去りしあの家は
一人でいるのが慣れたはずだったのに、ふと、去った家を恋しく思うのは、夜な夜な帰ってきて空っぽの部屋に出迎えられたその時で。
自炊が慣れたはずなのに、お腹が空いても作る気が起きないのは、そのご飯の味が灰の味と大して変わらないと思い始めた時で。
親に干渉されないことが、気楽だと思っていたはずなのに、その気楽が虚しさに変わるのは、その干渉の本当の意味が胸の中へと綺麗に流し込まれた時で。
いつからだろうか。
もう戻らない、と思っていたあの家に、戻りたいと思い始めたのは。
何故だろうか。
触れたくもない、と思っていた親を、力いっぱい抱き締めたいと思い始めたのは。
知らなかった日常が非日常へと移りゆく時、容易には戻れないと知ったその日常を惜しく思った時、空っぽの部屋の中でぽつねん、と立ち尽くし、思うのだった。
あの日が恋しいと。
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