第72話 レアアイテム争奪戦 その6
この意見におばあちゃんの事をよく知る泰葉は反論します。
「流石にそれはないでしょ……多分……」
「そっか、ごめん。じゃあ、後、行ってないのは……」
ゆみは軽く謝った後、手製の地図を眺めながら次の行き先を検討します。まず、自分達の成果を確認する為に、地図の埋まった場所を口に出していきました。
「森に、遺跡に、草原に、砂漠に……」
その言葉を聞きながら泰葉は、この異世界に対して気付いた違和感を口にします。
「そこが引っかかるんだよね。遺跡があるって事は人がいたって事じゃない?なのに町がないのはおかしいよ」
「やっぱりどこかに町があるのかな?」
彼女の疑問にセリナが答えます。地図はほぼ埋まっていて、残りの空欄に町が入る余地はないようにも思えました。この異世界は広いようでいて、行ける場所について言えば、実は案外狭いのです。困った時のアリス頼みと言う事で、泰葉は彼女に自分の考えが正しいかどうかの確認をお願いします。
「アリス、分かる?」
「やってミマス……」
アリスは目を閉じてこの異世界に人の住む街がないか索敵を始めました。その様子を見守りながらセリナはつぶやきます。
「どうかな?」
「何か見つかって欲しいね」
彼女とゆみが話し合っていると、何か発見したのかアリスがカッと目を見開きました。
「砂漠の向こうに何かあるみたいデス!」
「やった!きっとそこだよ!」
この報告を聞いたセリナは朗報だと目を見開きながら声を上げます。こうして5人はまだ見ぬその町へと向かう事になりました。
「まさか砂漠の向こうにも景色が広がっていたなんてね」
セリナのこの言葉の通り、アリスが見つけたその町の場所は砂漠を越えた向こうにあるようです。この砂漠、ある程度は歩いたのですが、果てがないように感じられて途中で引き返していたのです。それでその先の町が発見出来ずにいたのでした。
希望が見えた事で楽しそうに歩く彼女に泰葉が声をかけます。
「向こうの町についたらそこでセリナの出番だね」
ここで突然話しかけられたセリナは動揺します。泰葉の言った言葉の意味が分からなくて思わず聞き返しました。
「え?何で?」
「だって多分その町の住人の言葉は分からないでしょ?そう言う時こそ自動翻訳能力が役に立つんじゃん」
確かに異世界の住人ともなれば当然泰葉達とは言語体系が違う事でしょう。
でもセリナの能力はその壁を超える事が出来ます。霊の言葉なら異世界でも普通に通じ合えたゆみのように。期待されたセリナは、けれど自身の能力の限界に手を振って謙遜します。
「わ、私、相手の言葉が理解出来るだけなんですけど?」
「言葉が分かるだけでもいいじゃん。私達は分からないんだし」
必死に弁明する彼女を見て、泰葉は精一杯褒め称えます。その言葉を聞いて考えを改めたセリナは恥ずかしそうに顔を赤らめました。
「す、少しは役に立てるのかな?」
「役に立つ立つ!自信を持ちなよ!」
こうして未知の街に対する心の準備も出来た所で、ある事に気付いたゆみが独り言のようにつぶやきます。
「ここに来て、それぞれの力を活かしてお宝を見つける感じになってるね」
「流石泰葉のおばあちゃんっス」
そうです、今まで見つかったお宝はみんなそれぞれのりんご能力を駆使した結果、手に入っていました。ルルの体力強化、アリスの万能能力、ゆみの霊との会話能力……ただの偶然だったのかも知れませんが、綿密な計算の元のような気もします。そうして次にセリナの能力が役に立つ事となる訳です。
その説は結構説得力を持っていて、みんな感心していたのですが、ひとりだけ違和感を感じる人物がいました。
「あれ?」
「どうしたっスか?」
「私だけ能力使ってない!」
そう、違和感を唱えたのは泰葉でした。この言葉に対し、ゆみが慰めるように彼女に声をかけます。
「だってこの世界、動物がいないんだもん、仕方ないよ」
「おばあちゃん、私にも活躍の場を授けて欲しかったよ……」
「凹まない、凹まない」
そんなこんなで楽しく話をしながら砂漠を歩いていると、アリスの言葉通りにその先に人工建造物が見え始めました。
しかし、何か少し様子がおかしいようです。能力強化で視力も強化されたルルが早速その違和感の正体をみんなに伝えます。
「あの……この世界って動物の姿を見なかった……っスよね?」
「うん、それが何か?」
泰葉がその報告に疑問を持ちながら答えると、ルルは声を震わせながら自分の見たその町の衝撃の事実を口にします。
「ほら、町、建物はあるにはあったっスけど……人の気配がないっス……」
「えーっ!」
この報告に残りの4人は同時に驚きの声を上げました。そのまま歩を進め、全員がハッキリ確認出来る距離まで近付くと、確かにその報告の通りだったのです。この景色を見たセリナは呆然としながら言葉を漏らします。
「ここでまさかのゴーストタウン……」
「で、でも、モンスターとかがいるよりかはマシじゃない?」
自慢の能力を使う機会を失って肩を落とす彼女を泰葉が励ましました。その言葉を受けてセリナは街の印象を素直に口にします。
「そりゃ危険なものもいないかも知れないけど……とにかく不気味だよお~」
ショックを受けているセリナはそのままにして、泰葉はアリスに声をかけました。
「アリス、今日まだ力使える?」
「えっと、感覚的ですが、後1分位ナラ……」
「そっか、索敵に約30秒として残り30秒……どうにかここで見つかって欲しいね」
アリスの能力の限界を知ったゆみは彼女の能力をここで使う事に異を唱えます。
「ねぇ、アリスの力は温存して、ここはこの町を手分けして探さない?」
「でも、あるかないか知っておく事も重要だよ。何もないのに探し回って体力を消耗する方が危険じゃない?」
ゆみの提案に対して、泰葉はアリスの能力を使う事のメリットを力説しました。この言葉を聞いたゆみは考えを改めます。
「確かに、それは……そうかも」
異論がなくなった所で早速アリスは能力を開放します。
「じゃあ、始めマスネ」
静かに目を閉じて意識を集中。周りの4人は固唾を呑みながらそれを見守ります。
やがて短く長い30秒が過ぎ去りました。いつもならカッと見開くまぶたをゆっくり上げたアリスは神妙な顔つきをしています。
その様子から結果が読み取れなかったため、4人の代表で泰葉が声をかけました。
「どう?」
「ありマス……。ここから北東の方角になにカ……」
「やっぱあるんだ!行ってみよう」
この結果を聞いたセリナが興奮しながらその場所へと駆け出していきます。ワンテンポ遅れて残りのメンバーも駆け出しました。先行する彼女に追いつくと、セリナは立ち尽くしています。
さっきはあんなにはしゃいでいたのにどうして現場に着いて微動だにしないのか、ひょいとその先を見たゆみが言葉を漏らしました。
「墓地だね……」
「ヒィィイ!」
そう、そこはこの町の墓地なのでした。こう言うのが苦手なセリナは、だから動けなくなっていたのです。その様子を見た泰葉は彼女のあまりの豹変ぶりに怖がらせないようにと一言声をかけます。
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