泰葉と魔界の新しい友達
愉快な休日
第74話 愉快な休日 その1
おばあちゃんちの冒険から数日後、また当たり前の刺激のない日々が戻ってきて、泰葉はまた暇を持て余していました。ちょうど昼休みになってリンゴ仲間が何となく集って雑談しているところで思い切って話を切り出します。
「ねぇ、今度の休みの日にさあ……どっか遊びに行かない?」
「いいね」
その言葉にすぐにゆみが賛同します。この流れに興味を持ったルルも乗ってきました。
「どこ行くっスか」
「まだ何も考えてないんだけど」
まだただの思いつきだったらしく、その答えにルルはずっこけます。そんなおどける彼女を見たセリナは眼鏡の位置を直しながら素直な疑問を口にしました。
「ルルは部活はいいの?」
「まぁ、部活と重なったら部活優先っスね」
ルルの部活は休日に活動があったりなかったりと一定していません。そう言う事もあってか、予定が合えば積極的に泰葉達に付き合ってくれるのです。
ニコニコと彼女がそう話していると、その話しやすい雰囲気にずっと聞き役だったアリスが話の流れに参加しました。
「いい季節だから何処に行っても楽しめそうデスネ」
「でもそうしたらやっぱり景色のいいところだね~」
話の流れを読んだゆみは窓の外を見ながら同意します。この流れから、また行楽地を回るようなアウトドアな予定を立てようとしているんだと察したセリナは、先に自分の主張を伝えないと流れに巻き込まれると先手を打ちました。
「私は別に……」
「やっぱセリナはインドア派なんだ」
泰葉はセリナの思考を読んで、やんわりとその考えに同意します。休日は家に引きこもっていると思われたら無理に引っ張られると感じたセリナは、外出自体はすると言うアリバイを作り出す為に一計を案じました。
「劇場で観たい映画とかもあるしね」
「映画ね~。映画もいいね」
映画を言い訳にすればこの話題から逃れられると言う作戦だったのですが、あっさりと泰葉にその案も受け入れられてしまい、彼女は調子が狂ってしまいます。この事から本当に何も決まっていないからこそ、色んな要望を柔軟に取り入れている様子が伺えました。
工作が失敗してセリナが言葉を失っていると、泰葉は映画の流れを受けてその後の遊びの予定を口にします。
「それで映画の後はカラオケとか!」
「そう言えばみんなで揃ってカラオケとかした事ないかも」
カラオケの話題が出たところで、ゆみがその言葉に反応しました。賛同者が出た事を受け、これも予定に組み込む事にしようと泰葉はみんなに提案します。
「じゃあカラオケも行こっか」
「え?歌うの?」
「勿論セリナにも歌ってもらうよ~」
突然カラオケの予定を組み込まれ、セリナは戸惑います。彼女はあまり人前で歌った事はなく、って言うかそもそもそう言う事自体が苦手でした。
付き合いのある泰葉もそれを知らない訳がなく、でもだからこそ今回みんなでカラオケに行く事で、その殻を何とか破れないかと画策しているようです。
話の流れで休日の予定が何となく固まりかけてきた頃、ここでマイペースの鈴香が乱入します。
「猫カフェ!猫カフェがいいよ~お~」
いつも彼女の意見は却下されてきたのですが、今回は何も予定が決まらない中での話だったので、泰葉は鈴香の訴えを今度はしっかりと受け入れます。
「ああ、猫カフェ、いいね。鈴香のおすすめは?」
「私は市内のマロンって所が好き~」
「まぁウチの街に猫カフェはそこ一軒しかないんだけどね」
元気良く答える鈴香にいつも付き合わされているゆみが少し呆れ気味に答えます。と、ここで休日に行く予定地が屋内の施設ばかりになっていくのを危惧した彼女は、不満を漏らすように自分の希望を口にします。
「あ、でもさ、天気が良かったらいい景色も見たいよね」
「じゃあインドア組とアウトドア組に別れる?」
ゆみの要望を聞いたセリナはそこで妥協策を口にしました。つまり、好きなもの同士が好きな事をすれば万事丸く収まると言う事です。この提案にみんながなるほどとうなずく中、ひとり泰葉が異を唱えました。
「それじゃあ意味ないよ。私はみんなで楽しみたいし」
優等生っぽい泰葉の言葉にまた場の雰囲気は変わりかけました。そこでバラバラ案を提案したセリナは、自分の意見を通そうと彼女を説得にかかります。
「無理にみんなで同じところを楽しまなくていいんじゃない?」
「そこが大事なんだよ~」
「中々意見がまとまらないデスネ」
多人数の意見のすり合わせの困難さにアリスがため息を吐き出します。そのまま今回は話がまとまらずに自然消滅かと思われた中、最初に不満を口にしたゆみがこのままでは良くないと自分から折れる事にしました。
「でも確かに最近は野外で遊ぶ事も多かったし、今度は違う事をしてもいいかも」
「色々違う事をするのもいいっスよね」
同じくアウトドア派のルルもこの意見にうなずきます。こうして話の流れが大体固まってきたところで、泰葉が改めてみんなに聞きました。
「じゃあ多数決ね!自然の中で遊びたい人!」
全体の流れがインドアに流れたところでのこの言葉に誰が手を上げるでしょう。結局誰も挙手せず、自動的に次の休日の予定は決定されます。
「決まり!今回は街で遊ぶ!いいよね?」
「じゃあその次は野外で遊ぶんだよね?」
アウトドアに未練のあったゆみはすぐにその次の休みの予定を確約させようとします。泰葉はその提案に対して、反射的にツッコミを入れました。
「その次に遊ぶ頃ってもう結構外で遊ぶの厳しくなってない?」
「何言ってるの?真冬でも外で遊ぶの楽しいって」
外で遊ぶ楽しさの伝道師と化した彼女を見て、ルルはポツリと呟きます。
「ゆみっちは元気っスね」
「子供だからね。ほら、小学生の頃ってみんな意味もなく外で遊んでたじゃん」
この言葉にセリナが悪乗りするように言葉を続けます。この散々な言われようにゆみも黙ってはいられません。
「ちょ、人を男子みたいに……」
「あははっ」
このやり取りがおかしくて、りんご仲間達は笑います。ひとしきり笑った後で具体的に話を決める段取りになりました。まずは言い出しっぺの泰葉がみんなを前に話を切り出します。
「じゃあさ、次は具体的に何処に行くか考えよっか」
「まずみんなの意見をまとめると……まずは映画観て、食事して、カラオケに行って……」
彼女の言葉を聞いて、セリナが今まで出た話を思いつくままに口に出します。そこまで話したところで、何か気付いたのかゆみがポツリとつぶやきました。
「なんかデートコースみたい……」
「うっ……」
そのつぶやきにセリナは言葉を失います。何を想像したのか、顔を真っ赤に染めて彼女は沈黙しました。
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