第66話 お宝探し 後編

 異空間の中がどうなっているにせよ、靴は履いた方がいいに決まっています。その泰葉の気遣いにゆみも賛同しました。2人は急いで玄関に行くと、そこで全員分の靴を手にして2階の異空間の前まで戻って来ました。

 こうして準備が整ったと言う事で2人も恐る恐る異空間に足を踏み入れます。


 異空間に入った2人はそこで自分達の靴を履いて、その謎空間の中の探索を開始します。異空間自体は特に見た目以外に異常な点はなく、その世界は地面と空以外は見渡す限り何もありません。暑くもなくれば寒くもなく、風も吹いていない……例えるなら夢の中に紛れ込んだようでした。

 地面も特に起伏がある訳でも石が転がっている訳でもなく、靴も必要ないくらいにフラットです。それでも履かないよりは履いた方がマシではありました。


 先行する3人の姿もすぐには見つかりませんでしたが、歩いていれば必ず合流出来ると言う謎の自信のようなものが2人にはありました。この世界には視界を遮るものがひとつもないから、注意深く見渡していれば見つかるだろうと言うのがその根拠です。


「これがおばあちゃんがもてなしたかった本当の理由なのかも」


「泰葉はおばあちゃんがこう言う事が出来るって知ってた?」


「いや、全然。不思議な話はよく聞いていたけど……」


 歩きながら2人はこの空間について話し合います。この空間をおばあちゃんが作ったものだとして、本当にそんな事が出来るのか、何故こんな事をしたのか、謎は深まるばかりでした。


「その話、きっと全部本当だったんだよ」


「ここまで来たら信じざるを得ないねえ」


 生まれて初めて入った異空間でしたが、自分の意志で入り込んだ事もあって、2人は結構冷静です。キョロキョロと周りを確認しながら、自分の中の常識と現状をすりあわせていきます。


「しかし特になにもないね、この空間。ザ・異空間って感じ」


「あ、人影が見えたよ。おーい!」


 ある程度歩いた所で、2人は遠くに目的の人影を発見します。見えて来た3人はその場に留まって何か話をしているようです。きっとこの空間に入ったものの、それから先は何をしていいのか分からず、今後の行動を模索していたのでしょう。


 やがて先行組も泰葉達に気がついて手を振ります。こうして5人は全員無事に合流出来ました。近付いてくる泰葉の姿を確認したセリナは少し呆れた顔をします。


「結局みんな来ちゃったか」


「セリナ、アリス、無事で良かった」


「叫び声が聞こえて心配だったんだよ」


 泰葉達を心配させてしまった事についてはセリナも素直に謝ります。


「ごめん、急に吸い込まれちゃったから……」


「でもここ、どこなんでショウ?」


 アリスはやはりと言うか当然と言うか、この異空間について理解が追いつかず混乱しているようです。そうしてみんながそれぞれの視点で好き勝手にこの空間についての考察を口にする中、泰葉は自分達が運んできた物をみんなの前に披露します。


「それよりみんな靴を履いて、持って来たから」


「お、泰葉にしては気が利く」


「ちょ、どう言う意味?」


 セリナが軽口を叩いたので泰葉は少し気を悪くしました。ただ、冗談と言うのは分かっていたので本気にした訳ではありません。


「泰葉っち、サンキューっス!」


「ありがとうございマス」


 ルルとアリスも自分達の靴を渡されて喜んでそれを履きます。全員が靴を履けたところで、これからの展開について改めて話し合いは再開しました。


「で、どうするの?この空間内で何か探し回るの?」


「そこなんだよねぇ。そもそもここは何もなさそうでしょ?」


 5人が揃ったところですぐにいいアイディアが思い浮かぶ訳でもなく、良い答えは中々出て来ません。そんな出口の見えない会話を続けていた中、何かを閃いたセリナがポツリと言葉をこぼします。


「あれじゃない?ゲームとかでよくあるけど、特定のアイテムがないとそっから先の道が開けないってヤツ」


 その言葉にすぐにピンと来たルルは顔をほころばせながら得意げに口を開きます。


「アイテムと言えばさっきひとつゲットしたっスよ!」


「え、何?」


 彼女の興味深い返事にセリナは思わず身を乗り出します。話がそう言う流れになったので泰葉もまた同じノリでポケットからそのゲットしたアイテムを取りだし、少々オーバーアクション気味に頭上に大きくかざしました。


「ふっふっふ、それは……この鍵だーッ!」


「おおお……」


 その鍵を目にしたセリナは謎の好奇心で目を輝かせます。そうして鍵を取り出した瞬間、空間内にゴゴゴゴゴゴ……!と、謎の重低音が響き始めました。この突然の異変を受けて、5人の間に一気に不安の色が広がります。


「な、何、この音?」


「確か向こうから聞こえて来たっス!」


「行ってみよう!」


 音の発生源にこの空間の攻略のヒントがあると察した5人は急いでその場所へと向かいます。そうして確かにそこには何かがあったのです。それは――。


「ドア……」


「まさに鍵にはドア……デスネ」


「この鍵のドアっスかね?」


 そう、そこにはまるでひみつ道具のように立派なドアが単体でぽつんと屹立していました。木目調のそのドアはどこか職人の作った一品物のような威厳すら感じさせています。そのドアを見て興奮したゆみは泰葉を急かします。


「取り敢えず試してみようよ、物は試しだよ」


「よ、よおし!」


 彼女に急かされて泰葉はドアの鍵穴に鍵を差し込みます。ゲームなら間違いなく正しいこの行為、果たしてこの異空間でも正しい行動なのでしょうか……。

 ゴクリとつばを飲み込みながら鍵を回すと――カチャリと鍵の開いた音と感触がありました。これで間違いはないと泰葉は思いっきりそのドアを開けます。


「おや?意外に早かったね」


「お、おばあちゃん?」


「さ、早く入っておいで。ここからが本番だよ」


 何と、そのドアの向こうに待っていたのはおばあちゃんでした。ドアの向こうもまた別の異空間です。おばあちゃんの意図が分からないまま、5人はおっかなびっくりでドアの向こうのおばあちゃんの待つ異空間に足を踏み入れました。


 これから先、一体何が待ち構えているのか、5人はそれぞれ期待と不安を抱きながら、おばあちゃんの次の言葉を待つのでした。

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