第126話 月の冒険 その3
「気に入ってもらえて良かった」
お菓子を食べてお茶を飲んで落ち着いたところで、りんご仲間は姫に聞かなければならない事がある事を思い出しました。そこで泰葉は姫の顔を見つめます。
「で、あの……」
「そうですね、そろそろ本題に入らなくちゃですよね」
話が本題に移らなければいけない事を悟った姫の顔から、すうっと笑みが消えていきます。場の空気が少し重くなった事を悟り、中々次の言葉が言い出せない雰囲気になったところで、セリナが頑張って口を開きます。
「あのうさぎからは、話が出来ればそれだけでいいって言ってたけど……」
「え?もしかして何の説明もしていなかったの?」
姫はラビトがほぼ何も言わずにここまで連れてきた事を知り、その可愛い口を両手で塞ぎます。自分が責められていると自覚したうさぎはすぐに頭を下げました。
「す、すみませんっ!」
「ちょ、どう言う事?私達に何をさせようって言うの?」
この雰囲気に、自分達が何かすごく責任の重い事をさせられるのではないかと危惧したセリナはつい大声を上げてしまいました。場の空気が悪くなって、泰葉は彼女を止めようとします。
「セリナ、落ち着いて!」
「みなさんが怒るのも当然ですよね。何の説明もなしに連れて来られたようですし……」
姫は訳も分からずにつれてこられたりんご仲間達に同情します。その顔はとても困っているようでした。これからどうしたらいいのか騒然とする中、泰葉は自分達をこの場に呼び寄せた姫のその悲しそうな顔をじっと見つめます。
「でも、困っているんですよね」
「そう、助けて欲しいのです。虫のいい話ですけれど……」
そう話す姫の真剣な顔を見ていると、みんなも何も言えなくなるのでした。そんな中、今後の行動についてセリナが話を切り出します。
「泰葉、どうするつもりなの?」
「まずは話を聞いてみようよ。ここまで来ちゃったんだし」
「しょーがないなぁ……まぁ乗りかかった船だしね」
泰葉の気持ちを確かめたセリナは小さくため息を吐き出すと、少し困ったような笑顔を浮かべました。この流れに異論を挟むりんご仲間は誰もいません。雰囲気的に話を頼みやすくなった空気になり、姫は改めて確認を取ります。
「話を、聞いてくださいますか?」
「お願いします」
マジ顔になった泰葉にそう言われて、姫はこの宮殿の事情を話し始めました。
「私達の一族はご覧の通り月の地下で暮らしています。長い間それなりの力も維持してきたのですが、今、その力が尽きかけているのです」
「さっきこの宮殿を見たけど、とてもそんな風には……」
姫の話にセリナがツッコミを入れます。
「そう見えますよね。でもそれは見せかけでしかありません。今のままでは後20年持つかどうか……」
「20年って……後ちょっとしか」
「そうなんです。だから急がないといけません」
どうやら想像した以上に事態は深刻な様子。姫の言葉に感想を口にした泰葉も思わず口をつぐんでしまいます。あまりの重い展開に誰も何も言えない中、ゆみが姫に改めて質問を飛ばします。
「で、私達に何が出来ると?」
「王宮の宝玉、銀王石を見つけて欲しいのです!」
姫がりんご仲間達にしてもらいたい事、それが宝玉の探索と言う事のようです。懇願する彼女の顔は悲壮感に満ちていました。話がマジモードで淡々と進む中、この展開の飛躍に理解が追いつかないセリナがその疑問を解消しようと更に説明を求めます。
「銀王石?それが力の源なの?」
「そうです、この石がなければこの文明は維持出来ない事でしょう」
これで宝玉が宮殿に必要な事は分かりました。もうひとつの謎はそのとても重要なミッションにりんご仲間が必要な理由です。この疑問はゆみが口にしました。
「私達が必要な理由は?」
「月人のセンスではもう見つけられない銀王石も、きっとあなた方ならば見つかるはずなのです」
この姫の話から推測すると、宝玉はこの星の住人が必死になって探したけれど見つからなかったと言う事情がうかがわれます。ただし、この説明だけではまだまだりんご仲間を納得させるのには情報が不十分でした。と言う訳で更にゆみが続けます。
「どう言う事なんですか?」
「王石は特別な意思を持った石です。かつて月人の祖先が約束を交わし、それ以降我が王家と共にありました。しかし……」
「今はもう手元にない……と?」
ゆみが質問を続ける中、ここで鈴香が話に割って入りました。
「石が逃げちゃったの~?」
「そうです。私達は銀王石をまた迎え入れたいのです。そのために是非協力してください。お願いします」
姫は言い終わると深々と頭を下げます。月の偉い人に丁寧に頼み込まれてりんご仲間達は困惑してしまいました。ここで仲間内でも一番の慎重派のセリナがこのミッションの一番の問題点について口にします。
「でも出来るの?私達に」
「あなた方は不思議な力を持っている、そうですよね?」
「えっと、それはそうですけど……」
いきなり質問を質問で返されてセリナは戸惑いました。彼女がうまく返事を返せないでいる中、姫は言葉を続けます。
「銀王石はそう言う力を好むのです。引き寄せられると言ってもいい……」
「不思議な石なんデスネ」
宝玉の特性についてアリスが感想を口にしていると、その言葉にかぶせるようにゆみが探索についての必要な情報を求めました。
「で、具体的にそれの銀王石って言うのはどこに?」
「分かりません」
「え?」
予想外の答えが返ってきた事でゆみは思わず聞き返します。みんながその言葉に目を点にしている中、姫はすぐに宝玉の特性について説明しました。
「銀王石は意思を持つ石、気に入られないと顔を出さないのです」
こうして宝玉が取扱の難しいものだと言うものだと判明した後、当然生まれる疑問をセリナが口にします。
「じゃあ今までどうやって保管してきたの?」
「私達王族と契約をしていたんです。一族としての……」
「契約?石が約束を破ったの?」
「私の力が弱くなったので……それでだと思います」
宝玉の事情を話し終わった後、姫は暗く沈み込んでしまいました。このやり取りを、珍しく真剣に聞き込んでいた鈴香がここで感想を漏らします。
「大変だぁ~」
「ふうん、まるで座敷童子みたい」
同じ話を聞いていたゆみは日本の民話を思い出して、それを今回の事例になぞらえました。この話を聞いた姫は座敷童の事を知っていたのか、すぐに返事を返します。
「確か、地上の昔話ですよね」
「そう、家を繁盛させるために運を呼び寄せる妖怪を閉じ込めてたんだけど、逃げられて没落するって言う……」
「確かに似ているかもデス」
座敷童子の伝承を簡単にゆみが説明する中、アリスもその共通点に納得しました。危機意識を抱える姫はここで強く訴えます。
「で、でも、スケールが違います!このままでは……」
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