第73話 レアアイテム争奪戦 その7
「何もそこまで怯えなくても……まだ日も高いよ?」
「いや、でも、人がいなくて墓地はちゃんとあるって怖くない?」
セリナの言葉には、分かるような分からないような微妙な説得力がありました。既に遺跡で骸骨を掴んでいた泰葉は、この世界に墓地がある事に何の不自然さも抱いてはいません。なので、その言葉を半ば無視する形で話を進めます。
「ここの何処かにお宝があるとして……私達、墓荒らしになっちゃうのかな?」
「や、止めてよ私そんな事したくない!」
泰葉の言葉にセリナは大声で拒否します。どうやら彼女、墓地でのお宝探しをしたくない様子。このままテコでも動きそうにないので、仕方なく残りの4人で話を進める事にしました。
「とりあえず行ってみよう」
墓地についた一行は、それぞれの方法で探索を開始しました。念入りに歩き回ったり、墓石にギミックがないかベタベタと触ってみたり、ゆみはまた得意の霊との交流を図ってみたり……。
「どうー?」
「何もないっスー!」
しばらく墓地内を探し回ったものの、特にめぼしい成果はないようです。この墓地に霊はいないらしく、ゆみもお手上げというジェスチャーをしました。
その結果を踏まえて、泰葉はこの場所にあるであろうお宝について腕を組んで推理を働かせます。
「やっぱり単純に地面に転がってはいなさそうだね」
「墓地内歩き尽くしたもんねー」
彼女の言葉にゆみが言葉を続けます。もうここで普通に探せる所は探し尽くしたと言う事で、探索を第二段階に進めようと泰葉は新たな提案をします。
「ここはやっぱめぼしい所を掘るしか」
「止めてよ、罰が当たるよ!こんな思いするなら私いい!アイテムなくていい!」
このアイディアにいつの間にか墓地に入って来ていたセリナが大反対します。怖がりな彼女は祟りを怖がっているようでした。
しかしその意見に泰葉が反発します。
「ここまで来て諦めるって言うの?冗談でしょ」
「そうっス!何もないなら仕方ないっスけど、ここに何かあるって分かってるっスよ!」
泰葉の言葉にルルも同意します。2人共、墓地でのお宝探しを諦める気はサラサラないようでした。
「だからってお墓を掘るって死者への冒涜でしょ!ゆみからも何か言ってよ!」
「うーん、別にお墓そのものを掘らなくても、例えば敷地の端っことかさ」
「とか言いながらそこを掘って何も出て来なかったら、結局お墓そのものを掘る事になるじゃないの!私は嫌だから……あっ!」
沸騰する議論が展開する中、熱弁を振るいながら興奮したセリナはバランスを崩し、つい背後のお墓に倒れ掛かってしまいます。古く朽ちていた墓石はその軽い衝撃にすら耐えられず、そのままバタンと倒れてしまいました。その様子を見た泰葉は思わず声を上げます。
「あちゃー」
顔に手を当てて嘆く彼女とは対象的にゆみはセリナを心配して手を差し出しました。
「セリナ、大丈夫?」
「私は大丈夫だけど……あ……」
何と言う事でしょう!奇跡か偶然か、その倒れた墓石の下にずっとみんなが探していたお宝の入った箱があったのです。これが計算なのだとしたら、そこまで考え尽くした泰葉のおばあちゃんって一体……。
その光景を目にした泰葉は目を丸くして驚くばかりでした。
「何で墓石の下に?」
理由や理屈はどうであれ、とにかく、そこにお宝はあったのです。これはセリナの成果と言う事で、所有権は彼女のものとなりました。ただ、彼女が怖がって一向に触ろうとしないので、お宝はルルが拾い上げてそのままセリナに手渡します。
「何か、開けるの怖いよ」
お宝の蓋を開けるの躊躇する彼女を勇気付けようと、泰葉が声をかけました。
「でも開けなくちゃ、きっと大丈夫だよ」
「……よし、じゃ、開けるね」
意を決してセリナがその箱を開けた瞬間、箱からまぶしい光が発生して5人を包み込みます。この予期せぬ状況に箱を開けたセリナも思わず声を上げました。
「うわっまぶしっ!」
その光が治まった時、5人はおばあちゃんのもとに転移していました。まるで強制終了されたみたいなこの現象に訳が分からずにみんなが困惑していると、それを見たおばあちゃんは優しく5人に語りかけます。
「お帰り、どうやら全員に行き渡ったようだね」
「おばあちゃん……」
泰葉は微笑むおばあちゃんの顔を見て、このふざけたイベントが終わった事を実感しました。
「さ、帰るよ!」
その後、おばあちゃんの力でみんな無事に現実世界に戻ってきました。おばあちゃんが不思議な力を使うと言うのは泰葉が前に話してはいたのですが、実際にその力を振るう姿を見た事は泰葉を含め誰もいなかったので、みんなここで初めておばあちゃんの本当の姿を見た事になります。
こうして全てが終わり、おばあちゃんの家のリビングでくつろぎながら、ゆみはセリナに話しかけました。
「で、結局中に入っていたお宝って何だったの?」
「これ。小さな水晶玉」
「おお、良い物ゲットしたじゃん」
セリナが見つけた宝箱に入っていたアイテムはビー玉くらいの大きさの水晶玉でした。すごく透き通っていて何だか未来まで見通せそうです。
全員が無事にアイテムを手に入れたと言う事で、改めて泰葉はおばあちゃんに訪ねます。
「で、おばあちゃん、このアイテムって……」
「それらはね、まだ無属性の何でもないもの。でも身につけていく内に使用者を助けるアイテムに成長していくんだ。どうか大切にしておくれよ」
「あ、有難うございます」
おばあちゃんからのプレゼントの意味を知ったみんなはそれぞれにお礼を言いました。これからこのプレゼント達は一人ひとりの成長に合わせて彼女達を守る特別なアイテムになって行く事でしょう。
みんながそれぞれにゲットしたアイテムをしみじみと眺めていると、ある事に気付いた泰葉が突然叫び声を上げました。
「あーっ!」
その声に慌てたゆみが叫んだ彼女にその理由を尋ねます。
「何急に大声出して」
「鈴香忘れてたじゃん!彼女の分!」
そうです、泰葉達が異世界でゲットしたお宝は5つ。それはレアアイテム争奪戦に参加したメンバーの数の分ぴったりです。
けれどおばあちゃんちに呼ばれたのは6人。途中でダウンしてゲームに参加出来なかった鈴香の分のアイテムが足りなかったのです。
泰葉の言葉にみんながざわついていると、その話題の主の彼女がひょっこり気の抜けた顔をして現れます。
「私は貰ってるよぉ~」
「鈴香ちゃん冒険に参加出来そうになかったから、私が先に渡しておいたのさ」
そう、鈴香の分は彼女を寝室に運んだ時におばあちゃんがこっそり渡していたのです。こうしてお宝が全員に行き渡っている事を知ってみんなは安堵します。
けれど、鈴香は何故か5人に対してオカンムリのようでした。何故なら――。
「みんなだけ冒険楽しんじゃってずるい~今度は私も混ぜてねぇ~」
プンプン可愛らしく怒る彼女をなだめるようにゆみが声をかけます。
「分かった分かった。またそう言う機会があったらね」
「約束だからねぇ~」
その後、復活した鈴香も含めてしばらく楽しい会話が弾みます。そうこうしている内にやがて時間が来て、おばあちゃんの家を後にする事になりました。
行きと同じくおばあちゃんの運転で駅まで送ってもらい、そこでお別れをしてそれぞれの帰路に着きます。
この日は6人にとっても特別な一日となりました。おばあちゃんから貰ったそのアイテムをきっとみんなは大切にする事でしょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます