お宝探し
第64話 お宝探し 前編
「宝探しをしようじゃないか」
「宝探し?」
おばあちゃんの言うゲームとはどうやら宝探しのようです。どうやらこの事は泰葉も知らされていなかったらしく、素で聞き返しました。
「そうだよ。お宝はもう隠してある。探して来てごらん」
「ちょ、それはこの家の中?それとも……」
「さあて、どこかしらね」
聞きたい事は沢山あるのに、おばあちゃんには全く彼女の言葉が届かないのか、まるで知らんぷりをするように振る舞います。
「おばあちゃん?」
「私は"ゴール"で待ってるから」
自分の話したい事を全部話し終えると、おばあちゃんはスーッと消えるようにみんなの前から姿を消しました。ここで困ったのは残された5人です。
最初こそこの突然の展開にみんな鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたものの、やがて落ち着いてくるとそれぞれの意見をぶつけ合い始めます。
まず最初に口の開いたのはゆみでした。
「面白そうじゃない」
「参加するの?」
「いや、だって、折角来たんだし」
結構やる気満々な彼女に泰葉は戸惑います。おばあちゃんの考えが読めない以上、安易に乗っかっていいものか実の孫娘は答えを出しあぐねていました。
おばあちゃんは基本的にいい人なのですが、謎の部分も多く、その部分に関して言えば泰葉は慎重派なのです。
「私もやる気満々っス!」
「何か引っかかるものはあるけど、お婆さんは今日の為にしっかり準備したんだろうし、無視するのは可哀想だよ」
ゆみの発言をきっかけにルルとセリナもこのゲームの参加を表明をします。数の上で不利になった泰葉は頭を抱えてしまいました。
「私も参加シマス!こう言うの大好きデス」
「分かった。じゃ、みんなでやろっか」
結局、自分以外の全員が参加するとの事で、唯一の慎重派も溜息をひとつこぼすとみんなの意見に同調します。それで、おばあちゃんの用意したこのイベントを楽しむに当たって、決めないければいけない事を話し合う事になりました。
「で、どうしよっか?みんなで一緒に探す?それともバラバラ?」
「チーム分けで行こうよ。前に青リンゴ能力者を探した時みたいに」
このゆみのアイディアを受けてみんな首を縦に振りました。異論は出なかったと言う事で、それで今度はそのペアリングをどうするかと言う事に議題は移ります。
「じゃあ、あの時と同じペアにする?」
「今回はじゃんけんで決めない?」
泰葉のこの呼びかけにセリナが答えました。その案を聞いたゆみも乗り気になります。
「確かに今度は違う組み合わせも新鮮でいいかも」
「これは燃えるっス!」
ルルは話を聞いた時点で早速じゃんけんをする気になっています。ここまで来たら、もうこの案を採用するしかありません。そう言う流れで、みんな誰に言われるでもなく自然に輪になります。輪になったところで、声をかけるのはやはり泰葉の役目でした。
「じゃあそれで決めるね。最初はグー!じゃーんけーん……」
ここでみんなの顔が真剣なものに変わります。この結果で今回のペアリングが決まる……遊びのはずなのに、みんな次に出す自分の手に集中します。
「ぽいっ!」
ペアリングじゃんけんの結果は、チョキが2つにパーが3つとなりました。こうしてペアが自動的に成立します。ペアが決まったところで、泰葉はみんなに話しかけます。
「どう?この組み合わせでいい?」
「私は異存ないっス」
「泰葉とルルかぁ……」
ルルは結果を素直に受け入れたようなのですが、ゆみが少し何か言いたげな感じの反応を示しました。その言葉を聞いた泰葉は口をとがらせます。
「何?不満?やり直す?」
「いや、これはこれでいいんじゃない?」
さっきの言葉が変に誤解されていると感じたゆみは、慌てて取り繕います。どうやらペアリングに不満があった訳ではなさそうです。ただ、確認のために口に出したと言うそれだけの事のようでした。
「アリスも私とでいい?」
「はい、セリナさんよろしくです!」
もうひとつのペアはセリナとルルの2人組。こちらの方はトラブルもなくスムーズにペアリングが成立したようです。こうして準備も終わり、早速お宝探しを始める事になります。
最初こそ乗り気でなかった泰葉でしたが、決まってしまえば一番乗り気になっていました。
「じゃあ、この2ペアでレッツお宝探しー!」
彼女が握りしめた拳を思いっきり振り上げ、そう宣言してゲームは開始されました。2つのペアは折角別れたのだからと、それぞれ別方向から探索を開始します。
まずは泰葉のペアですが、彼女達は1階の部屋を探し始めました。
「さて、おばあちゃんの家をしらみつぶしだ」
「思ったんだけど、おばあちゃんの家なのに勝手に色んな物を触っていいのかな?」
家の廊下を歩きながら、ゆみが心配そうに泰葉に話しかけます。泰葉は拳を顎に当てながら少し考えて、自分の考えを口にしました。
「うーん。家具とかに傷を付けなければいいんじゃない?おばあちゃんはあんまり気にしないよそう言うの」
「一応大事に触っていけばいいか」
孫娘のお許しも出たと言う事で、ゆみも納得しました。ひとつの問題が解決したところで、次は別方向から質問が飛んで来ます。
「泰葉っちもお宝探しの事は聞いてなかったんスか?」
「全然。初耳だったから焦ったよ」
ルルの質問に、泰葉は今の素直な自分の気持ちを吐露しました。このおばあちゃんの企みは彼女の独断専行で、ある意味サプライズのようなものなのでしょう。みんな条件は一緒だと分かったルルは、感心したようにうなずきます。
それから3人はまず一番怪しいと言う泰葉の直感をもとに、玄関から一番近い部屋にやって来ました。
「まずはこの部屋……は何?」
「えーと、確かここはかつてのお父さんの部屋……だったはず……」
彼女は頼りない自分の記憶を引き出しながら、部屋の説明をします。身内がいるならと、部屋のドアを開けるのは泰葉が担当します。つばをごくりと飲み込んでドアを開けると、そこにあったのは沢山の本棚とその本棚にびっしり並べられた本でした。
本棚だけでは収まりきれなかったらしく、部屋のあちこちに無造作に本が積まれています。
積まれている本は雑誌のようで、この部屋の主が部屋を使っていた当時の懐かしい芸能雑誌や漫画雑誌などが並んでいました。その筋の人が見ればお宝の山のようにも見えるのでしょうけど、興味のない3人にとってはただ本が多いだけの部屋にしか見えません。
父親はもうこの部屋を使っていないので、物置状態になっているようです。なのでこの本の全てが父親の所有物と言うより、おばあちゃんが読んでいた本も多くがこの部屋にまとめて置かれているものと思われました。
って言うか、本関係以外の生活道具とかこの部屋にはほとんど見当たりません。この部屋の様子から察するに、余分な物はきっと処分してしまったのでしょう。
この部屋を初めて目にしたゆみは、本だらけのこの状態を見て唖然としてしまったようでした。
「本棚に本がいっぱいだ……」
「これ……何語っスか?」
本棚にしまわれていた本を一冊取り出して眺めたルルは、そこに記されていた日本語じゃない文字を見て困惑しています。
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