第4話

 ぶろろろろ、と排ガスを撒き散らしながら荒野のど真ん中、がったがったと左右に車体を揺らしながら、車は走っていく。車の背後には多くのむき出しの金属で出来た町が、もくもくと真っ黒な煙を立ち上らせていた。

そんな車内でダンはちらり、とセシルのほうを見るとおもむろに口を開く。


「セシル、キミ、なかなか似合ってるじゃないか」


「てめぇ、おちょくってんのか?」


 セシルはすかさず反論するものの、今のセシルを見れば誰しもが似合っている、と口をそろえて言うに違いない。

 ちょこん、と助手席に座ったセシルは肩まで伸びたブロンドの髪。黒をベースにした可愛らしいゴシック調のふりふりした服を身にまとっている。良く見れば靴も、無理やり履かされたのか、それともそれ以外を捨てられたのか、動きにくそうなハイヒールが足元に転がっていて先ほどまで履いていたのが伺える。

 そんなセシルを横目で眺めつつ、


「まさか。僕は見たまま、率直な感想を言ったまでだよ。いくら中身が粗暴で乱雑なセシルとはいえ外見だけであれば、きっと良いとこのお嬢さんに見えなく――」


 助手席から思わぬパンチが顔面に飛んできてダンは、うぐ、と声を上げる。


「危ないじゃないか、セシル」


「ファック! 分かってんだろうが。てめぇがクソみてーなことを言うからだ。次言ったら運転席から蹴り落とすぞ」


「でもキミ、それで運転できるのかい?」


「ああ? 出来るに決まってんだろ」


「その足の長さで? 僕がわざわざ運転している理由を忘れてるのかい? 冗談だろう。キミ言ってたよね。狭すぎて上手くアクセルもブレーキもふめねぇ、って。だからわざわざ改造したのを、まさか覚えていないとは言わせないよ?」


 今度はセシルが黙る番だった。セシルには確かにその記憶があった。でも長い間運転をするのだから、ある意味では不可抗力と言えよう。快適に車を動かすのであれば必要なことだ。もっともダンは反対をしていたので無理やり押し切った形になるのだが。

 しかしそれがまさか、こんな形でしっぺ返しが来るとは。


「ま、そういうわけだ。キミは一人で運転も出来ない、どこに行くわけも出来ない。ともなればある程度は僕に従わなきゃいけないってことさ」


「てめぇ、覚えとけよ」


 ファック、と口の中でつぶやきつつ、セシルは店員の言葉を思い出す。彼女の言いたかったことが、なんとく分かってしまった。つまり、今のままのセシルが愛想をつかされてしまえばどうしようもなくなってしまう。

 そうならないためにも、とセシルは決意する。

 必ずぶちのめす、と。

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