あなたとめぐる短編集

せらひかり

どろろんと、おじいちゃん

 庭に白いものが落ちてきた。

(これは噂の……)

 正宗おじいちゃんは、ごくりと唾を飲み込んだ。

「どろろんか……!」

 確か、そのような飛行型の撮影ロボットの名称があったはずだ。

 おじいちゃんが近づくと、がさがさと、白いものが動きはじめた。茂みに引っかかって、もがいているようだ。

 かわいそうになって、茂みから助け出してやる。平たくて、生地はわりとしっかりしている。

(おや……やけに薄っぺらいな)

 不思議に思ったが、平たい物体は、茂みから外してもらうとふわりと浮かび上がった。

 少しだけ、おじいちゃんの手に風が当たる。なるほど、平たい布のようなこれは、その薄い内側から蝶の羽ばたきめいた小刻みな風を出して、宙に浮かぶものらしい。

 おじいちゃんが見つめていると、白い平たい物体は、ぺこりと頭をさげた。

「いやいや、礼なんていいよ。人間、助け合いが大事ってもんだろ」

 確か、どろろんは、近くに操縦者がいるはずで、おじいちゃんはその人に向かって手を振っているつもりになった。

「いやあ、いいことしたなあ」

 どろろんは、頭を下げ下げ、塀を越えて行ってしまった。

 しばらくたって、玄関にしばしば大根や菜っぱが置かれるようになった。

 その際、しばしば白い布のようなものが、お腹(推定)を泥だらけにしながら、空を飛び去る姿が目撃されている。

 おじいちゃんはそれをどろろんと呼び、近所の小学生は、一反木綿ではないかと、一時期騒いだものだった。

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