12月24日 PM11:43 @苫野浩三(山荘のオーナー)
疲れ切っていたせいか、それともたまたま打ち所がよかっただけなのか、気絶というものは、放っておくとそのままゆるやかに睡眠に移行するものらしい。
冷たい床の上にもかかわらず、苫野は膝の痛みも忘れてぐっすりと眠っていたが、その夢は必ずしもよいものではなかった。
夢の中でも、苫野は妻にがみがみと怒られていた。
曰く、ローンが返せないのは苫野のせいであるとか、もっと低単価で見栄えのする料理を考えろだとか、一言で言えば無理難題である。
自分は下らないインテリアを山ほど買い込んでくるくせに、どの口が言うんだ。これが夢だとわかっていても、いや、わかっているからこそ、何も言い返せない自分に嫌気が差した。そして――ふと、考える。
どうせこれは夢なんだ。それなら――妻ご自慢の花瓶を手に取る。そして、悲鳴を上げる妻を尻目に、大きく振りかぶり、床に叩きつける。
「ちょっとおおおおお!」
半狂乱になった妻が、苫野の膝を蹴り上げる。リアルな痛みに、思わず苦痛に呻く。
しかし、自分の夢の中で負けるわけにはいかない。苫野は壁に掛かったン十万のリトグラフを破き、アンティークの柱時計に蹴りを食らわせ、ドライフラワーを粉々にした。
俺だってやればできるんだ、苫野は肩で息をしながら満足感に酔いしれる。
と、その肩ががっしと掴まれ、揺さぶられた。あまりの痛みに振り返ると、そこには鬼の形相をした妻がいて――大声で耳元に怒鳴った。
「火事だ!」
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