第113話 レベルアップ その2

 盛り上がってる雰囲気を感じて、ここで鈴香がこの話題に参戦します。新しい協力者が現れたと言う事で、改めてゆみが簡潔に説明しました。


「みんなで新しい部活を作ろうって話」


「へぇ~。面白そう~」


 面倒くさがり屋の鈴香までが興味を抱いたこの新部活話。他のメンバーも概ねこの流れに好意的です。その中でただ1人、異を訴える人物がいました。

 そう、それは帰宅部代表の泰葉です。彼女はそもそも放課後に学校に残って何かをすると言う行為自体に疑問を抱いていました。


「いやでも部活って何をするつもり?」


「じゃあ今からその話を詰めていこうか」


 その疑問を肯定的に受け取ったゆみは、早速この話を進めようとします。この反応に自分の意見がうまく伝わっていないと感じた泰葉は、すぐにゆみの顔を睨むように見つめました。


「ちょ、私賛成してないからね」


「何付き合い悪いなあもう」


 乗ってこない泰葉にゆみは頬を膨らまします。泰葉が孤軍奮闘する中、ここまで慎重に様子をうかがっていたアリスがついに動きました。


「私達で新しい部活、面白そうデス」


「アリスまで!」


 味方になるかも知れないと思っていた彼女までもがゆみの話に乗っかってしまい、泰葉は分かりやすく肩を落として落胆します。こうして多数決の法則が働き、話はなし崩し的にみんなが集まって部活をするとしたらと言う話になりました。


「私はぁ~お昼寝部がいいなぁ~」


「それ部活に出来んでしょ」


 鈴香の彼女らしい欲望たっぷりののんびり意見は速攻でゆみに却下されます。ただ、どうやらこの流れは織り込み済みだったらしく、鈴香は続けて別の部活案を発表しました。


「じゃあ猫部~」


「学校で猫飼うつもり?」


「ダメかなぁ~」


「無理でしょ普通に」


 鈴香と言えば猫と言う事で、彼女にしては珍しくしつこく食い下がるものの、長年コンビを組んでいるゆみにうまくあしらわれてしまい、この案も認められませんでした。どうやっても自分の主張が通らない事が分かると、彼女は途端に興味を失います。

 次に口を開いたのはインドア派代表のセリナです。彼女もまた自分の望みを素直に口にしました。


「大会とかない部活ならやってもいいかも。いつもやってる事をこの教室以外の場所でするって感じだし」


「りんご部だ!」


 彼女の主張に何か閃いたらしいゆみが突然叫びます。その部活の活動内容に全くピンとこなかった泰葉が珍しくツッコミ役に回りました。


「いやだからそれ何をする部活なのよ」


「放課後にずーっとおしゃべりする部」


「絶対認めてくれないわ」


 部活をしたくない泰葉は話がどう転がってもそれを阻止する気満々です。いつもならこの手に話にチョロいくらいに簡単に乗っかるはずの彼女が頑なに話に乗らないので、ゆみもまた頭を悩ませ始めました。


「難しいねぇ」


「みんな楽しようとしか考えてないでしょ」


 全員帰宅部と言う事もあって、みんなで何かしようと言う話になっても、具体的にはすぐに思い浮かびません。それぞれのメンバーの頭の中にあるのはみんなで楽しい時間が過ごせればいいと言うそれだけ。具体的な何かを思い浮かべられる人が誰もいなかったために、この話は結局ちっとも前には進みませんでせした。

 こうして現状維持な雰囲気に落ち着きかけたところで、改革派のゆみがここで自分の主張を訴えます。


「でも、何もしなかったら何も変わらないよ」


「何もしなくても、いつも何かしら向こうからやってくるけどね」


 その熱血セリフに泰葉がため息を吐き出しながらツッコミを入れました。その言葉に思い当たるふしのあったセリナがポツリとつぶやきます。


「あー、青リンゴとか」


「泰葉のおばあちゃんちでの宝探しトカ……」


「アップルパイで能力に目覚めちゃうしぃ~」


 彼女に続いてアリスと鈴香も今までの事を思い出して言葉を続けました。彼女達の言葉を聞きながら泰葉はここで意見をまとめます。


「今まで色々あったよね。こっちから何かしようとしている訳でもないのにさ」


「じゃあ、逆にこれからは積極的に何かしようとしてみよっか?」


 ゆみは自分の言い出した話をすぐにはあきらめきれず、ここでも何とか自分のペースに持っていこうと言葉を尽くしました。その意図を汲んで、セリナが彼女に問いかけます。


「あ、もしかしてそれが部活って事?」


「別に部活じゃなくてもいいんだけど」


 部活じゃなくてもいいと言う言質をとった泰葉の目がここで突然輝き出し始めました。


「じゃあ休みの日にみんなでまたどこかに遊びに行く?」


「うーん、それはいつもやってる事だしなぁ」


 ゆみは泰葉の遊びの誘いをやんわりと断ります。彼女がやりたいのは何か新しいチャレンジなのです。だからと言って、そのためにみんなで部活を始めて自分のプライベートな時間が削られるのを泰葉はとても嫌がりました。


「きっとこれからも色々何かあるって。もうそれでいいよ」


「泰葉、本当にやる気戻らないんだ。もうちょっと本気出せよ!」


 セリナはこの話題になってからずっと消極的な彼女の肩を両手で掴むと、次に激しく前後に揺さぶります。この突然の状況に泰葉は困惑しました。


「うわああ。ちょ、やめてセリナ。本来そんなキャラじゃないでしょ!」


「勝手に人のキャラ決めないでよ」


「それそっくりお返しますぅ~」


 お互いにキャラじゃない言動をしていると言う事で、場に微妙な空気が流れ始めます。そもそもインドア派のセリナは本来なら泰葉の主張に賛同するはず。

 けれど実際にはゆみの部活の話にすぐに乗っかっています。つまり彼女はみんなと楽しい時間が過ごせるのなら、プライベートな時間が削られてもいいと言う考えの持ち主だったのです。

 友達の意外な一面を目にした泰葉は、自分の中で勝手に決めつけていたイメージを書き換えました。


 そんな感じで、部活話は微妙なラインでもってふわっと話の中心から外れます。泰葉はこの話を完全に消滅させようと、今度はどんな話を持ちかけようかと考えを巡らせました。そんな会話の止まったりんご仲間達の前に、突然見慣れない人物が現れます。


「やあ」


「あ、アスハ?」


 その人物を唯一知っている泰葉が大声を上げました。そう、この突然の乱入者は彼女の対となる人物、魔界の少女、アスハだったです。何故突然彼女が現れたのか全く見当のつかなかった泰葉は、取り敢えずまずは現状を確認しようと彼女に話しかけました。


「ちょ、ここがっこ……」


「大丈夫、今止めてるから」


 泰葉が話し始めたところでアスハは人差し指を立ててドヤ顔で返します。止めてあると言うその言葉の意味が分からなかったため、泰葉は首を傾げました。

 この突然の乱入者の登場に周りのりんご仲間達も困惑します。


「だ、誰?」


「この人が、アスハ……サン……?」


 ゆみとアリスがそれぞれ言葉を漏らす中、当事者のアスハはにっこり笑ってりんご仲間達に向き合いました。

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