第128話 月の冒険 その5
かつては人が利用していたとは言え、今は廃墟同然のこの場所が今でも空気があるとか、他にも照明がついていたりと色々と不思議な要素がてんこ盛りで、疑問自体尽きる事がありません。
もしシステムを可動させるのに何らかのエネルギーを生み出し続けなければならないのだとしたら、自然エネルギーを利用した機械みたいなのがずうっと可動し続けているのか、それとも――。
この疑問を聞いた泰葉はセリナの顔を見つめました。
「何年前の遺跡なのか聞いとけば良かった?」
「意外と30年前までここを使ってたとかだったりして」
ゆみはシステムの疑問に笑いながら冗談で答えます。そうやって雑談を楽しみながらみんなが冒険を楽しんでいると、早速第一関門がやってきました。今まで迷いなく進んでこられたのは道が一本道だったから。ここでとうとう別れ道が発生してしまったのです。
「あっ」
考えてみれば、この探索を始める前に姫から遺跡の地図をもらっていません。闇雲に進めば大幅な時間のロスになってしまいます。
困った泰葉はみんなに相談を持ちかけました。
「どうする?」
「調べマス」
当然、こんな場合に役に立つ能力を持っているのはアリスしかいない訳で――彼女は率先してその能力を発動させました。アリスが適切な行き先を示そうと感知能力を駆使している間、セリナはポツリとつぶやきます。
「分かるかな?」
「アリスを信じようよ」
泰葉が自分の意見を口にした時、それまで目を閉じて能力で遺跡内を探っていたアリスの目がカッと見開きました。どうやら何かを察知したみたいです。
「えっと……こっちっぽいデス」
「よし、行こう!」
彼女の指示に従って、泰葉達はその方向に向かって歩いていきました。歩きながら先頭を歩くアリスに泰葉は声をかけます。
「石の意志、感じた?」
「それが銀王石かどうかは分かりませんケド……」
「やっぱりここには何かあるんだ。当たりだといいよね」
アリスの感じた何かの正体は分からないまでも、やはりこの古代遺跡には何かしらの秘密が隠されているようでした。りんご仲間達はここに来て話が現実的になったような感覚を覚えます。アリスは別れ道の度に、まるで答えが分かっているかのようにひとつも迷う事なく的確に道を選んでいきました。
その繰り返しをしていると、鈴香がこの状況に既視感を覚えます。
「何だか3Dのゲームをしているみたいです~」
「モンスターが出てこなくて良かったよ」
ゆみはすぐにその言葉にツッコミを入れました。この流れに乗ってすぐにセリナが言葉を続けます。
「私達、武器持ってないしね」
「敵が出てきたら全滅しちゃう」
泰葉もそう言って笑います。ただ、この遺跡内にそう言う存在がいないとは断定出来ない訳で、そう言う意味で言えばブラックジョークなのでした。
黙々と遺跡の奥深くへと進みながら戦力不足的な不安を抱えてしまった泰葉は、ここにいないパワータイプの仲間の事を思い浮かべます。
「ルル、部活楽しんでるかな」
「きっといい時間を過ごしてるよ」
セリナは彼女の不安を分かっているのか気付いていないのか、無難な返事を返しました。何が起こるか分からない緊張感に押し潰されないギリギリで、遺跡の探索は続きます。
こう言う時、つくづく自分達の能力があまりにも役に立たない事を、アリス以外のりんご仲間は口にはしないものの、それぞれが薄っすらと感じるのでした。
「こっちデス」
遺跡に入って何回道を曲がった事でしょう。かなり奥深くにまで潜って来ました。アリスの能力のおかげで、りんご仲間達は攻略本を読んで最短ルートを進んでいるような感覚を覚えます。
今のところ何の問題も発生していないのもあって、泰葉は心に少しばかりの余裕を持っていました。
「アリスのおかげで迷わなくて済むのはいいね」
「何かイマス!」
「えっ?」
突然の彼女からの警告に、りんご仲間達の間に戦慄が走ります。泰葉が狼狽する中、ゆみが最悪の状況を想像しました。
「まさか、モンスター?」
「いえ、これは悪意ではないみたいデス」
感じる気配の分析をしたアリスは、その最悪の想定を否定します。だからと言って、安心出来る状況でない事も確か。りんご仲間達はここに来て、今後の行動について大きな決断を迫られる事となりました。
とは言うものの、まだまだ決断を下すには情報が少なすぎます。形のない不安が襲う中、セリナが相談を持ちかけました。
「どうする?」
この問いかけに誰も何も答えられません。もっと情報が欲しい泰葉は、先頭を歩く少女の背中越しに声をかけます。
「アリス、大丈夫そう?」
「何かを探っているみたいです。敵意は感じられマセン」
「じゃあ、警戒しながら進んでみようか」
彼女の言葉を信じた一行は、ここからは慎重にゆっくりと進む事になりました。一歩進むごとにプレッシャーがのしかかり、さっきまでの遠足気分は簡単に吹き飛びます。
この雰囲気に押し潰されそうになったセリナは、頼みの綱の万能少女に全てを託しました。
「ヤバくなった時はアリス、お願いね」
「は、ハイ……」
ここにいる5人の中で唯一攻撃能力も持ち合わせているアリスのプレッシャーは他のりんご仲間の比ではありません。笑顔で返してはいるものの、その顔には重い緊張感が読み取れました。
このままでは彼女が持たないと感じた泰葉は、セリナの顔を見つめます。
「あのさ」
「何?」
「アリスは1日に10分しか力が使えないんだよ」
「うん」
泰葉は改めてアリスの能力の縛りの確認を取りますが、セリナは緊張感で普通の状態でないためか、まだ何が問題か気付いてはいないようでした。
泰葉は軽くため息を吐き出すと、マジ顔で答えを口にします。
「頼り過ぎたらヤバいよ」
「うっ……」
自分がアリスに必要以上のプレッシャーをかけていた事を自覚したセリナは、思わず言葉を飲み込みました。これから先の事が心配になった泰葉は、アリスを気遣います。
「残り時間、大丈夫?」
「ごめんなさい。感度を上げていたからもうあんまり持たないカモ……」
さっきまでは別れ道の時だけ能力を使うようにして能力の残り時間の節約をしていた彼女でしたが、気配を感じてからは常に使いっぱなしで1日10分の時間制限の限界がかなり近付いている様子。限界以上の力を使うとアリスは倒れてしまいます。と言う事で、探索の終了をみんなが考え始めたその時でした。
突然りんご仲間達の頭に、何者かが直接声をかけてきたのです。
「お主ら、何者だ!」
「うわっ!」
この突然の異常事態に驚いた泰葉は大声を上げました。のんびり鈴香もキョロキョロと周りを見渡しながら、声の主を探します。
「どこから聞こえてくるのぉ~」
「この声デス!」
声を聞いたアリスが叫びました。さっきまで彼女が感じていた意識の正体こそがこの声の主のようです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます