レアアイテム争奪戦
第67話 レアアイテム争奪戦 その1
「じゃあ、早速レアアイテム争奪戦を始めようか」
「はい?」
おばあちゃんのその言葉に泰葉は素で聞き返します。彼女以外の4人もまたキョトンとしていました。おばあちゃんは呆れたような顔をして両手を腰にやると説明を始めます。
「まだ分からないかい?お宝探しはここからが本番」
「その話、まだ続いてたの?」
泰葉はおばあちゃんの説明に呆れたように反します。それから周りをキョロキョロと見回して一番説明して欲しい事を口にしました。
「って言うかここどこなの?」
「簡単に言うと異世界さ。別にみんな死んだ訳じゃないよ。最近そう言うの流行ってるみたいだけど」
おばあちゃんのちょっとメタい説明によると、このドアの向こうの世界もまた異世界との事。目の前には青い空と緑が広がっています。絵に描いたような大自然が広がっていますが、その割に異様に静かなのが謎の不気味さを感じさせました。
ここまでの説明を聞いてゆみが口を開きます。
「おばあさんが作った世界、とか?」
「私にそんな力はないよ。私が出来るのはその世界に導く扉を作る事くらいさ」
「つまり、あのドアが……」
おばあちゃんの説明によると、世界には無数の異世界があってそこに通じる扉を作る事なら彼女にも出来ると、そう言う事のようでした。普通なら全く信じられない有り得ないような話なのですが、ここまでにみんな体験してしまっている以上、納得せざるを得ません。
「ここ、危険はないっスか?」
「それは大丈夫なはずだよ。ただ、ここに来たのは10年ぶりくらいだから、その間に何も変化がなければ、だけど」
ルルの質問におばあちゃんはサラッと怖い事を言い放ちます。それを聞いて、笑い事で済まされては困ると泰葉が抗議しました。
「ちょ、怖い事言わないでよおばあちゃん!」
「あはは!大丈夫大丈夫!何かあったら私を思い浮かべな!すっ飛んでいくから!」
真剣な彼女に対し、おばあちゃんは笑いながらこの異世界の安全性を保証します。今までの話を黙って聞いていたアリスがここで満を持したように口を開きました。
「あの……。話を戻していいデスカ?」
「何だい、アリスちゃん」
「さっきレアアイテム争奪戦と言いましたケド」
そう、彼女は冒頭のおばあちゃんの言葉がずっと気にかかっていたのです。
けれど話は脱線するばかり。一向にその話の説明が始まらないので、続きを聞きたい彼女がそれを求めたのでした。
おばあちゃんはいいタイミングだとにやりと笑うと得意気に話を続けます。
「そうだよ。この世界のどこかに私からのプレゼントがある。それを見つけて欲しいんだ。人数分用意はしてあるけど、みんな別々の物だからね。早い者勝ちだよ」
「それは一体何なんデスカ?」
「秘密。見つけてからのお楽しみだよ」
レアアイテム争奪戦の詳細を聞いたセリナがこの話に興味を持ったようです。
「ゲームみたいだね。面白そう」
「まさかセリナが乗り気になるとは……」
彼女の反応に泰葉は目を丸くします。続いてゆみが口を開きました。
「オタクっぽいし、こう言うの得意そう」
「ちょ、偏見入ってない?」
「入ってない入ってない!」
彼女の言葉にセリナは気を悪くします。ゆみは自分の言葉に悪意のない事をジェスチャーを加えて必死に説明します。
こうして誤解も解けた所でみんなで軽く話し合い、折角ここまで来たのだからとおばあちゃんの話に乗る事にしました。
「じゃ、どうしようか。みんなバラバラで探す?それともさっきのチームで続行?」
「全員バラバラは何かあった時に危険だよ!チーム続行で」
泰葉の問いかけにゆみはすぐに自分の意見を主張しました。確かに、右も左も分からないこの異世界でバラバラに行動するのはリスクが高そうです。彼女の意見に異を唱える者はいませんでした。
と、ここでセリナからひとつ提案が上がります。
「そのチームなんだけどさ、またシャフルしない?」
ノリノリの彼女の言葉でしたが、泰葉はその意味が分からず聞き返します。
「え、何で?」
「その方が面白いから」
セリナは新鮮な気持ちでこのイベントを楽しもうと、そう言う提案をしたみたいでした。ニコニコ笑って答える彼女に泰葉は溜息をこぼします。
「……はぁ」
「みんなで好きに決めたらいいよ。私はここで報告を待っているからね」
おばあちゃんは、りんご仲間達のこのやり取りを優しく微笑みながら見守ります。話し合った末にどんな結果になったとしても、決まった事に対して一切口を挟む気はないようです。
「シャッフルいいっスね!」
「ルルも賛成なの?」
「私も面白いと思いマス」
泰葉が呆れている間にシャッフル賛同者は次々に増えていきます。この結果を受けて、セリナがにやりと口角を上げました。
「さて、この時点でもう過半数取れてるんだけど」
複数の人間の意見を統一するのに数の力は非常に有効です。もはやシャッフル派が大多数を占めたと言う事で、泰葉はこの案を飲むしかなくなりました。
「分かったよ!じゃあシャッフルしよう!」
「じゃ、せーの、最初はグー!」
チームシャッフルの音頭はこの案を出したセリナが努めます。そのじゃんけんの結果は――。
「よろしくお願いします、泰葉サン」
「泰葉でいいよ。この際だしフレンドリーに行こう」
「分かりマシタ、泰葉」
泰葉とアリスがペアになり、後の3人がもうひとつのペアと言う事になりました。2組に別れた所で泰葉組が相手のペアの動向を確認します。
「うあっ!向こうのチーム、もう動き始めてる!急ごう!アリス!」
「ハイッ!」
こうしておばあちゃんプレゼンツ、異世界に隠されたお宝を探そうレアアイテム争奪戦の幕が切って落とされたのでした。
さて、泰葉組よりも先に動き出したセリナ、ゆみ、ルルの3人ですが、彼女達は、まず目の前にある森に目星をつけて歩き始めました。
「泰葉達より先にアイテムを見つけようよ!」
「向こうにはアリスがいるからね。彼女が力を使う前に見つけたいよね」
「アリスっちの能力は時間制限もあるし、そんな簡単に力は使わないと思うっスけどね」
3人のチームワークもそんなに悪くなさそうです。これは泰葉組より先にアイテムを見つけられちゃうかも知れません。
その泰葉ですが、何か閃いたのか動き出そうとした所で一旦立ち止まり、おばあちゃんに声をかけます。
「あ、そうだ!おばあちゃん、何かアイテムの隠し場所のヒントはないの?」
「ないよ。こう言うのはノーヒントで探すから見つかった時の喜びも大きいんじゃないか。ま、探すのに手間取り過ぎて泣きついてきたら、その時にはまた考えるかもねぇ」
「その言葉、忘れないでよ!絶対だからね」
流石おばあちゃん、大事な孫の頼みでも公平さを忘れません。それでも本当に困ったら、その時は助けてくれそうです。この言葉を先行組は知りません。
この事が今後のアイテム探しにどう働くかですが、少なくとも泰葉達の心の支えが大きくなった事は間違いないようです。
「おばあちゃん、面白い人デスネ」
「まぁね、こう言う事を考えるのが好きな人だから」
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