第75話 愉快な休日 その2

 そんなセリナを横目に泰葉はひとつ提案をします。


「買い物とかもしようよ。あ、じゃあまたショッピングモールにする?あそこなら映画館もあるし……」


「そう言えば昔は単体の映画館もあったって話だけど、今じゃ他のお店と併設されているところばかりだよね」


 話が映画館に及んで、ゆみがそれについて思いついた事をみんなに話します。彼女達の世代では映画館は複合施設のあるものが主流で、単体の映画館は地元にはもう存在していません。

 けれど地元でも昔は単体の映画館があった事を彼女は周りの人達の話から知っていたようです。この話を聞いた上で泰葉は現状についての認識を口にしました。


「今はもう映画と買い物はセット扱いだよね」


「そもそも映画って何観るの?趣味に合わなかったら全員が同じのを観る訳にも……」


 ここで平常心を取り戻したセリナが問題提起をします。確かに映画は好みの問題もあるので、観る作品は慎重に選ばないといけません。これは簡単な話ではないと泰葉は左手を右腕の肘に手に当て、右手で頬を触りながら考えます。


「う~ん、それを含めて私しっかり考えてみる」


「猫カフェは絶対忘れないでねぇ~」


 最後の最後で鈴香が執念のようなものを込めながら、泰葉に自分の願望を伝えるのでした。


 放課後の帰り道、泰葉とセリナは一緒に下校します。次の休みの事が気になって自然と話題はその事になりました。最初はアウトドア派とインドア派の派閥について話していたものの、その話の流れでセリナはある事に気付きます。


「考えたら私達、結構インドアも遊んでいる気がしてきた。ショッピングモールとかボウリングとかさ」


「ああ、青リンゴ仲間達とのアレだ。みんな元気にしてるかな」


 ボウリングの話題を耳にして、泰葉は青リンゴ仲間と遊んだ時の事を懐かしく思い出します。空を見上げながら懐かしむ彼女を見たセリナは、青リンゴ仲間について近況を口にします。


「私SNSで交流あるよ。みんな楽しそうにしてる」


「そっか、それは何より」


 彼女の報告を聞いた泰葉は嬉しそうににっこり微笑みます。その言動から彼女が今青リンゴ仲間達と全く連絡を取っていない事が伺えたので、それをさり気なく確認しました。


「泰葉はやってないの?」


「う~ん、あんまりそう言うのはね……縛られそうだし」


「ふ~ん」


 泰葉のネット交流の印象を聞いたセリナはどう返事していいのか分からず、つい生返事を返してしまいました。すると泰葉はその返事に反応したのか、もう少し具体的にネット交流が苦手な理由を説明します。


「それに実際に会う人と交流するなら、ちゃんと会って話した方がいいし」


 この説明を聞いたセリナはやっと話の糸口が見つかったと、ネット交流のメリットについて少し得意気に口にしました。


「青リンゴ仲間の人とはそんな簡単に会える訳でもないし、でも知り合いだからそんな時にネットは便利だよ」


「あ、それもそっか」


「泰葉もやろうよ、無料だしやり方教えてあげるからさ」


「あ……うん……」


 結局そこで言いくるめられ、泰葉はセリナにSNSのやり方を強引に教えられました。無料だと言う事もあったのでその場でアカウントを作り、その日の内に取り敢えずリンゴ仲間と青リンゴ仲間のアカウントを全員フォローします。

 この時に分かったのですが、アカウントがなかったのは泰葉だけで、他のメンバーは全員アカウントを既に持っていました。その事実を知った泰葉は改めて自分が出遅れている事を実感します。


 その後、休みの計画について色々話し合いをしていく中、いつの間にか計画のプランはセリナが立てる感じになっていました。


「ねぇ?考えたら私計画ばっか立ててない?前のピクニックの時もそうだったし」


「どうしたの?自分の行きたい所に行けるからいいじゃない。私はそう言うのに疎いからさあ」


 計画を立ててばっかりだと言って不満を漏らすセリナに、ゆんが立案者のメリットを口にします。すぐにこの意見にルルが同意しました。


「そっスよ!趣味全開にしたらいっスよ!」


「全開にしたらみんな引くと思う……」


 ルルの言葉を真に受けたセリナはそう言って自虐的に笑います。彼女の趣味全開って一体……。とにかく、このままだと一向に話が進まないとそう思った泰葉は現状打破の為に一計を案じます。


「嫌なら私が立てるよ?その代わり、文句は言わせないけど」


 この作戦の意図を感じ取った仲間達は、それぞれ自主的に泰葉の話に乗っかります。


「あ、私が立てまショウカ?」

「いやそれなら私が立てるよ」

「面白そっスね!私がやっていいっスか?」

「ずる~い!私がや~るぅ~!」


 こうして仲間全員が立候補して場はカオスな雰囲気になります。みんな自分勝手に話を進めそうで不安になったセリナは、ここで語気を強めて改めて宣言しました。


「あ~もう!私が立てるよ!とっておきのお店とか紹介しちゃうんだから!」


「どうぞどうぞ!」


 そう、これは某お笑い芸人が得意とするパターンの再現でした。お約束だと知りつつ、まんまとハメられたセリナは大きなため息をひとつ吐き出します。


 彼女は帰宅後、すぐに自分の部屋でPCを立ち上げ、モニターとにらめっこしながら休みの予定について計画を考え始めます。


「とは言ったものの……これは悩む……むうう~」


 セリナは検索サイトを立ち上げては複数のキーワードを検索し、うんうんとうなりながらマウスをクリックします。


「やっぱやるからには最高のものを見せないとね!」


 こうしてその作業は睡眠時間を削りながら、納得するものが出来あがるまで続いたのでした。


 それから四日後、ある程度納得出来るものが仕上がったと自負する彼女は、鼻息荒くプリントアウトしたスケジュール表をみんなに手渡し、感想を求めます。


「どうよ!」


 そのスケジュールを目にした泰葉はすぐにその問題点に気が付きます。目を輝かすセリナの圧に押されながら少し遠慮がちにそれを指摘しました。


「いや……あの……秒単位のギッチスケジュールなんですが」


「うん、1秒たりとも無駄には出来ないからね!」


「いや、窮屈過ぎない?」


「う……」


 確かに彼女自身、この計画がタイトなスケジュールだと言う自覚はあったのです。

 しかしそれもみんなに喜んでもらおうと思った結果であって、アレもコレもと盛り込めた事に意義があると思い込んでしまっていたのでした。

 その意義が分かってもらえず、痛いところを突かれたセリナは意気消沈してしまいます。困り顔になった彼女の追い打ちをかけるように、普段なら不満なんて口にしない温厚な鈴香までが珍しくこのスケジュールに不満を訴えました。


「猫カフェ滞在時間が短~い」

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