第60話 おばあちゃんのおもてなし その2

 こうして多少のトラブルのあったアップルパイパーティーも無事終了しました。そうそう、この会話に参加していなかったゆみと鈴香ですが、パーティー自体には当然参加しています。ただ、いつものように鈴香が途中でダウンしちゃって、その介抱にゆみがかかりっきりになっていただけ。

 ある意味それもまたこのアップルパイパーティーのお約束の光景でした。


 そうして片付けも打ち上げも終わってみんなが帰った後、ひとりになった泰葉はおばあちゃんに電話で相談します。


「そうかい、またそのパターンの子が現れたのかい」


「もしかしたらその日限りの能力者って申告していないだけで他にもいるのかも……」


「そうだねぇ。不思議に思っている子もいるかもねぇ」


 おばあちゃんは泰葉のその考えを肯定します。自分の把握していない能力者が生まれている可能性を考えると、彼女は段々不安になって来ました。


「どうしよう?これからもパーティ続けていてもいいのかな?」


「続けるか止めるかは自分の心に従うといいよ。何、きっと悪い事にはならないさ。手に余る力を得たら絶対泰葉に相談するだろうしね」


 不安がる泰葉におばあちゃんは優しい言葉をかけます。このアドバイスを受けて彼女はやっと安心出来たのか、声に明るさが戻って来ました。


「うん、そうだね。怖くなったらこっそり普通のりんごを使うようにするよ」


「あはっ。それはいい」


「我ながらナイスアイディアだよ!」


 こうして泰葉の相談はうまい具合に解決しました。キリが良いからとここでおばあちゃんにお礼を言って電話を切ろうとしたところ、今度は彼女の方から泰葉に声をかけて来ました。


「そうだ!今度みんなを連れて遊びにおいでよ」


「え?どうしたの急に」


「泰葉が作ったリンゴ仲間達に会いたくなったのさ」


 おばあちゃんのこの突然の提案に泰葉は驚きました。そう言えば、高校に入って出来たリンゴ仲間をおばあちゃんに紹介していなかった事を彼女は改めて思い出します。リンゴはおばあちゃんから貰っているものだし、やっぱりおばあちゃんには紹介すべきだと泰葉は改めて思い直しました。


「じゃあ、ちょっと相談してみるね」


「うまく話がついたら連絡しておくれ、おもてなしの準備をしなくちゃだからねえ」


 次の日、昨夜の電話の内容を泰葉はすぐにみんなに向けて話します。


「……と、言う訳なんだ。みんな予定とかある?」


「泰葉のおばあちゃんちに?」


 この話に最初に反応したのはセリナでした。彼女がリンゴ能力に目覚めたのは14歳の頃です。泰葉のおばあちゃんには2回会った事があります。小学生の頃に目覚めたゆみや鈴香に比べたらおばあちゃんとの面識はあまりありません。そんな彼女ですが、この話には興味津々のようです。


「うん、理由はよく分かんないけど、会いたがってるんだ」


「私は行ってもいいよ」


 セリナが乗り気になっていると、すぐにゆみが言葉を続けました。


「おばあちゃん、久しぶりだなぁ」


「行~くぅ~」


 ゆみに続いて鈴香も乗り気のようです。この話の流れの雰囲気に興味を抱いたのか、ルルも身を乗り出して反応しました。


「泰葉っちのおばあちゃん、私も会ってみたいっス!」


「わ、私も会いに行っていいのデスカ?」


 みんなが乗り気になっているので、このビックウェーブに乗り遅れまいとアリスも会話に参加します。これで全員の了解が取れた事になります。泰葉は余りに話がうまく進んだ為、思わず口を開きました。


「おお、みんな予定開いてるの?珍しいね」


「どうせ日時とか決めてないんでしょ?みんなの開いている時間で調整しよう」


 行き当たりばったりの彼女の性格を見越して、ここでゆみが場を仕切ります。そんな言われ方をしたので泰葉も不満を顔に出すのですが、彼女が何もしなくてもそのまま話を進めてくれるのでしばらく任せてみる事にします。


「こう言うのはNGの日を聞いていけば自然に決まるんだよ。はい!NGのある人挙手!」


 そのままゆみは元気よくハキハキと仕切り始めます。この質問にすぐに手を上げたのが体育会系で部活持ちのルルでした。


「今度の土日は無理っス!来週なら行けるっス!」


「じゃあ来週の週末がNGの人挙手!」


 ゆみはすぐに来週の予定をみんなに聞きます。今度は誰も手を上げません。どうやらみんな来週は予定が空いているみたいでした。この様子を見た鈴香が眠そうな声で感想を漏らします。


「いないねぇ~」


「よし、決まり!」


 と、言う訳でゆみが仕切ったおかげであっと言う間におばあちゃんに会う日が決まりました。この結果に泰葉は感心します。


「すごい、あっと言う間に決まっちゃった。やっぱゆみは仕切りの才能があるよ」


「どうだ!褒めろ褒めろ!」


 泰葉に褒められてゆみの鼻は伸びまくりました。ドヤ顔で胸を張るその姿を見てみんなで笑い合います。それからもっと具体的な事を決めていったのですが、彼女の仕切りのおかげで特に詰まる事もなくスムーズに全て決まっていきました。


「そうかい、流石ゆみちゃんだねぇ。分かったよ。来週の週末にはしっかりおもてなしをしてあげるからね」


 決まった事を電話で報告すると、おばあちゃんもゆみの事を大層褒めます。友達が褒められるのが嬉しくて泰葉の心はポカポカになりました。


 それから時間はあっと言う間に流れて、おばあちゃんに会う日がやって来ます。出かける支度をした泰葉はナリスに見送られて家を出ました。待ち合わせ場所はベタですが駅前です。おばあちゃんの家には電車に乗っていくので待ち合わせ場所を駅前にするのが色々と都合がいいんですね。


 彼女が駅前に着くと見知った顔が既に顔を揃えているのが見えました。そこにはゆみとセリナとアリスの姿が確認出来ます。泰葉の姿に気付いたゆみがすぐに手を上げて彼女に声をかけました。


「おーい!」


「お、みんな早いね」


 ゆみの呼びかけに気付いた泰葉は脳天気に彼女に声をかけます。先に来ていた事もあってゆみは泰葉に軽く皮肉を返しました。


「言い出しっぺが遅れるってどう言う事よ?」


「や、遅くはないでしょ。みんなが早いだけで」


 この会話を聞いていたセリナはすぐにスマホを取り出して時間を確認します。


「確かに待ち合わせ時間までまだ5分あるか」


「みんなどれだけ早く来たの?」


 ほぼメンバー全員が揃っていたのもあって、泰葉はみんながいつここに来たのか興味を抱きました。この質問に最初に答えたのはセリナです。彼女は別に何でもないと言う風な顔をしながら口を開きます。


「私は15分前」


「わ、早っ!」


 彼女の答えを聞いた泰葉は驚いて思わず大きな声を上げてしましました。セリナの住むマンションは駅から近いので、早く辿り着くのもある意味当然とも言えます。

 ですが、早く着くならギリギリまでのんびりしてしまう泰葉にとって、早めに着いてみんなを待つと言う行動を取れる彼女がすごく真面目で立派なもののように感じられるのでした。

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