めないケリーを前に、ガスはため息を吐いてから、片手に下げたAA-12の銃口を勢い良くケリーの口へねじ込んだ。

 衝撃音と共にケリーの前歯が何本かへし折れ、くぐもったケリーの絶叫が響く。ガスは引き金に指をかけてから、ケリーの目を真っ直ぐに見て呟く。

「今の状況ぐらい理解しろ」

 静かな、冷たい言葉を聞いたケリーは、ようやく静かになった。口から銃口を引き剥がされたケリーは、口の中に転がった前歯を血と一緒に吐き出した。

 やりすぎた、これは痛そうだとガスは若干同情をケリーへ向けるが、対するヘックスは興味なさげと言った雰囲気で、周囲に転がった死体の中に死んだフリをしている奴がいないか探り始めている。

「……なぁヘックス、こいつらどう思う?」

『さあね。イエス・キリストが中指付き立ててぶん殴るレベルで生意気なのは確かだろうけど』

 ガスは銃口をケリーへ向けたまま笑うと、その銃口を下ろして胸倉を掴んで引き上げた。

「どうする?派手にやらかしたから市警察が来るまでそんなに時間がないぞ」

『収穫は十分だよ、とりあえず訳を知ってそうな……というか生きてる奴がいるだけ儲けものだろう?』

 ヘックスはそう言うと、死体の中でかすかに息があったチンピラを見つけると、軍用ブーツで首を踏みつけてから、M4A1の引き金を引き絞ってチンピラの頭を銃弾でぶち抜いた。

「毎回思うが俺たちの仕事ってスマートじゃないな」

 トドメを刺すヘックスを見ながらガスが呟く。

『いつもの事じゃないか』

 ははは、とガスとヘックスは互いに笑う中、ケリーはついに恐怖で失禁しながら気を失った。

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