隣の芝生が羨ましい
「お前っていいよな」
学校の帰り道、突然、横を歩くクロがぼそり、と呟いた。シロはクロの顔を見たが、いつもの無表情で夕暮れの赤に染まっているだけだった。
「いいってどういうことだよ」
シロが訊き返す。クロは「そのまんまの意味だよ」と返しただけだった。
クロとシロは高校に入学してからの仲だった。特別、趣味が合うとか部活が同じとかそういうのがきっかけではなく、単に出席番号が近く、最初の席が前後だったのがきっかけだった。
神様は何を考えているのか、何かする事に二人で組むことが多かった。そんな流れでなんとなく、登下校を共にする仲になった。
「なあ、シロ」
なかなか来ない電車を待つ中、クロがシロを呼ぶ。「何だよ」とシロはスマホを
「みんなの輪の中にいるってどんな感じ?」
いきなりの想定外の質問にシロはスマホの画面から顔を上げる。
クロは真っ直ぐシロの目を見ていた。
二人のタイプは真逆だった。
シロは社交的で誰とでも直ぐに仲良くなれるし、みんなからの愛されキャラで、何でも輪の中心になれる奴だった。
逆に、クロは誰ともつるまず、いつも一人でいる。いわゆる一匹狼だった。基本何かするときは一人でやろうとする奴だ。
「どんな感じって言われてもなあ。んー、大変」
シロがクロに笑ってみせる。
輪の中にいる自分を思い返すと、正確にはなんと言えばいいか分からないが、簡単に言うなら「大変」という言葉が一番しっくりきた。
クロが首を傾げる。
「ほら、俺って明るいムードメーカーキャラじゃん? だからさ、なんか調子悪い日とかでも明るく振る舞わないといけないっていうの? そういうの」
「何で明るくいないいけないんだよ」
「えっ、お前大丈夫かよ、とか、そういうキャラだっけ、とか言われるのが面倒なんだよ」
クラスの奴の言い方を真似ながらシロは溜息を吐く。
誰だって、この人は一言で表すとこういう奴というのはある。だが、その人はその一言だけで生きているわけではない。ただ、平均的に周りの奴らよりも、そのことが目立つだけなのだ。ならば、目立たないところもしっかり持ちながら生きている。
少し考えれば、分かることだが、面白いほどにみんなが皆見落としている。
「俺だって、暗くなるときはあるよな、クロ」
「ああ、そうやって愚痴るときもある」
「おい、それは嫌味か」
クロは「さあ」と言ってはぐらかす。
「俺から見れば、贅沢だと思うよ。みんなに好かれている分いいと思うけど」
みんなから好かれているシロとそうでもない自分だったら、絶対シロの方が学校生活エンジョイ出来ていると思う。
シロは自分の頭をガリガリと
「俺はクロの方が羨ましいけどな」
「嫌味か」
「嫌味じゃねえよ」
シロが笑う。
人目を気にせず、自分の道を行くクロ。一人だろうが、自分が決めたことなら気にしない。人に何を言われようが、どう思われようが知ったこっちゃない。言いたい奴は言わせとけばいいし、思っている奴は思わせておけばいい。誰かといて自分の意思を犠牲にして苦しくなるなら、自分から離れて楽になればいい。それがクロの考え方だ。そんなクロが、人目を気にしながらみんなと笑っているシロにはかっこよく見えた。
「俺もお前みたいに強ければなって思うよ、本当」
「馬鹿言うなよ。ただ上手くみんなと交われてないだけだ」
「隣の芝生は青く見えるって言うだろ」
「お前に言われたかねーよ。俺が言いたいんだよ」
ホームのベルが鳴る。電車が大きな音を立てながらゆっくりと止まっていく。
「なあ、クロ」
電車のドアが開くと同時に、今度はシロがクロを呼ぶ。クロは振り向いてシロ見る。
「もっと、自信持っていいって」
その生き方に。言い方は大袈裟かもしれないけど、本当にシロはそう思った。
「お前もな」
クロは電車に乗り込んで直ぐに、隣のシロの脇腹に軽く肘鉄を喰らわす。
〈ドアが閉まります〉
車内のアナウンスの後に電車のドアは閉まり、動き出す。
───まぁ、枯れないように頑張るわ。
───お互いにな。
電車のドアにもたれかかって、二人クスクス笑っていた。
Fin...
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