デート
「ねえ、デートしよう」
弁当を黙々と食べる私に
「デート?」
「そう」
「いつ」
「あたしの誕生日の日」
「別にいいけど」
「やった」
私と朱美は高校一年生の頃からの付き合いだ。入学して間もない頃、ぼっちだった私と朱美は危機感を感じ、互いに一人だけということから、弁当を一緒に食べ始めた。それがきっかけ。高校三年生になっても、その状況は変わらない。ずっと同じクラスで、ずっとお昼は一緒に弁当を食べている。三年間、互いに周りとも仲良くしつつ、二人でいた。
だけど、三年間一緒にいて、一度も二人で遊びに行ったことがないのである。
朱美の誕生日の日に遊びに行くということになってから、朱美は毎日のように予定プランの話を私に持ち出した。
まず、大きな街に行く。スイーツバイキングに行く。二人でお揃いの何かを買う。ウィンドウショッピングをする。ゲームセンターで遊ぶ。プリクラを撮る。
つらつらと目を輝かせながら語る朱美のプランを聞いていると、大事なことを思い出した。
「朱美、あんた、誕生日プレゼント何が欲しい? どうせあげるなら、サプライズ感出すよりも、使えるものをあげたいから。何なら、一緒に買い物する時に選んでもらってもいいけど」
朱美は一瞬きょとん、とした顔をしてから首を横に振った。
「あたしは何もいらない。ただ、一日中、
「別に遊ぶだけだからいいのに」
「デートだからだよ」
私は首を傾げた。朱美のその言葉の意味が分からなかった。
朱美はずっと、私と遊びに行くことをデートだと言っている。デート。どうしてデート?
「ねえ、朱美」
学校の帰り道、隣にいる朱美に口を開いた。朱美が「何?」と返事をする。
「何で朱美は私と遊ぶのをデートって言うの?」
素直な質問。思ったことをストレートに質問する。朱美は私の質問にクスクス笑った。「知りたい?」とか言ってなかなか言ってくれない。早く言うように急かす。
「鐘香が一番一緒にいて楽しい人だから」
朱美は笑う。私は口を開ける。開いた口が塞がらない。本当に塞がらない。塞がらないまま顔はみるみる熱くなる。朱美はそんな私を見て更に笑う。
「あたしね───」
朱美は静かに語り始めた。
入学したての頃、あたしはクラスで一人だった。離島から来たこともあって、中学からこの学校に入学したのはあたししかいなかった。知らない本土で誰も知らない中、これから上手くやっていけるのか心配だった。周りのみんなは徐々にグループを作っていて、あたしが入り込めるなんて隙も勇気もなかった。
あたし以外にも一人の子はいたけど、その子も他の子に声を掛けられて、グループの中へと入っていった。それをあたしは見ているだけ。
自分から話し掛ける勇気もなく、遂にグループが完全に出来た状態の中、私は一人でいた。自分の人見知りを恨みながら、弁当を開ける。
───三年間、ぼっち確定だなあ。
これから三年間の不安に、弁当の卵焼きの味は微妙な味がした。
一週間くらい経った時、いつものように一人で弁当を広げていると、最初ぼっちだった子がグループに手を振っていた。するとその子は、あたしの方へ来た。
その子は緊張で顔が強張っていて、小さく息を整えて口を開いた。
「一緒に弁当食べてもいいかな」
───女神だ。
あたしの頭の上で教会の鐘が鳴った。
あたしは驚き過ぎて言葉が出ないまま、何度も何度も頷いてみせた。その子は安堵したような顔を見せ、あたしの前の席の椅子に座った。
「私、鐘香って言います。これからよろしくね、朱美ちゃん」
今度は声を出したら涙が溢れそうだったから、あたしは黙ったまま何度も頷いてみせた。
グループに入れたのに、そのグループから抜け出して来てくれた。あたしのことを放っておいても自分が損をすることはないのに。
鐘香と食べた弁当の卵焼きの味は凄く甘かった。
「本当、ありがたかったなあ」
朱美がクスクス笑う。
「大袈裟に言い過ぎ、私もただぼっちだったから……」
顔が熱くて手で風を送る。
「グループに入ったんだからぼっちじゃなかったってば」
「……グループに入ってた記憶なんてないなー」
「棒読み」
「何、女神って」
「本当に女神に見えたんだって」
「あーもう、恥ずかしいからこの話はおしまい!」
朱美は「はいはい」と言って、またクスクス笑った。そして、私の名前を呼ぶ。
「何?」
「デートの理由聞いたんだから、これからはデートって言ってよ?」
「はいはい」
デートってやっぱり特別なんだ。そう思った。
あと、一ヶ月。私はデートまでの一ヶ月が待ち遠しい。
Fin.
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