真夜中コンビニ仲間
コンビニ仲間がいた。
真夜中、日付も替わって数時間が経ちそうな時間だ。しんと静まり返った部屋にこの時間には不釣り合いなインターホンの音が響き渡る。
まどろみながら捲っていた本を閉じて、ドアを開けるとその男はいた。
「よお」
彼は表情を変えずに口だけを動かす。
「寝るとこだった?」
「まあ、三時も手前だし」
「そっか。……コンビニ行かね?」
彼は視線を横に逸らしてから言った。その目の動きを見逃さない。
「じゃあ、肉まん奢りね」
「……おう、任せとけ」
外は寒い。彼を招き入れ、少し支度をするまで玄関で少し待ってもらう。
すっぴんに対する気持ち的な盾であるマスク、そしてニット帽を被り、スウェットの上にダウンジャケットを羽織って、待っている彼のもとへと戻り外へ出た。
コンビニは近い。歩いて肉まんを買いに行っても、帰り着いた頃でもまだ温かい肉まんを頬張れるほどの距離だ。とは言え、冬の夜道は暖房で温まった体を一瞬で冷えさせた。「寒いな」と分かりきっていることを言い合いながら、二人肩を並べてポケットに手を入れて歩く。
暗闇の中で目を細めてしまうほどの光が白く外へと漏れている。コンビニ独特の客が来たぞ音を響かせながら、とりあえずお菓子コーナーに行こうとしていると、視線の横を彼が通り過ぎた。彼は真っ直ぐにケーキのコーナーへ足を向けて止まった。特に目当てがあるわけではないので、彼についていく。
クリームの主張が激しいロールケーキに、食べやすそうな四角いクレープ。マカロンに数種類のプリン、そして、ザッハトルテにかぼちゃのモンブラン、エトセトラエトセトラ。相も変わらずカロリーの塊は豊富に輝いて誘惑してくる。
「どれが好き?」
「えー、そうだなあ」
少し悩んで、モンブランの隣で並んでいたショートケーキを指差した。
「ふーん、ショートケーキか」
「無性にね」
「そっか」
彼はショートケーキを二つ手に取り、真っ直ぐレジに向かった。他はいいのかと訊こうとしたときには彼は既に肉まんとピザまんを頼んでいた。
独特の客が帰るぞ音に見送られながら、彼はビニール袋から肉まんとピザまんを取り出した。
「寒い中、外で食べるのが美味いんだよな」
「ありがと」
まだあつあつの肉まんを頬張る。彼が言う通り、この気温の中食べる熱々の肉まんは最高に美味しかった。あっという間に着いた玄関前で、今度はショートケーキを取り出し、目の前に差し出した。
「……お前の誕生日だからな」
照明に照らされた彼の顔は赤かった。
「えっと……」
嬉しさなのか突然の緊張なのか声が震える。
「一緒に食べる?」
コンビニ仲間がいた。
今日、誕生日の真夜中、初めて彼は玄関で靴を脱いだ。
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