放課後コトバ
大学推薦対策で面接ノートを作成する私の前の席にトモカが座る。私は集中出来なくなって、小説のネタ帳を取り出し、ガリガリ書き始めた。
「それ、何のやつ?」
「今度のコンテストに応募するやつ」
私の夢は小説家になることだ。専業に出来なくても、兼業でもいいから小説を書いていたい。いつか、自分の本を出版することが一番の夢である。トモカはその夢を馬鹿にはしなかった。むしろ、応援してくれてる気がした。
「色んな小説読んでたらさ、17歳でデビューとか大学生でデビューとか。それは限られた人なんだろうけどさ。私もこの中に入りたいとか思っちゃうんだよね」
独り言のように続ける。
「そりゃ、元々凄い文才の持ち主って人はいるかもしれないけど、どんだけ真剣に向き合うか何だろうなあって。自分の作品を誰よりも好きでないと駄目なんだよ、きっと。自分でも先が読みたいってものを書かなくちゃ意味が無い気がして」
それでも、ズルズルと、やれ、勉強だ、部活だ、と言い訳を作ってのんびり執筆している自分がいて、それにイライラする自分がいる。17歳デビューの作家だって、同じ高校生だった訳じゃないか。そうなる訳だ。
まだ私にはその覚悟が足りてない、そう自分が言っている。
トモカが何となく「そっかー。小説家になるのか」と漏らす。
「そんな大した文才は無いですが」
あればいいなあ、という願望も込めて自嘲する。
「小説家になっても友達でいてね」
トモカがポロリと零す。トモカは少し下を向いて笑っていた。
「何言ってんの」
「いや、今のうちに言っとかないとって」
「そんなに私が直ぐに縁切りそうな奴か」
「そういう訳じゃないけど。何かさ、遠くに行っちゃうような気がして」
「……馬鹿だなあ」
私は思わず笑った。嬉しいんだか可笑しいんだか、分からなかった。
ただ、小説家になることを信じてくれてるような気がして、私のことを友達として見てくれていたような気がして。それが嬉しかった。
高校に入るまで友達と言える友達がいなかった私にとって、トモカの言葉は大き過ぎた。
「進学先はバラバラだけど、遊びにおいでよ。一人暮らしだし」
「一緒にディズニー行こう」
「ディズニー好きだなあ」
「うるさいな」
卒業まで200日を切った。
少し前の私には考えつかなかったところまできた。
一日一日が私にとって大切な経験で、一つ一つの物語として見るのが楽しくて、こんな日が終わるのが寂しくて。
きっとこの日が小説の中にも書けるんだろうな、書きたいな、なんて、思った。
Fin.
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