レベルアップ

第112話 レベルアップ その1

 ある日、家でくつろいでいた泰葉のおばあちゃんのスマホに突然魔界から連絡が届きます。相手を確認してすぐに通話を開始すると、そこから聞こえてきたのは泰葉の対となる存在、アスハのおばあちゃんのルイコの声でした。この突然の電話に全く思い当たる節のなかったおばあちゃんは困惑ます。


「ん?今日はどうしたんだい?」


「もうそろそろ時期かと思ってね」


 その一言でおばあちゃんも大体の事を把握しました。把握自体はしたものの、その内容にににおばあちゃんは懐疑的です。


「そうかい?」


「そうだよ、こっちではもう準備は整ったからね」


「まだ早いと思うんだけどねぇ」


 このおばあちゃんの疑問に電話口の相手からの返事はありませんでした。この事から、どうやらルイコは決定事項を伝えただけのようです。通話が切れた後、おばあちゃんは顔を頭上に向けてふうとため息を吐き出しました。それから何やら準備をしようとソファから立ち上がってどこかへと向かいます。

 この魔界からの連絡は一体何だったのか、それは後にりんご仲間達に大きく影響するのですが、今はただ時間が穏やかに過ぎていくばかりなのでした。



 その頃の泰葉は昼休みになって鈴香ばりに脱力した状態で机に突っ伏しています。どうやら文化祭が終わって力を使い果たしてしまったみたいでした。


「ふー」


「どうしたどうしたー」


 そこに彼女の異変に気付いたセリナが元気よく声をかけてきます。泰葉は顔を机に押し付けたまま、だる~く返事を返しました。


「気が抜けちゃったあ」


「文化祭も終わっちゃったしねぇ」


 セリナが泰葉に同調していると、そこに呆れ顔のゆみが現れて腰に手を当てて忠告します。


「期末テストも近いんだからいつまでも抜けてちゃダメだよ」


「勉強かぁ」


 気の抜けた泰葉にその言葉は右から左へと抜けていくばかり。話にならないとゆみは更に言葉を続けます。


「そもそも泰葉帰宅部でしょ」


「うぐ……」


「帰宅部が成績悪かったら言い訳のしようがないよ」


 言葉の針が次々に刺さって泰葉のヒットポイントはゼロになりました。ダメージを受けて更に生気が似けていく彼女を見て今度はルルが声をかけます。


「じゃあ、今から書道部に入るっスか?」


「いや、それはちょっと……」


 今までずっと帰宅部だった泰葉はその誘いを断りました。話が部活の流れになったところで、ここまでずっと黙って聞き役に徹していたアリスが不安そうにつぶやきます。


「部活、私も入った方がいいんでショウカ?」


「入りたい部活があったらね」


 そのつぶやきにゆみが返事を返しました。


「入りたい部活……考えてみます」


 話題の中心が自分から逸れ始めたのを敏感に察知した泰葉はここでガバリと起き上がると、悩み始めたアリスの方に顔を向けます。


「ウチの学校の部活は文化祭で色々見たでしょ」


「あ、ハイ」


「何か面白そうなところはあった?」


 この泰葉の質問にアリスはしばらく考え、そうしてにっこり笑みを浮かべると回答を導き出しました。


「えーっと……書道部に日本の文化を感じマシタ!」


「アリスっち、分かってるゥー!」


「でも、入るとなると少し考えちゃいマスネ。他にも魅力的な部活、ありますカラ」


 自分の所属している部活を褒められて喜ぶルルでしたが、その後の言葉に少し落胆します。その後も悩み始めて無言になったアリスに、ゆみは優しくアドバイスをしました。


「すぐに決めなくていいよ。強制じゃないんだし」


「って言うか、これ泰葉に部活を勧める流れなんじゃなかったっけ?」


 話がどんどん脱線していく中、セリナが話を本筋に戻そうとします。このまま話を蒸し返されたくなかった泰葉はここで正論を口にしました。


「いや、そもそもテストの結果を言い訳に部活に入ろうと言うのは違うんじゃないかね?」


「じゃあ、勉強を頑張らないと!」


「とほほー」


 結局話は振り出しに戻り、泰葉はまたがっくりと机に突っ伏します。そうして集まっていたりんご仲間達はこのオチを見て軽い笑いに包まれたのでした。



 放課後、家に帰った泰葉はこの時に受けた屈辱をナリスにぶつけます。


「……って感じだったんだよ。別に成績は平均点いつも行ってるのにさあ」


(じゃあ今度のテストでもその成果を出せればいいんじゃないの?)


「だ、だよね、うん」


 相棒の無表情な西洋人形にも正論を口にされて、泰葉の表情は固まりました。文化祭の準備に力を入れすぎていた彼女は今度のテストに関してはあまり自信がありません。まだテストまで時間に余裕はあるものの、遅れた分を取り戻そうと言う気力を今の泰葉は持ち合わせていませんでした。

 それもあって真顔で見つめるナリスから泰葉は目をそらします。


(手応えはありそうなの?)


「え、えーと……」


(結果は数字で返ってくるんだから、言い訳出来ないわよ)


「だよねぇ……」


 結局、共感してもらおうと思ったら逆に説教される形となり、泰葉は無言にならざるを得ませんでした。その日はモヤモヤした気持ちのまま彼女は眠りにつきます。


 次の日の朝、一晩眠ってスッキリとした泰葉は気持ちを切り替えて授業に臨みました。その日の放課後、帰り支度をする泰葉の前にりんご仲間がまた集ってきます。

 みんなが昨日の話の続きをしようと構えているのが雰囲気で分かったので、どうにかそれを阻止しようと泰葉は先手を打ちました。


「そもそもさ、今までずっと部活に入っていなかったんだから、今更入るって事もないよね」


「まぁ、確かに……」


 彼女の言葉にセリナが同意します。いい感じで自分の主張が通りそうだと手応えを感じた泰葉は更に主張を続けました。


「大体そんな事言ったらこの中で部活頑張ってるのルルだけじゃん」


 そう、6人もいるりんご仲間の中で部活を頑張っているのはルルただ1人だけなのです。それなのに自分の事は棚に上げて、他のメンバーをどこかの部活に入れようなんて話をするのはおかしいと泰葉は訴えるのでした。


 帰宅部とは部活を拒否した人の事を言います。だからこそ帰宅部の人は今更部活動なんて誰もやりたくはないのです。部活に費やされる時間を自由に使いたいのです。

 それはりんご仲間の帰宅部5人もみんな同じ気持ちなのでした。


 泰葉の強い主張によって部活話はこれで終わったはずでした。

 けれど、ここでゆみが全く新しい話を切り出します。


「……部活って新しく作る事も出来るんだよね」


「部員も5人いればいいそうだし」


 その話に乗っかって何か閃いたセリナも言葉を続けました。新しい部活を作ると言うこの面白そうな話は段々盛り上がっていきます。

 一番この話に興奮していたのは言い出しっぺのゆみでした。みんなに向かってまるで有名企業のCEOみたいに大袈裟なプレゼンを始めます。


「作っちゃう?りんご仲間みんなで」


「なになにぃ~何の話ぃ~?」

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