第127話 月の冒険 その4
「この月人の世界が終わるって言うんでしょう。それは分かるけど……」
こうして事情が分かったところで、それでもセリナは自分達に課せられたあまりの責任に重さに言葉を濁します。ただの女子高生5人に月文明の存亡の危機がのしかかってくる――プレッシャーが半端ありません。
再び誰も何も言えなくなってしまった中、それを何とか出来るかも知れないメンバーが意を決して重い口を開きます。
「わ、私が何とかやってミマス!」
「そっか!アリスなら……」
彼女の決断に泰葉は表情を明るくしました。アリスの能力なら確かにこの難しいミッションをクリアする事が可能かも知れません。
ただし、今回はあまりにも情報が不足しています。ただの失せ物探しとはスケールが違い過ぎるのです。その点に関してセリナがツッコミを入れました。
「でも月の裏側にあったとかだったらどうするの?」
「うう……。私もそこまで広範囲には探知出来ないカモ……」
この厳しいツッコミに流石のアリスもうつむいてしまいます。また場の空気が悪くなったたところでゆみが何か閃いたのか、みんなの顔を見つめました。
「そもそもアリス1人で済むなら5人も呼ばなくて良くない?」
「だよね。なんでうさぎは全員呼んだの?」
この根本的な疑問にセリナも同調します。全員の注目が彼女達を月に呼び込んだ張本人に集中し、ラビトは焦りながらその理由を説明しました。
「えっと、その、銀王石は好奇心旺盛なんです。5人もいれば向こうからやってくるかもと……」
困っている彼を見た姫は自分の事情からこの状況になったと感じ、すぐに助け舟を出しました。
「取り敢えず、銀王石がいるかも知れない場所はあるんです。いないかも知れないんですけど……」
「じゃあまずはそこに案内してよ。ここでずっと話していても仕方ないし」
彼女の言葉にゆみが要求を出します。こうしてりんご仲間達は姫の要求を受け入れ、宝玉探しをする事となりました。
「分かりました。ではこちらへ」
話が動いたと言う事で、姫は席を立つと早速りんご仲間達を別の場所へと案内します。向かった先は同じ階にある格納庫でした。そこにあったのは、当然のようにここから別の場所に移動するための乗り物です。
その乗り物を見た鈴香が、まるで小学生のような素直で無邪気な反応をしました。
「ほえ~宇宙船だぁ~」
そう、今から別の場所に移動と言う事は、地球上のように生身の体でそのまま移動と言う訳には行きません。と、言う訳で、SF映画やオカルトな書籍でよく見かけるような宇宙船としか表現出来ない乗り物がみんなの目の前に現れたのです。この状況を前に泰葉はセリナに話しかけます。
「私達、何かすごい事になってない?」
「月に転送された時点ですごい事だよ」
「だよねぇ~」
卵を横に寝かせたようなフォルムの宇宙船の大きさはワゴン車くらいのサイズで、乗員は最大10人前後くらいのような感じです。色は地味目のダークブラウンに塗装されていました。りんご仲間達がこの状況に呆気に取られている内にうさぎが入口を開けて、みんなを中に案内します。
姫を含む全員が乗り込んだところで、すうっと音も立てずに宇宙船は浮かび始めました。そうして格納庫の扉は開き、宇宙船は移動を開始します。
移動中、月面の地表の様子を眺めていた鈴香は、その感想をのんきにつぶやきました。
「月の上にうさぎさんはいませんねぇ~」
「や、そもそも外には空気自体がないんだって」
ゆみが律儀にツッコミを入れる中、セリナが月の事について最も基本的な事に気付きます。
「そう言えば月って重力が6分の1のはずだけど……」
「あっ、そう言えば違和感があんまりない」
この発言を聞いた泰葉はその場で手足を少し動かしてその言葉の通りだと実感しました。セリナの疑問には運転していたうさぎが一言で答えます。
「重力は調整しているんです」
「そっちの方が都合がいいの?」
「ええ」
この宇宙船でも月の宮殿内でも重力は地球と同じ1Gに調整されているとの事。道理で違和感がない訳です。そこで更に質問を続けようとしたセリナを、ゆみがやんわりと止めました。
「難しい事は別にいいんじゃない?」
「そ、そだね」
あんまり追求しても話は面白くはならないだろうと、セリナも納得してこの話題はここで切り上げました。
それから宇宙船の進む先を見ていると、ゴツゴツした月の荒野の先に人工物のようなものが見えてきます。その光景に興味を覚えた泰葉が思わず指をさしました。
「あれって……遺跡?」
「そうです。そこが目的の場所、古代宮殿です」
宇宙船の向かった先は月人達がかつて使っていた遺跡のようです。程なくして、その古代宮殿の発着場に宇宙船は吸い込まれるように入っていきました。
宇宙船が着地すると、古代宮殿の格納庫は扉を閉じ始めます。完全に閉じた後、宇宙船の扉が開きました。この状況に多少の不安を感じたセリナが、念のために確認を取ります。
「ここも空気があるの?」
「はい、中はこのままで移動出来ます」
宇宙船から降りた一行は早速宝玉を捜す冒険を開始します。りんご仲間達が古代宮殿の奥へと移動を開始し始めた時、一緒に来ていた現地組の2人は全く動こうとしていませんでした。
「私達はここで待っていますね」
「え?一緒に行こうよ」
この状況に泰葉は姫とラビトを誘います。
けれど2人は全く動こうとはしませんでした。
「私達月の者が一緒だと石はきっと現れません。なのでどうか皆さんだけでお願いします」
姫の言葉に泰葉も一応は納得するものの、すぐには足を動かせないでいました。1人遅れている状態になったのを見かねて、セリナが彼女の肩を叩きます。
「行こっ」
「う、うん……」
こうして多少の未練を感じつつ、一行は月のお宝を探しにこの古代宮殿の中の探索を始めます。遺跡の中はまるでSFとかでよく見る巨大な宇宙船の内部のようでした。進んだ先は取り敢えず一本道で、道に悩むと言う事はありません。
遺跡と言う事で動くものが何ひとつない状況に、みんな変にテンションが上っていました。ぞろぞろと通路を歩きながら、ここで鈴香がつぶやきます。
「すごいねぇ~」
「私達、SFの世界を冒険しているの?それとも歴史ファンタジーなの?」
この特殊な状況を前に、セリナがその時思いついた疑問をぶつけます。このジャンルの話題には泰葉も少し困っている様子。
「古代文明だしねぇ。どっちだろ?」
「お月様の冒険から童話だよぉ~」
「そ、そうかも……」
こうしてジャンル疑問は、鈴香の有無を言わせない強い意見で童話と言う事に。月の文明の遺跡の中を歩いていると言う事で、アリスも感想を口にします。
「幻想的ですヨネ」
「ここのシステムが生きてるって事は、永久機関的な原理で動いてるのかな?」
ここで、セリナがこの遺跡のシステムについての疑問をつぶやきました。
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