第62話 おばあちゃんのおもてなし その4
出されたお菓子はクッキーやらチョコレートやらプチケーキやら、高級なものではありませんが、つまみやすく気安くつまめそうなものばかりです。
それからみんなの前にコップが配られ、大きなペットボトルのジュースがドンと置かれました。コーラにオレンジニュースに乳酸菌飲料と飲み物もまた好きなだけ自分で注いで飲んでと言う事のようです。このおもてなしを前にセリナが代表してお礼をいいました。
「有難うございます、頂きます」
「ゆみちゃん、鈴香ちゃん、セリナちゃんは久しぶり。新人のお2人さんは初めましてだね」
それぞれが思い思いのお菓子とジュースを口に入れ始めた所でおばあちゃんがみんなに声をかけます。以前から面識のあるメンバーはそれぞれ無言で会釈を返しましたが、初対面の2人はそうも行きません。そこで簡単な自己紹介が始まります。
「初めまして。自分、ルルっス」
「初めまして。私はアリスと言いマス」
2人の自己紹介をおばあちゃんはニコニコと笑いながら聞いていました。2人の自己紹介が終わった後、今度はこちらの番と言う事でおばあちゃんも改めてみんなに自己紹介をします。
「ルルちゃんにアリスちゃん、こちらこそ初めまして。泰葉の祖母の千代子です。よろしくね」
次におばあちゃんはお菓子を食べているみんなの前に切り分けたアップルパイを配っていきました。焼きたてほやほやでとても美味しそうです。そのパイを見てピンと来たアリスはおばあちゃんに声をかけました。
「もしかして、このパイッテ……」
「そ、私が焼いたんだよ。泰葉に教えたのはこの私」
おばあちゃんはドヤ顔で胸を張って、それから右手を胸に当てて嬉しそうに答えます。夢中でパイを口の中に放り込んでいたルルも口直しにジュースを一口ゴクリと喉の奥に流し込むと、おばあちゃんの方に顔を向けて味の感想を口にします。
「美味しいっス!」
「美味ぃ~さすが泰葉のお師匠様ぁ~」
ルルが感想を言った後、鈴香もその流れに乗りました。2人からもパイ出来を褒められておばあちゃんは得意げです。
「だろう?遠慮なくどんどん食べてね」
「おばあ様、とてもお若いデス」
アリスはパイの出来もそうですけど、おばあちゃんの容姿の若さに注目しました。おばあちゃんは何も説明されなければ見た目はどう見ても30代前半の若さなのです。見た目が若過ぎておばあちゃんと呼ぶ事すら躊躇してしまう程なのでした。
孫と同世代の若い彼女に容姿を褒められておばあちゃんはニコニコと上機嫌に笑いながら素直にお礼を返します。
「ふふ、有難う」
「で、おばあちゃん、どうして私達を集めたの?」
話が一旦落ち着いた所で泰葉がおばあちゃんに今回の招待の目的について質問します。わざわざリンゴ仲間全員を呼んだと言う事には何かそこに意味があるのではないかと考えたのです。
この言葉におばあちゃんは少しだけ驚いた顔をして、それから悪意のない笑みを浮かべながら答えます。
「新しい仲間が増えたって言うのに、泰葉が一向に招待してくれないからじゃない。私ずっと待っていたのよ」
「本当にそれだけ?」
泰葉は少しだけおばあちゃんを疑っていました。もしかしたら何か企みがあるのではないかと勘ぐっていたのです。おばあちゃんは彼女の気持ちに気付いて、不安を取り除こうと少しおどけ気味に答えました。
「そうだよ?他に何があるって言うんだい?」
「なぁんだ、良かったあ」
念を押してみてもおばあちゃんからは特に何の言動の変化もなかったので、泰葉はここでようやく安心します。孫娘の信頼を勝ち得たおばあちゃんはくつろいでいるみんなを一通り見回すと、リンゴ能力とうまく付き合えているかどうかの質問をしました。
「で、みんなどう?能力とうまく折り合いつけてる?何か不安な事とかあったら相談に乗るよ」
「不安はないっスけど、そもそも力を使う事自体がないっスね」
おばあちゃんの質問に最初に答えたのはルルでした。最初に答えた彼女に興味を持ったおばあちゃんはもう少し詳しく訪ねます。
「ルルちゃんはどう言う能力?」
「物理的パワーアップ系っス。まぁ体力を使う事では全然疲れなくなったのは嬉しいっスすね」
「アリスちゃんは?」
ルルの能力を把握したおばあちゃんは次にアリスに質問の矛先を向けました。突然声をかけられた彼女は焦ってしまってうまく答えられません。
「わ、私も能力は全然……」
うまく言葉が紡げなくて困っているアリスを見た泰葉は彼女をフォローしようと助け舟を出します。
「アリスは1日に10分しか力を使えないんだ。それ以上使おうとすると酷い頭痛になるんだって」
「あれまあ、それは大変だ。ごめんね、私のリンゴでそんな事になって」
アリスの能力の症状を知ったおばあちゃんは同情してすぐに彼女に謝りました。謝罪の言葉を受けたアリスはまたまた焦ってすぐに言葉を返します。
「で、でも能力は使おうと思わない限り発動しまセンシ、今はもう大丈夫デス」
「そっか、力のコントロールは出来るんだね。良かった。で、ゆみちゃん達の調子はどう?」
さっきまでの質問で新人2人の状況をある程度把握出来たので、今度は既存の能力者に現在の状況を尋ねます。質問されたゆみを含む3人はまるで申し合わせたかのように順番におばあちゃんに返事を返しました。
「私は大丈夫」
「私もお~」
「問題ないです」
全員の返事を聞いたおばあちゃんはみんな何の問題を抱えていないと分かってニッコリと笑顔になります。
「うんうん、それは良かった」
ニコニコ笑うおばあちゃんを見た泰葉は、おばあちゃんに今の仲間の繋がりについて説明しました。
「今じゃみんな能力とかは関係なく仲良し友達グループだよ」
「それがいいね、能力なんて出来れば使わない方がいいんだ」
この発言からおばあちゃんは能力について、余り使うべきではないと言うスタンスを取っていると言う事が分かります。能力の話が出たついでに折角だからと、泰葉はこの間会った同じ能力を持った娘達の事を口にしました。
「そう言えば、青リンゴの能力者の子達がいたよ。やっぱりアレっておばあちゃんの昔の知り合いが関係しているの?」
「かも知れないねぇ。確か会ったんだろ?どうだった?」
おばあちゃんの荒唐無稽な昔話に出てきた青リンゴの話と、青リンゴ仲間との関係について彼女は肯定も否定もしない態度を取ります。青リンゴ仲間の印象を聞かれた泰葉はその時感じた事を素直に口にしました。
「能力のレベルが違ってたよ。向こうの方が断然便利そうだった。瞬間移動とか、人の心を読んだりとか……」
「流石青リンゴだね。羨ましいと思ったかい?」
「それは……ちょっとだけ」
おばあちゃんに追求された泰葉は少し言い辛らそうにしながら、でも自分の気持ちを否定せずに正直に答えます。その答えにおばあちゃんはニッコリ笑うと、青リンゴの事を少しだけ教えてくれました。
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