第88話 魔界ライバル その7
この事実を前に、泰葉はむくりと起き上がると、現状確認の為にキョロキョロと周りを見渡します。
「私の部屋だ?どうして?」
まるで狐につままれたようなこの状況に彼女が呆然としていると、その様子をじいっと見つめていたナリスが声をかけました。
(覚えていないの?)
「私、何かやっちゃった?」
(さっき普通に帰ってきて、そのままベッドに倒れ込んだのよ)
「あれ?何か大事な事をしたような気がするんだけど、思い出せない……これって?」
泰葉には認証の儀式の途中から自分の部屋に戻ってくるまでの記憶がありません。もしかしたらアスハに会った事から全て夢だったのかも知れません。
記憶が混濁して困惑している彼女の様子を見たナリスは、冷静に状況を分析をします。
(何か記憶を操作されているみたいね……。でもこの残留思念に悪意は感じられないわ)
「じゃあ、無害なものなのかなあ?真相が分からないと不気味だけど」
高まる不安に精神的に不安定になっている泰葉を見て、ナリスは適切なアドバイスをしました。
(千代子に聞いてみたらどう?)
「あ、うん、そうする」
ナリスの話に納得した彼女はすぐにおばあちゃんに連絡を取ります。2コールの後、すぐにおばあちゃんの声が聞こえてきました。声が聞こえて安心したのか、泰葉はすぐに事情を話し始めます。
「おばあちゃん……。あのね……」
「泰葉は認証を受けたんだよ」
「認証……?うっ、頭が……」
おばあちゃんの口から出た認証と言う言葉を聞いて、彼女は突然の頭痛に襲われました。そんな泰葉の不調を特に気にするでもなく、おばあちゃんは話を続けます。
「認証ってのはお互いが繋がり合ったって事だよ。強い絆が結ばれたんだ。体の何処かにその印があるはずさ」
「それって危険なものなの?」
「いや?普通にしている限り何も問題はないね」
「良かったぁ」
認証が危険なものでないと分かって、泰葉はほっと胸をなで下ろします。その頃には彼女を襲っていた頭痛も沈静化していました。安心している泰葉に、おばあちゃんは認証の怖い面についての説明を始めます。
「ただし、認証はライバルの証でもある。正しい事をしている時は協力し、間違っていたなら止めないといけない」
「おばあちゃんにもそのライバルっていたの?」
「ああ、いたさ。残念な事に彼女は青りんごを奪って出ていってしまった。私は止められなかったよ」
そう話すおばあちゃんの声はとても寂しそうでした。この話を聞いた彼女は、すぐに以前話してくれたあの昔話を思い出します。
「あの昔ばなしのあの蛇がそうだったんだ」
「遠い昔の話だよ」
「じゃあ今度は私がアスハが悪い事をしていたら止めなくちゃなんだね!」
電話口から感じるおばあちゃんの淋しそうな声を聞いた泰葉は、元気付けようと明るい声で返事を返しました。おばあちゃんはすぐに気持ちを切り替えて、彼女に先に認証を受けた先輩としてのアドバイスをします。
「ああ、勿論だ。逆に泰葉が暴走してもきっとアスハが止めにきてくれる。持ちつ持たれつだよ」
「そっか、何か安心した。おばあちゃん、有難う」
おばあちゃんと話した事で自分の中の不安もなくなって、泰葉は電話越しにお礼を言いました。それからちょっとした雑談の後に通話は終了します。
そのやり取りをじいっと見守っていたナリスは、スマホを机に置いてふうっとため息をつく彼女に声をかけました。
(悩みは解決した?)
「うん、ナリスも有難う」
(どういたしまして)
こうして波乱の一日は幕を下ろします。この日に受けたこの認証と言う儀式が今後彼女の生活にどう言った影響を及ぼすのか、現時点では全く分かりません。
けれど、あのアスハと言う少女はこれからも泰葉の前に事あるごとに現れるのだろうと、そんな予感を彼女は感じているのでした。
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