第65話 お宝探し 中編
興味を持った泰葉も一緒になって眺めるものの、結局感想は同じでした。
「え?全然読めない……」
英語でもなくアラビアの文字でもなく――2人はその全く見た事もない文字を前に頭を抱えて――そっと元あった場所にその本を戻しました。きっとこれは父親の所有していたものではなく、おばあちゃんの私物なのでしょう。こんな本を持っているおばあちゃんって一体……謎は深まるばかりです。
「泰葉はこの部屋に見覚えはないの?」
本に注目していた2人とは別に、真剣にお宝を探して部屋の中を探し回っていたゆみがここでつぶやきます。今度は積まれてある雑誌を手に取りかけていた泰葉は、少し焦りながら自分の経験を口にしました。
「おばあちゃんちにはよく来てるけど、興味のない部屋には入った事がなかったんだよね……」
「じゃあ泰葉もこの部屋は初めて入ったんだ」
「うん。ここがまさかこんな有様だとは思わなかったよ」
彼女はそう言って笑います。ここで、その後も本を取り出しては中身を確認していたルルがポツリとこぼしました。
「で、結局お宝はこの部屋の中にあるっスかね……」
「分かんない。そもそも何がお宝かすら教えてもらってないし」
「そっスねぇ。何がお宝なんスかねぇ……」
この部屋にあるのは本ばかりで、もしここに何かがあるとしたら、それは本の中に何かヒントが隠されてあるはず……。本以外を探していたゆみもその結論に達して、結局最後は3人全員がこの部屋にある本を片っ端から調べていました。
「やっぱこう言う本の中に何かが挟んであったりが定番じゃない?」
「どうせ文字は読めないし、何か仕掛けっぽいものを探してみようか」
文字の読めない本は本棚にある一部の本だけで、実際はちゃんと読める本が大半です。なのでゆみとルルは一応本を開いてはペラペラとヒントを探すのですが、最初に見たのがそう言う本だったために泰葉は本の中身より、読まなくても分かるような仕組みを探す事に専念し始めます。
彼女はスパイ映画でありがちな一部の本を抜くと通路が現れる的な仕組みでもないかと、本棚の本を抜いたり戻りたりを繰り返し続けるのでした。
「私らはどこから探そうか?」
一方のセリナ、アリス組はと言うと、泰葉達がすぐには探さないだろう場所はどこか、それを相談するところから始まりました。
「泰葉達が1階なら2階を探さない?」
「ハイ、そうしまショウ」
こうして2人はまずおばあちゃんちの2階を探す事にしました。ギシギシと音を立てて階段を登りながら、セリナはぽつりと独り言をつぶやきます。
「2階は部屋が少ないから、すぐに探し終わっちゃうかな」
「セリナさんはこの家に来た事があるんデスカ?」
「1回だけね。私はほら、中学で泰葉と友達になったから」
「あ、そうでシタネ」
セリナの事情はアリスも知っています。情報の共有が出来ているので、会話もスムーズでした。階段を登りきってすぐの部屋に入った2人の目に、最初に飛び込んで来たのは放置されていた楽器類でした。
「お、ギターとかピアノがあるよ」
「セリナさん、楽器ハ?」
「あんまり得意じゃないよ。アリスはどうなの?」
この質問を受けたアリスは……少しの間沈黙して、そうして絞り出すような声で答えます。
「私も……出来て口笛くらいのものデス」
「口笛?すごいじゃない!吹いてみてよ」
「じゃア、少しダケ……」
興味を持ったセリナに急かされて、アリスは急遽口笛を吹く事になりました。何回かの深呼吸の後、覚悟を決めた彼女は息を吸い込みます。それから器用に口を動かして美しい口笛の旋律を部屋中に響かせました。それは簡単な曲ではあったものの、初めて聞くセリナの心を震わす程の美しい調べでした。
演奏は1分程度で終わり、恥ずかしさを誤魔化す為にアリスは照れ笑いをします。
「おお、上手いね。聞き惚れちゃった」
「見てくだサイ!あそこ!」
アリスが恥ずかしくて視線を泳がせていたその時でした。部屋に設置されていたピアノに何か変化があったようです。2人は急いで近付くと、恐る恐るピアノのカバーを上げました。
「光ってる……これって……」
「押せって事なんでショウカ?」
カバーを上げて顕になった鍵盤を見ると、一部の鍵盤がピンク色の光を放っていました。この如何にも怪しげな現象に2人は顔を見合わせ、困惑します。
「押す?」
「押しまショウ!虎穴に入らずば虎子を得ずデスヨ!」
「よし、行くよ!」
お互いの顔を見合わして、それから無言の合図の後にセリナが代表してその鍵盤を押します。次の瞬間、光は更に輝きを増し、2人を包み込みました。
「あった!」
「鍵……っスね?」
その頃、本の部屋を探索中だった泰葉達はついにお宝を探すヒントになるであろう鍵を見つけます。ベタですが、その鍵は本のページとページとの間に当たり前のように挟まってありました。ゆみは鍵を見つけた後、早速それを泰葉に見せます。
「この鍵に見覚えは?」
「いや、全然」
「きっとこれ何かのアイテムだよ。やったね、ゲットだぜ!」
これが重要アイテムだと言う事は誰が見ても一発で分かります。アイテムが見つかったと言う事は、それがゲームの場合はもうその部屋に重要なものは何もないと言うのが定番です。
ゲームと現実は違うものですけど、ゲーム好きなおばあちゃんの性格を考えたマールはここで結論を口にします。
「じゃあもうこの部屋にもう用事はないのかも。次の部屋に行こっか」
「うわああああああああ!」
3人がこの部屋の探索を終えようとしたその直後でした。急に2階から叫び声が聞こえて来ました。この突然のアクシデントに1階探索メンバーのみんなは全員が動揺します。
「えっ何っ?」
「2階からっス!」
「セリナ達に何かあったのかも!」
「行ってみよう!」
話はすぐにまとまって、1階探索組は急遽2階へと直行します。そこで彼女達を待っていたのは、信じられない光景でした。
「え……何?」
「きっとセリナっち達はこの先にいるっスよ!」
「異空間とか、嘘でしょ?」
全員が驚いたのは言うまでもありません。そこにあったのは、空中に浮かぶ謎の異空間への入り口です。アニメとかでよく見る、お馴染みの神秘的な色合いの水たまりのような謎の空間がそこにありました。
この部屋を探索していたはずの2人の姿はどこにもありません。ピアノはカバーが上がったまま。この状況を見た3人は、それぞれ何が起こったのか大体の事情を察しました。
その中でも一番興奮していたのがルルです。彼女は空中に浮かぶその異空間をじっと見つめ、意を決して宣言します。
「ここは行くしかないっス!セリナっち達もきっとこの中で待ってるっスよ!」
「あ、ちょ、ルル!」
泰葉が止めるのも聞かず、彼女はプールに飛び込むような気軽さでその異空間に入って行きました。その様子を見たゆみは泰葉の顔をじっと見つめます。
「ここはもう、行くしかないね」
「ちょっと待ってて、全員の靴を持ってくる」
「あ、気付かなかった、私も行くよ」
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