温かい食べ物 それはグルメ
いつも冷たいものばかり食べているので、温かいものがよいと言う。
古びた木造アパートで、私はアルミ鍋を持ったまま考える。呼び鈴を鳴らしたのは、灰色の肌、濃紺の、瞳孔しかない瞳の生き物だ。出し抜けに、彼はつたない合成音声で主張した。温かいものが食べたい、と。
仕方ないので、持っていたアルミ鍋からインスタントラーメンを分けてやる。相手は、湯気で目を曇らせながら、複数ある手で箸とプラスチックフォークを使う。ラーメン初体験らしく、熱いだの麺が長いだの、乾燥と水の吸い込み具合が不均衡だの、分子の結合の問題点だの、ひとしきり文句を言っていたが、食べ進めるうちに静かになった。肌も少し桃色を帯びている。よもや、熱いものを食べて内臓が煮えたのではないか。心配していると、次の食べ物を要求してきた。
仕方ないので、近所の店で、中華やピザ、パンなどをテイクアウトする。一緒に出かけないか尋ねたが、人目につかないほうがよいと言う。私のことは、人目の内に入らないとでも言うのか。
もやもやしながら、カップに入れたスープの、溶き卵のふわふわ加減の絶妙さ、焼きたてパンのぱりっとした触感と小麦の香りがいきいきと広がるところ、焼き餃子の合い挽き肉やキャベツやニラや、エビやイカなどの複合感をたっぷりと味わう。
気づけば日が暮れていた。デザートも温かいものがよいと言うので、白玉だんごを作ってやる。白玉粉と湯と、醤油と砂糖があれば事足りるので、たまに作る。
初めは、喉に詰まるから禁止食品であると恐れられたが、一口食べると文句が消えた。
相手はこちらの文化にあわせて、頭を下げる。
今日は本当にたらふく食べました。ありがとう。お礼に、こちらの食事を、一つ差し上げましょう。
机の上に置かれたのは、薄桃色の鉱石だ。半透明で、底の方が銀色に輝いている。
エメラルドでもダイヤでもないが、中心に構造式らしきものが浮かんでいる。どうも、見たことのない式だった。
普段は、こういうものばかり口にしているもので。体が冷えていけません。
普段と違うものを食べたが、消化は大丈夫だろうか。専用の胃袋を開発して、飲み込んで腹の中に広げてあるから大丈夫だと言う。便利そうなので、これも一つもらった。
相手は頭を下げ下げ、アパートを出る。見送りは断られたので、部屋の中で、からになった財布に、もらった鉱石と胃袋をつっこんでおいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます