暗闇廊下の仲直り

「ねぇ、入ってもいい?」

 彼女が彼の部屋のドアをノックして問うても、その中にいる彼は返事をしない。

「顔を見て言いたいことを言いたいの」

 彼女はドアに額を預ける。

「お願い。うんって言わなくてもいいから、大丈夫だったら合図して」

 彼女が懇願しても彼の部屋から何ら音がすることはない。彼女は頭を垂らした。

「……大丈夫になったら教えて」

 彼女はそう言い残し、ドアから離れた。

 彼が合図を送ったのは深夜も過ぎた頃で、その合図はドアを静かに開けるものだった。

 部屋の中から彼は頭だけを突き出して、辺りを見渡すと、ドア隣の壁に背中を預け、体育座りをして船を漕いでいる彼女の姿を見つけた。

 彼女はずっと待っていた。

「おい、風邪引くぞ」

 彼の手が彼女の肩を揺らす。彼女のまどろんだ目が彼の顔をぼやりと映す。

「……さっきはごめんね」

 彼女の小さな口から零れ出る。

「あんな言い方嫌だったよね」

「……お前、それ言うだけにここにずっといたのか」

「悪いことしちゃったから」

 微かにだが、彼女の目がキラリと光を屈折して光ってみえた。

 彼は彼女に言いたいことがあったが、それをなんと言えばいいのか分からず、ただ彼女を抱き締めた。彼女の体は布団で温まっていた彼の体を冷やす程に冷たくなっていた。彼女を抱く腕に力が入る。

「温まろう」

 彼は優しく彼女を抱き上げ、二人、彼の部屋へ入っていった。

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