第61話 おばあちゃんのおもてなし その3

 彼女の答えを聞いた泰葉は驚いて思わず大きな声を上げてしましました。セリナの住むマンションは駅から近いので、早く辿り着くのもある意味当然とも言えます。

 ですが、早く着くならギリギリまでのんびりしてしまう泰葉にとって早めに着いてみんなを待つと言うそう言う行動を取れる彼女がすごく真面目で立派なもののように感じられるのでした。


 次に口を開いたのはゆみです。彼女は右手を腰に当てながら話します。


「来た時にはセリナがもう待っていて驚いちゃった。で、私がここに着いたのが10分前」


「私はその次デシタ」


 その話し方からみてアリスはゆみが着いてすぐくらいに駅に着いたようです。そんな風にみんなが駅前に来た時間を確認し合っていると、時計の針が待ち合わせの時間になりました。その場にいたみんなが時間をそれぞれの方法で確認していると、ちょうどそこにルルがやって来ます。


「みんな早いっスね!」


「体育会系なのに待ち合わせ時間ギリギリとか」


 泰葉は自分が2番目に遅かった癖に、ここで1番最後に来た彼女にツッコミを入れます。ルルは苦笑いをしながら遅れた理由を口にしました。


「家を一旦出てたんスけど、忘れ物しちゃって」


「ミスは誰にでもあるよ、遅れなかったんだから上出来」


 彼女の遅れた理由を聞いたセリナが早速フォローを入れます。ここでひとり足りない事に気付いた泰葉は周りをキョロキョロ見渡し始めました。


「あれ?そう言えば鈴香は?多分遅れてるんだろうけど」


「鈴香ならホームのベンチで寝てるよ」


 この疑問にはゆみが答えます。きっとまた遅れているのだろうと思っていた泰葉はその意外な言葉に目を丸くしました。


「え?そうなの?」


「私が引っ張ってきたんだから遅れる訳ないっしょ」


「流石はゆみ。頼りになるねえ」


 ゆみはいつも遅れがちな鈴香を起こして一緒に駅に来ていたのです。待っている最中に眠気を訴えた鈴香をゆみは先に乗り場に行くように伝え、そこのベンチで休むように告げていたのです。

 と、言う訳でルルが駅についた時点で全員が揃ったと言う事になります。時間も待ち合わせの時間になったと言う事で、早速泰葉はみんなに声をかけました。


「じゃ、みんな揃ったし、行こっか」


「すぴぃ~」


 おばあちゃんの家に向かう方向の乗り場では、ゆみの言葉通り鈴香がベンチに座って休んでいました。もうすぐ電車がホームに入ってくる時間なのですぐにゆみが彼女の身体を揺さぶって起こします。


「もう時間だってば。早く起きて、電車が来るよ!」


「ふぁ~い……」


 鈴香が面倒臭そうに立ち上がった所で、ちょうどタイミング良く電車がやって来ました。電車のドアが開いて乗り込むと、ちょうどベンチシートひとつ分まるまる空いています。ここがいいとそこにみんな並んで仲良く座りました。全員が椅子に座った所で電車が動き始めます。


 泰葉の隣に座ったセリナが早速彼女に話しかけました。


「そう言えば、明美には言ったの?」


「うん、驚いてた」


「それだけ?」


 ガタンゴトンと揺られながらセリナの質問に泰葉は簡潔に答えます。あまりにその答えが簡潔過ぎてセリナは少し戸惑いました。


「それだけだったよ。まぁ、夜目がきく程度の事だしね。原因が分かって安心したのか、逆に面白がってくれたよ」


「そっか、それなら良かった」


 泰葉の話によれば、明美はそのリンゴ能力の事を知って、それでも怖がらずに受け入れてくれたみたいです。事の顛末が分かってセリナもほっと胸を撫で下ろしました。

 電車はその後ものんびりとレールの上を時刻表通りに走っていきます。ここでまだ土地勘のないアリスが、これから向かう目的地について改めて泰葉に質問しました。


「おばあちゃんの家までは遠いんデスカ?」


「ここから最寄りの駅までは電車で1時間位かな。駅を降りてからはバスで10分位で、バス停を降りた後は徒歩で2~3分ってところ」


 泰葉は自分がおばあちゃんちに行く時の事を思い出しながら丁寧に説明しました。明確な答えを聞けてアリスも満足そうです。


「すぴ~」


「外の景気を眺めていたらきっとすぐだよ」


「そうデスネ。楽しみマス」


 それからは全員がそれぞれに他愛もないおしゃべりをしたり、背後の車窓を眺めたり、鈴香は眠っていたりしながら目的の駅までの約1時間はあっと言う間に過ぎていきました。

 駅について改札を抜けると、泰葉の地元とは違う景色が目の前に広がっています。彼女は多く背伸びして深呼吸しながらみんなに声をかけました。


「さあ、ここからはバスだよ~」


「泰葉!」


 みんなが駅から出た所で泰葉を呼ぶ声が聞こえて来ます。その声の方向に彼女が顔を向けるとそこには手を振るおばあちゃんが待っていました。


「おばあちゃん?」


「さ、みんな乗って」


「車、どうしたの?」


 おばあちゃんは普段車には乗っていません。免許は持っていますが、普段の移動は公共機関か自転車で済ましています。彼女曰く体を動かすのが好きなのと、普段車に乗る程の長距離を移動する事もないと言うのがその理由でした。

 それなのに今日は車で来ています。泰葉の疑問におばあちゃんはニッコリ笑って答えます。


「借りて来た。折角みんな来てくれたんだしね」


「たったこれだけの為に?勿体ないよ」


「いいじゃないか。私にもおもてなしさせておくれよ」


 重ねて言いますが、この駅からおばあちゃんの家まではバスで10分程。普通に考えて、わざわざ車を借りて移動する程の距離でもありません。それでもおばあちゃんは少しでも折角来てくれた孫娘とその友達を、どうにかおもてなししたかったようです。


 泰葉はこのおばあちゃんの行動に軽くため息をこぼすと、仕方ないのでみんなを彼女の乗って来た車に呼びました。泰葉を含む6人はそれだけの人数を収容出来るバンにゾロゾロと乗り込みます。最後に乗り込んだアリスがスライドドアを閉めながら返事をします。


「全員乗りマシター」


「じゃ、行くよお」


 全員乗り込んだ所でおばあちゃんが車を動かし始めました。最近は全然乗っていなかった為か、彼女の運転は超安全運転です。昔はレーサー並みに荒い運転をしていた頃もあったと言う話ですが、今ではその面影はどこにもありません。制限時速40kmの道では40km、30kmの道では30kmとすごくゆっくりと丁寧に走ります。信号でも黄色信号で律儀に止まる程でした。

 そんな超安全運転の車に乗っていたルルが泰葉に声をかけます。


「おばあちゃん、サービスいいっスね」


「そんな離れてないからすぐ着くんだけどね」


 ルルの言葉に泰葉は苦笑いで答えます。その彼女の話の通りに車移動は10分程度で終わりを告げました。


「到着~」


 おばあちゃんは家の前でみんなを下ろすと、車庫に車を入れに行きます。鍵を渡された泰葉がドアを開け、みんなを家に入れました。

 おばあちゃんの家に上がった6人は、泰葉の案内で取り敢えずリビングの椅子に座ります。それから少しして、おばあちゃんが沢山のお菓子を持って現れました。


「ようこそ我が城へ。さ、好きなもの食べてね~」

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