第71話 レアアイテム争奪戦 その5
泰葉はアリスの指摘にすぐには気付かなかったものの、転んだ原因を目にして合点がいきます。彼女が引っ掛けた物こそ土に埋まっていた宝箱だったのです。
「これも私の才能なのかな……?」
「開けてみまショウ」
アリスに急かされた泰葉が早速その小箱を掘り出して蓋を開けようとします。と、その時でした。急に大地が大きく揺れ始めたのです。この突然の出来事を受け、当然のように2人はパニックになりました。
「な、何?地震?」
「と、とりあえずここから離れた方が良さそうデス……」
「だね、逃げよう!」
2人が焦って現場から離脱していると、目の前に急に現れた複数の人影とぶつかりそうになります。
「うわっ!」
今までこの異世界で動物を見ていなかったせいで油断していたのもあって、この謎の人影との遭遇に2人は大層驚き、かなりの大声を上げました。
で、その人影の正体はと言うと――。
「えぇ、セリナ達?」
「泰葉っち達?」
森を探索していたはずのセリナ組と泰葉組が奇しくもこの遺跡で合流したのでした。その頃には地震もすっかり治まっており、落ち着いた5人は状況確認の為にお互いの情報を交換し合います。泰葉の方は普通に探索の果てにこの場所に辿り着いたのですが、セリナ組の方はプロセスが少し特殊です。
「……それで、洞窟の罠が発動して……」
「無我夢中で走り回っていたらここに出ていたんだよ」
興奮しながら話すセリナとゆみの話を総合すると――洞窟が崩れ始め、脱出を図った時に焦って、来た道と別の道を選んでしまい、ぐるぐる回った後に出口らしきものが見えてきて、そこを突っ切ったらここに出てきた――と、言うものでした。
先の突然の地震もどうやら自然のものではなくて、洞窟が崩れた影響が地上に現れたもののようです。
話を最後まで聞いた泰葉は腕を組みながら考え込みます。何故なら、まるで全てが最初から仕組まれたもののようにすら感じられたからです。
「これって偶然なのかな?それとも……」
「とりあえず落ち着いたし、合流出来たしだから」
考え込む彼女に対して、冒険エンジョイ派のセリナはそんな事はどうでもいいようです。それよりももっと気になる事が彼女にはありました。
「お宝の確認をしよっか!」
そう、洞窟の奥で見つけたお宝もこの遺跡で見つけたお宝も、その中身をまだ確認していません。そんな訳でここは折角だからと2つ同時にお宝の中身を確認する流れになりました。
まず最初に箱を開けたのはゆみが霊の導きによって見つけた、洞窟で発見されたお宝です。
「小さな人形?」
「可愛いじゃない。モチーフはよく分からないけど」
「小さな悪魔の子供ってところっスかね?」
その箱に入っていたのは可愛らしいぬいぐるみでした。そのキャラクターは見た目こそ結構可愛いのですが、初めて見るデザインです。雰囲気的に言えば子供の悪魔のようでした。
次は遺跡で泰葉が足を引っ掛けた方のお宝の確認です。ドキドキしながら泰葉が箱を開けると――。
「こっちはコイン……昔使われていたものとか、かな?」
「いいじゃない、お宝っぽくて」
そう、そこに入っていたのはコイン――正確にはコインっぽい何かでした。大きさは百円くらいの大きさで、見た事のない文字と絵が彫刻されています。そのコインを目にしたセリナは興味深そうに眺めると感想を得意げに話しました。
「胸ポケットにお守りとして入れていたら銃撃戦の時に命を助けてくれそうだよね」
「いや、そんな機会はまずないから」
多少マニアックなその感想に泰葉は冷静にツッコミを入れます。お宝の確認が終わった後、何となく流れでしばしの談笑タイムが始まりました。
最初に口を開いたのはこのイベントを一番楽しんでいるであろうセリナです。
「でもさ、レアアイテム争奪戦と言いながら全然争奪してないよね」
「おばあちゃん、そう言うところはいつも適当だから」
泰葉はおばあちゃんの適当さを思い出して苦笑いを浮かべます。その後も他愛のない会話は続き、時間はあっと言う間に過ぎていきました。
みんな話したい事を話して満足したのか、自然な流れで申し合わせたように全員が立ち上がります。みんなが立った所でタイミングを見計らって泰葉が口を開きました。
「じゃ、それぞれお宝も見つかった事だし、そろそろ帰ろっか」
「ちょ、待って!」
「セリナ?」
泰葉の意見にセリナが待ったをかけました。泰葉はなぜ彼女はそんな行動に出たのか分からず、首を傾げます。
「私だけまだアイテム持ってない!おばあさんは人数分用意しているって言ってたんだよ!」
「あ、あー」
泰葉は自分の分のお宝が手に入ったので、これで全員分のお宝が揃ったと勘違いをしていたのでした。苦笑いする彼女を見てセリナは気を悪くします。
「何その反応!まさか……」
「ごめん、すっかり忘れてた」
怒った彼女の顔を見て泰葉は手を合わせて謝ります。自分の分のお宝の件を無視されていた事が確定した事で、セリナはさらに声を荒げるのでした。
「何よそれー!」
「だからごめんってば!」
謝って謝って謝り尽くして、ようやくセリナの気は晴れたようです。こうしてセリナの猛烈な抗議を受けてお宝探しは再開されました。再開されたはいいのですが、今から虱潰しに探していたのでは効率が悪く現実的ではありません。そう言う訳ですぐにアリスが声を上げました。
「私が見てミマス!」
こうしてアリスの能力によるお宝索敵が始まります。目を閉じて感度を上げて能力を駆使する彼女を見ながらセリナが泰葉に耳打ちをしました。
「アリスの能力は本当に便利だよね」
「制限キツイけどね」
30秒程の時間が過ぎ、どうやら結果が出たようでアリスは目をカッと見開きます。
「この辺りにはもう反応はないようデス」
「だって」
泰葉はそう言いながらセリナの顔をじっと見つめました。それからもう自分達の仕事は終わったと歩きかけます。この様子を見たセリナはまたしても帰ろうとする彼女に声をかけました。
「ちょ、待って!」
その声を聞いて泰葉は振り返ります。振り返った彼女にセリナは泣きそうな顔で懇願しました。
「せっかく合流したんだしさ、みんなで探そうよ」
「ま、しゃーないか」
その必死さに泰葉も折れます。こうして5人での最後のお宝探しが始まりました。まず、今までに足を踏み入れた場所にはもうお宝がない事を確認します。
それから簡単な地図を作って、まだ行っていない場所の穴埋めをしました。
新しい場所についてする事はまずお宝の有無の確認。アリスの能力で反応が見つからなければ大人しく場所を移動します。そうしている内に、手製の地図はどんどん埋まっていきました。
この探索で一番鼻息の荒かったのはセリナですが、一番最初に弱音を吐いたのも彼女でした。
「ないね~」
「どこっスかね~」
「やっぱり手分けした方が良かったんじゃないの?」
泰葉は5人でまとまって探す事のメリットを今更ながらに感じられないでいます。バラバラで探して先にお宝を見つけられては困るとセリナはすぐに彼女に意見しました。
「で、でも、もう行ける所は大体探し尽くしたし……」
「おばあさんがアイテムの数を数え間違えたとか?」
アイテムの見つからない理由をゆみはそう推理します。
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