ある日の出来事

ゆきみ

あと五分早ければ

ある春の日の出来事。


僕は待ち合わせをしていた。



...誰と、って?それはね、僕の友達。でもただの友達ではない、大切な幼馴染。

彼女はとても優しいくて、活発で、文武両道で、友達も多く、可愛い。僕は彼女を尊敬している。そして彼女のことが、好きだった。


いつものように「遊ぼう!」と、僕は桜吹雪の舞う公園で待ち合わせしていた。

今日は何をしよう、どこに行こう、といつものように考えてみる。でも今日はひとつ、必ずしたいことがあり、胸が高鳴った。

高校生にもなって男女2人で遊ぶのは周りから見たら不思議なことかもしれないが、僕らは気が許せる相手で楽しいのでいつも遊んでいる。


...それにしても彼女が来るのが遅い。いつも時間通りに来る彼女である。僕は心配になってきた。落ちていた桜の花びらを3枚ほど拾い、僕は彼女の家の方へと駆け出した。

どこにいるの?大丈夫なのか?と、心配で胸が張り裂けそうになる。さらに走り続けて脇腹も痛くなってきた。それでも僕は彼女の元へ向かわなければいけないと思った。


走り続けてやっと、彼女の家の近くまで来ていた。体中が悲鳴を上げている。どこか休める所はないか。僕はチューリップのたくさん咲いているバス停があることを思い出し、そこへと向かった。


すると、バス停の小屋の椅子に座っている人の影が見えた。僕はひと目でわかった、それが彼女だと。

僕はすぐに駆け寄り名前を呼んだ。体を揺すった。手を握った。

少しして彼女は手を握り返してくれた。大丈夫?と聞くと、頷いた。僕は彼女をおぶって彼女の家へ向かった。部屋に行ったら、着いたら、考えていたことをしよう、そんなことを思っていた。


バス停から彼女の家までは5分ほどである。早く行って休ませてあげよう、と思いながら僕は歩く速度を早めた。

その時、彼女の腕の力がフッと抜けた。僕は驚いて体勢を立て直した。そして木陰に彼女を下ろした。


「ごめんね」


彼女の目から涙がこぼれた。僕は彼女を抱きしめた。それ以上どうしていいかわからなかった。手に握っていた桜の花びらがひらひらと落ちた。


抱きしめるのをやめ、元の体勢に戻った時、彼女は眠ってしまったように全身の力が抜けていた。


僕は彼女に病気があることを知っていた。でも、こんな早くに、こんなときに、ひどくなるとは思わなかった。




僕は彼女に、伝えたいことを伝えることができなかった。好きだ、と伝えることが出来なかった。あと、五分早ければ。

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ある日の出来事 ゆきみ @yukimi32

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