水の底
透明な体、薄い皮膜。生まれたときから、臓器も血液も、骨も歯も全て透明だった。皮膜である外側だけが、薄く、白く色づいている。
たいそう気味悪がった両親に、医師は、食紅みたいなものを注入する方法と、それから特殊メイクの技術者を紹介した。
ゆるりは、高校生になる前に水に潜った。化粧も、色付きの水も、楽しくない。それより深く沈んでいたかった。
古めかしい、歪んだガラスの水槽の底、壊れた珊瑚の死骸を拾いながら、月を待つ。
月が出ると、沖に人魚とくじらが出る。
うるるるる、と、喉の奥で鳴くと、うるるるる、と、どこかから返答がある。
ときどき、投げ込まれる魚や海藻を食べると、体の中でそれらが泳ぐ。
水の中の水。
おかの上に何があったのか、もはや、知らない。
ただ、ときおり、ひとの声がする。何を話しているのか、繰り返し、繰り返し、祈るような切実さで、何かを、伝えたがる熱を感じる。
水は全ての熱を奪い去り、つめたい眠りの底へ追いやる。
水の底
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