第58話 YOUは何しに? その6
「はぁ~空も高いしいい気持ちだねぇ~」
「天高く馬肥ゆる秋だねぇ~」
彼女の言葉に呼応してゆみも同じように背伸びをします。それから5人はみんなで揃って市民の森の隅々まで歩き回りました。気をつけてみてみるとこの施設は色々な所に細かい仕掛けがあったりして、中々見る人を飽きさせません。みんな好奇心を総動員してこの大掛かりな公園を楽しみました。
「あのォ~、スミマセーン」
「えっ?私?」
5人が市民の森を堪能して一休みにしていると、さっきの海外の旅行者の彼が泰葉に話かけて来ました。流石日本に訪れる旅行者です。片言とは言え、しっかり日本語で話しかけてきました。この突然の状況を前に当然のように泰葉は混乱します。
「シャッター、押してもらっていいデスカ~?」
「あ、はい……」
旅行者の彼にデジカメを手渡されて、シャッターをポチり。この時、泰葉は興奮状態で訳が分からない事になっていました。写真を撮り終え、渡されたデジカメを返す時に、自然に質問が口から飛び出します。
「こ、こちらには観光で?」
「ソウデ~ス。ここからの景色、スバラシイ~。これからお城にもイキマ~ス!」
「よ、よい旅を……」
短いやり取りでしたが、貴重な国際交流が出来て泰葉は魂が抜けたようにポーッとしています。これもさっきの彼が日本語で話しかけて来た事とイケメンだった事が原因だと思われます。そのどちらかが成立していなければここまで精神力を消費していなかった事でしょう。
彼が視界から消えた後も挙動不審になっていた彼女の背中をセリナはバシンと強めに叩きます。
「良かったじゃん、海外の人と話せて」
「う、うん。日本語話せる人で良かったよ……」
「本当にそれだけぇ~?」
「ほ、本当だってば!」
彼女にからかわれた泰葉は顔を真っ赤にさせながら反論します。その様子を他の3人はニコニコと笑いながら眺めているのでした。
こうして思わぬハプニングと言うか幸運と言うか奇跡が起こった市民の森観光も終わりを告げます。5人は改めてこの施設の素晴らしさを知り、満足したようでした。
ツアーはこれで終わり、そこから先は解散と言う事でバラバラに停めたそれぞれの自転車を駐輪場から引っ張り出しながら、みんなは別れの挨拶をします。
「今日は結構面白かった。またこう言うのやろう」
去り際にセリナが泰葉に声をかけました。泰葉も手を振ってその言葉に答えます。
「それじゃあまたね」
「いい休日を過ごせたっス!また明日っス!」
ルルも泰葉に声をかけ、帰っていきます。その後ろ姿を見送っていると背後から鈴香の恨めしそうな声が聞こえて来ました。
「猫カフェ~」
「分かった分かった、じゃあ今から一緒に行こ」
この企画が始まった時から猫カフェに行きたがっていた鈴香の要望を受け、ゆみがなだめるように声をかけています。この心強い援軍の参戦で彼女の心はすっかりいつもの平和モードに戻るのでした。
「行く~。泰葉またね~」
全員が帰っていくのを確認して泰葉も自転車のヘルメットを被ります。こうしてシルバーウィークの一日は過ぎていきました。あまり地元の事をよく知らなかった彼女は、このツアーを通じて地元の魅力を再発見出来て地元愛を深めます。
ナリスにもいい土産話が出来たなと、そう思いながら泰葉は家に向けて自転車を漕ぎ始めるのでした。
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