泰葉、倒れる
第89話 泰葉、倒れる その1
アスハとか言う髪の色とか以外そっくりさんと出会い、認証なんて言う謎の儀式を終えた次の日。朝、学校に登校した泰葉は自分の席に着くなりいきなり机に突っ伏します。
「ふ~。日常最高ー!」
「どしたの?」
そんな彼女の様子を見たセリナが何気なく声をかけました。泰葉は突っ伏したまま少し面倒臭そうに返事を返します。
「色々あったんだよー」
「何よ、話してみなさいよ」
ここでゆみもこの話題に参戦します。2人から責められるかたちとなった彼女ですが、昨日の話は自分の中でも整理しきれない事もあって、うまく語れません。なので適当に話を誤魔化します。
「言ってもいいけど、訳分からんよ?」
「ほうー。今更そゆ事言う?」
セリナの追撃を受けた泰葉が困っていると、その賑やかな話し声に惹かれて他のりんご仲間も続々とやってきました。
「何があったんデスカ?」
「隠し事はなしっスよ」
アリスとルルにまで突っつかれた彼女はむくりと起き上がります。それから集まったメンバーの顔をゆっくりと見回しました。みんな泰葉を心配しているのか真剣な顔をしています。その様子を見て、彼女は覚悟を決めました。
「ま、そっか。みんなもう今までに十分普通じゃない経験しているもんね」
泰葉が意を決して話そうとしたところで、最後にメンバー1の天然さんがここでこの話の流れに参戦します。
「な~にぃ~美味しいご飯の話ぃ~?」
「いや、違うから。多分」
その天然発言にゆみがきっちりツッコミを入れます。鈴香は笑顔を見せながらぺろっと舌を出しました。その様を目にした泰葉は軽く笑います。
「うん、ご飯の話ではないね」
「じゃあ何の話ぃ~?話して話してぇ~。絶対に笑わないからぁ~」
この言葉の軽いようで意外と押しの強い圧に泰葉がたじろいでいると、その流れに便乗してゆみも強く乗っかってきました。
「ね、鈴香もこう言ってるんだし」
「分かった。話すよ」
これは隠し通しきれないなと感じた彼女は昨日の出来事を話す事にします。まとめて話すのが無理そうだったので、まず思いついた順番にとにかく次々に言葉に出していきました。
アスハの出現、彼女の言った言葉、魔界の存在、彼女のおもてなし、彼女のおばあちゃんと自分のおばあちゃんの関係、それと儀式の事。
気がつけば昨日経験した不思議体験の事を何ひとつ隠さずに全てすっかりまるっと語りきっていました。
「対の存在?」
「魔界……」
「そっくりさん~」
「スケールの大きい話っスね~」
「とても信じられマセン……」
セリナは対の存在と言う言葉に注目し、ゆみは魔界と言う言葉に惹かれ、鈴香はそっくりさんと言う言葉に反応し、ルルは話の全体的な感想を口にし、アリスは話そのものを受け入れられていない様子。
集まった5人はそれぞれが個性的な反応を返します。面白い事に、みんな注目する部分がそれぞれ違うのでした。
その反応を興味深く観察していた泰葉はこの話を軽くまとめます。
「ま、終わった話だよ。アスハも儀式が済んだからって、それで何かするって雰囲気でもなかったし」
「結局何なんだろうね、それ」
話を聞き終わったゆみが改めて個人的な見解を彼女に求めました。この質問にしっかり応えられるほど事態を飲み込められていない泰葉は、肩をすくめて訳が分からないと言うジェスチャーをします。
「そこなんだよね~。全然分からないよ」
ここで何か閃いたのか、セリナが突然口を開きます。
「もしかしてその子、この学校に転校してきたりして……」
「まさか!漫画やアニメじゃあるまいし」
流石にそれはないと泰葉は手をブンブンと振りながらすぐに否定しました。儀式を受けてしまった事に対して一抹の不安を感じたアリスは、真顔になってボソッとつぶやきます。
「何事もなければいいデスネ」
「本当にそうだよ。何も起こらないで欲しいよね~」
アリスの意見にゆみも同意しました。これでこの話題もうまくまとまったかなと言うところで、ルルが好奇心に目を輝かせながら話を蒸し返します。
「魔界、ちょっと行ってみたいっス」
「行こうと思って行けたなら、きっと今頃世界中がその存在を知ってるから」
「ああ、それもそっスね」
泰葉に説得された彼女はあっさりと自分の意見を撤回しました。今度こそこの話題も終わり、そう泰葉が思っていると最後に残った爆弾発言娘がここでとっておきの爆弾を落としてきました。どうやら自分がその場にいなかった事を鈴香はとても悔しがっているようです。
「泰葉ちゃんばっかり楽しい思いしてつまんなぁ~い」
「や、結構怖かったんだよ?見た事もない場所に連れてかれたんだから」
泰葉はすぐにそれが楽しいだけの体験でなかった事を分かりやすく説明しました。
しかし、そんな言葉だけで簡単に納得してくれる彼女ではありません。鈴香は泰葉の話を聞いた上で、それでもニコニコ笑顔を崩しませんでした。
「私なら平気かもぉ~」
「んまぁ、鈴香なら確かにそうかも」
「えへへぇ~」
彼女の呆れ気味の反応に、鈴香は自分を認めてくれたと満足気に笑顔で返します。そのやり取りで場がほんわりと温まった後、セリナが改めて泰葉に声をかけました。
「取り敢えず、気をつけてね」
「うん、分かってる」
心配してくれる彼女の思いに泰葉は精一杯の笑顔で答えます。
それから時間はあっと言う間に過ぎて放課後になりました。泰葉がひとりで帰ろうと下駄箱で靴を履き替えていると、そのタイミングを見計らったみたいにセリナがタイミングよく姿を現します。
「一緒に帰ろ」
「どしたの?」
何だかその行為に意図的なものを感じた彼女はセリナに尋ねます。真意を見抜かれたと感じたセリナは、何も誤魔化さずに素直な思いを口にしました。
「いや、だってひとりじゃ危ないでしょ」
「心配してくれるんだ?ありがと」
「友達だからね!」
こうして2人は仲良く下校する事になりました。後のメンバーは部活だったり、他の用事があったり、そもそも泰葉とは家が正反対の位置にあったりと一緒に帰るのは諸々都合が合わなかったのです。
2人は最初こそテレビの話とか漫画の話とかを話していて、敢えて今朝の話題には意識して触れないようにしていたのですが、ネタのストックもなくなってしまい、自然とその話題にシフトしていきました。
「それで、体の調子とかどうなの?」
「ん?別に普通。どうして?」
「だってその、変な儀式を受けた訳じゃん。普通は何かあるかもって考えるでしょ」
「あー、まぁねぇ。でも大丈夫、うん」
自分の身を案じて心配してくれるセリナに、泰葉は精一杯の笑顔を返します。その笑顔に不自然さを感じ取ったセリナは泰葉に優しく声をかけました。
「自分では大丈夫と思っていても、ただ自覚症状がないだけなのかもよ。気をつけてね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます